
ホンダは「Fの後継というより、新しいCB像の提案」と説明するCB1000Fコンセプト。とはいえ多くのライダーが1979年に登場したCB750F/900Fを想起するのは間違いのないところ。そこでプロにCB1000Fコンセプトのデザイン解説をしてもらいつつ、“オリジナルF”との違いも説明してもらうことにした。
●文:ヤングマシン編集部(マツ)
【今回のPRO解説者】以前にはネオクラ車の解説記事もお願いしたバイクデザインのプロフェッショナル。1980年代前半に某社に入社したベテランで、オンロード系をメインに排気量の大小を問わずさまざまな機種を手がけてきた。
CB-Fコンセプトを現代スポーツネイキッドの流儀に
最初に、今回私は写真でしかCB1000Fコンセプトをしか見ていないことをお断りしておきます。実車が発する雰囲気までは分からないため、誤解を生む可能性はありますので、そこは差し引いて読んでください。
最初に感じたのは、2020年に発表れたCB-Fコンセプトを、ベースがCB1000RからCB1000ホーネットへ変わったことを受けて、大きくアップデートしたデザインだという印象です。CB-Fコンセプトでは繋がっていたサイドカバー〜テールカウルが別体になったりしていますが、全体的な佇まいはCB-Fコンセプトを下敷きにして、現代のスポーツネイキッドの流儀に沿って組み立て直したデザインだと感じます。
CB-FコンセプトはオリジナルのCB750F/900Fのムードをかなり意識していたのに対し、CB1000Fコンセプトはベース車に合わせた各部の適正化など、本格的な市販を目指したプロポーション変更に伴い、よりオリジナリティを加味していると感じます。現代のディメンションはライダーのヒップポイントが前方に移動してきているので、昔のようなロングタンクのデザインはどうしても作れない。そのため、CB1000FコンセプトはオリジナルFのエッセンスを取り込みつつ、CB-Fコンセプトよりモダンなアプローチを意識してまとめようとしたのでしょう。
ホンダCB1000Fコンセプト
【CB−Fコンセプト】2020年のモーターサイクルショー公開を目指してホンダが開発したスタディモデル(ショーはコロナ禍で中止)。ベース車はレトロモダンな直4カフェのCB1000Rで、ホーネットが母体のCB1000Fコンセプトとは基盤が異なる。往年のFをオマージュしたデザイン重視の車両で、実走行はできなかったという。
ちなみにオリジナルFの特徴は、全体的なラインが実におおらかで、ヘッドパイプからリヤカウルへスーッと流れる、流麗でエレガントな雰囲気にあります。加えてポイントとなるのが、ライダーの着座位置を中心に緩く折ったような“サバ折り”のフォルム。ヒップポイントを起点に、タンクは高いヘッドパイプめがけて、テールは車両後端に向けてせり上がっていく、この緩いV字フォルムが特徴です。
しかしCB1000Fコンセプトにこの流れは見られず、メインシート座面からタンク下端ラインに繋がる勢いが、低めのヘッドパイプに向けてスパッと勢いよく抜ける、水平基調の直線的なラインが強調されています。タンクのアウトラインもスムーズにサイドカバーに繋がるオリジナルFに対し、CB1000Fコンセプトは意志を込めた強い折れを持って、タンク上面の勢いを後方に逃がしています。
【オリジナルFは”サバ折り”】シート座面から燃料タンクにかけて、ヘッドパイプ方向へ水平基調のラインを持つCB1000Fコンセプト。今風のモダンなフォルムだ。対してオリジナルFは着座位置を起点に、緩やかなV字型のサバ折りラインを描くのが特徴。燃料タンク上面のラインの違い(CB1000Fには明確な”折れ”がある)にも注目。
また、写真ではCB1000Fコンセプトはタンク幅がかなり広く見えます。ホーネットのプラットフォームだと、左右のメインフレームを避けねばならないうえに、ダウンドラフトのエアクリーナーで内側をかなりえぐられますから、タンク容量を稼ぐには横方向に張り出させる必要があります。オリジナルFは比較的スリムなタンクの流れをリヤカウルの大胆なフィンで止めている様なイメージがありますが、CB1000Fコンセプトのマッシブなタンクから小ぶりなリヤカウルへと抜ける逆のボリュームバランスは、今のバイクらしい佇まいですね。
幅広なタンクから小ぶりなテールカウルへと繋がる、近代的な佇まいのCB1000Fコンセプト。対してオリジナルFは、スリムなタンクから大きなフィンを持つテールカウルへと繋がる、逆のボリュームバランスを持つ。
オリジナルに寄せすぎない”迷いのない潔さ”
もう少し細かくタンクを見てみましょう。オリジナルFはタンク下端のシーム溶接のラインの上に、斜め上に向かうプレスラインが1本走っていますが、この2本のラインが作る三角形のキャラクターが特徴となって、先ほどの“サバ折り”感を強く印象付けています。
対してCB1000Fコンセプトはシームとプレスラインがほぼ水平で、加えてタンク前端にカクカクと、2箇所の折れがありますが、この2つ目の折れるポイントをオリジナルFより前方に置いてタンク全体のフォルムに安定感を与え、バイクの重点がより前方にある様に見せています。この折れを後方に引けばオリジナルFには近づきますが、短くなる傾向のタンクの勢いと力強さを出すために、あえての意思を入れた処理だと思います。
CB1000Fコンセプトはシーム溶接とプレスラインがほぼ水平で、タンク前端の折れはライダーに近い側をオリジナルFよりも前方に配置。そのため、折れと折れの間隔はオリジナルFよりもかなり短い。この処理はタンクのフォルムをより長く見せ、安定感を与える狙いと思われる。
このタンクに連なるサイドカバーやテールカウルは小ぶりで、コンパクトな外装で強靭な足まわりを強調する、現代流のセオリーです。サイドカバーにオリジナルFのような3本線を入れたり、テールももっとフィンを大きくする案もあったでしょうが、そうした小細工をしていないのも迷いを感じなくて潔いです。
そういう意味では、意見が割れそうな液晶メーターもコンセプトとしてのバランスは取れています。ここに砲弾メーターを付けると他にもノスタルジック要素が欲しくなる。シンプルなテールランプも整合性はあるし、今回は未装着のウインカーも今風の小型タイプとなるでしょう。オリジナルFとまったく同じスタイリングセオリーをホーネットベースで再現できるかというと、おそらくそれは難しい。だからCB1000Fコンセプトは次世代に向けて新たな解釈を模索したのでしょうし、現代のディメンションや使用する骨格を考慮した、理路整然としたアプローチだと感じます。
ただ気になる点もあります。まずはタンク下の黒いカバー。ニーグリップの補助や内部を隠す目的があるようですが、タンクのシームラインを隠していて、サイドカバーへつながるラインに段付きが生じているのが少々もったいない。もうひとつはシートレール。ピボットプレートとの接続部でパイプを曲げ、角度を変えているようですが、重量物を支える構造物なだけに、心理的にはまっすぐであって欲しかった(笑)。もちろん強度などに問題はないでしょうけどね。
写真と実車の印象は、やはり異なる
最後に今回、さまざまな角度から撮影された写真を眺めているうちに、やや俯瞰で人の目線ぐらいの高さから見ると、CB1000Fコンセプトはいい雰囲気を持っていそうだと感じました。タンク下端のシーム部がフレームを包むように湾曲していますが、これがまっすぐ、前にスッと抜けるアングルから眺めるのが個人的には好ましいと感じます。実車を見る機会があれば、印象はいろいろと変化しそうです。
デザインって、発表された直後は大なり小なり拒否反応が出るものです。でも実車が市場に出回りだすと、途端に誰も何も言わなくなる。雑誌やWEBの写真から受ける印象と、街中やディーラーで実車を見た時の印象ってやはり違うんです。私が冒頭で“あくまで写真を見た印象”と前置きしたのはそれが理由で、“現物を見たら印象が違った”って経験は誰にでもありますよね?
自分の中に刷り込まれたイメージとのギャップというものは、まずは違和感としか受け止められませんから、それが時には批判につながる。なのでCB1000Fコンセプトを見て「う〜ん」と唸っているオリジナルF愛好家の方もいるかもしれませんが、まずは実車をじっくりと眺めてみることをお勧めしたいです。そこにはデザイナーが腐心したアイデアや思いが、たくさんこめられている事をジワっと感じられるはずです。
見る人や見る角度によっても印象を変えるCB1000Fコンセプト。それだけに、まずは実車で雰囲気を確認してほしい!
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