
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:山内潤也/YM ARCHVES ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
初の対米輸出車にして初の4ストビッグバイク
1966年から発売が始まったW1シリーズは、近年ではカワサキの歴史を語るうえで欠かせない名車と言われている。それはたしかにそうなのだが、W1シリーズの開発経緯や当時の評価は、後に世界を席捲した500/750SSやZ1/2のように、準備万端で順風満帆と言えるものではなかった。
【1966 KAWASAKI 650-W1】前任に当たるスタミナK1/K2がシックな佇まいだったのに対して、アメリカ人の好みを念頭に置いて生まれたW1シリーズは、当時の日本車では異例となる、メッキ+キャンディカラーの外装を採用。撮影車は1968年から発売が始まったW1S(スペシャル)の前期型。
最初に大前提の話をしておくと、W1シリーズの原点は、メグロがBSA・A7を規範にして設計を行い、1960年から販売を開始した500ccのスタミナK1である。
そして1960年以降の業務提携を経て、1964年にメグロを傘下に収めたカワサキは、K1の後継機種として1965年にK2、1966年に排気量を650cc(実際は624cc)に拡大したW1を発売する。ところが驚くことに、4ストビッグバイクの経験が皆無だったカワサキがこの2台に費やした実質的な開発期間は、どちらもわずか1年少々だったのだ。
その理由は、K2は東京オリンピック用の白バイとして納入するため(1964年に納入し、市販は1965年から)、W1は創設直後のアメリカンカワサキの要求に応えるためだが、初の4ストビッグバイク、初の対米輸出を意識した車両という事実を考えると、1年少々の開発期間は短すぎたと言える。
結果的に当時のカワサキが行った作業は大改良に留まり、エンジニアが思い描いた改革(OHC化や潤滑方式の刷新など)は一部しか実現できなかった。ただし、当時の国産最大排気量車にして、カワサキの大改良で抜群の信頼性を獲得したW1シリーズは、日本市場では大ヒットを記録している。
スタミナK1/2では白バイを除くと、合計で2000台以下だった生産台数は、1966~1967年型W1では3282台に増加し、以後は1968~1969年型W1スペシャル:4848台、1970~1972年型W1SA:9870台、1973~1974年型W3:4330台が販売されたのだから。
もっとも、当時のカワサキが新天地としての希望を抱いたアメリカでは、W1シリーズは大苦戦を強いられ、わずか数年で市場から撤退することとなった。その一番の理由は、高速域で発生する過大な振動と言われたものの、パワーユニットの外観からBSAの雰囲気が消せなかったことも、不振の一因だったのかもしれない。
とはいえ、W1シリーズを通して4ストとビッグバイクの基本を学んだからこそ、以後のカワサキは国内外で、数多くの成功を収めることができたのである。
KAWASAKI 650-W1 DETAIL
【誕生から半世紀以上が経過した現在も、根強い人気を維持】北米市場では成功を収められなかったものの、日本市場でのW1シリーズは、長きにわたって根強い人気を維持。昨今ではハードルが低めの旧車として、若年層やリターンライダーからも注目を集めている。その背景には独特の乗り味やルックスに加えて、同時代の海外製ビッグバイクと比較すると価格が安い、リプロパーツが潤沢、構造がシンプルでいじりやすい、などという事情があるようだ。
アメリカ人の好みを意識したハンドルはかなりのアップタイプで、全幅は865mm。純正オプションとして一文字タイプも設定されていた。
K1/K2と初代W1ではヘッドライトボディに内蔵されていたメーターは、W1Sからセパレート式の別部品に変更。初期型はメーター下部に富士山型オーナメントが備わる。
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