そろそろ開催時期を変更することもご検討を

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.128「暑すぎた鈴鹿8耐、SSTはしばらくBMW・M1000RRの天下になりそう」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第128回は、今年も監督として参戦した鈴鹿8耐について。


Text: Go TAKAHASHI Photo: Toshihiro SATO, Daisuke HAKOZAKI

ミシュランパワーGP2

11月以降の開催ならGPライダーも参戦しやすいかも

遅ればせながら、鈴鹿8耐はHRCが3連覇を成し遂げましたね。個人的な予想では「YARTが勝つかな」と思っていたので、HRCの優勝はちょっと意外でしたが、高橋巧くんはもちろん、名越哲平くんも速かったし、MotoGPライダーのヨハン・ザルコもしっかりと耐久レースを理解した安全な走りで、大きな成果を得ました。

EWCレギュラーチームのYARTはかなりの速さを見せましたが、トップ10トライアルでの転倒がすべてでしたね……。あれですっかりペースが乱れてしまったように感じました。

チームHRCは3連覇、ホンダとして30勝目、さらに周回数の新記録を樹立した。

トップ10トライアルでは転倒もありつつ首位を確保したYARTだったが決勝では僅差の2位。

今年の8耐は、去年よりもお客さんの数が多いように感じました。予選~決勝の3日間で観客数は5万6000人。去年は4万2000人とのことですから、30%以上増えていることになります。コロナ禍を経て、「少しずつでもお客さんが戻ってきているのかな」と、うれしくなりました。

ただ、暑い(笑)。参戦する方は好きでやっているからまだしも(笑)、お客さんは本当に大変です。日陰のない観客席で観ている方も多いですしね……。メディアの皆さん、特にカメラマンさんたちはピットまわりでは耐火服を着て撮影していることもあって、今年はかなりキツかったという話も聞きました。

夏の猛暑はハンパじゃないし、そろそろ本気で開催時期の変更を検討してもいいんじゃないかと思います。今年はMotoGPライダーのザルコが参戦しましたが、ドゥカティのフランチェスコ・バニャイアも参戦したがっているそう。思い切って11月後半や12月前半の開催にすれば、MotoGPライダーももっと参戦しやすくなり、8耐も盛り上がるのではないでしょうか。

チームとして2年連続優勝を狙ったが……

僕は今年の8耐もNCXX RACING with RIDERS CLUBのチーム監督として参加させてもらいました。結果は、レース後の車検で失格……。去年はNST(ナショナルストック)という8耐独自規定のクラスで優勝しましたが、今年は今まで通りのSST(スーパーストック)へと変更。それに伴ってのテクニカルレギュレーションの変更点の理解に不足がありました。

EWC(世界耐久選手権)としては、これまで以上にSSTクラスへの参戦を増やしたいようです。そのこともあって、レギュレーションをより厳格に適用するという姿勢を示した形ですね。レースをする限り規則は守るべきものですから、仕方がありません。

ライダーの成長を促すべく積極的なコミュニケーションを心掛けたという原田哲也監督。

ただ、例え失格ではなかったとしても、クラス優勝は厳しかったと思います。決勝レース中に転倒もありましたが、それを抜きにしてもやはり厳しかったでしょう。

SSTクラスは改造範囲が厳しく制限されているため、ほぼ市販車と同じ状態でレースを戦うことになります。そして今年の8耐SSTクラスでは、BMW M1000RRが1-2フィニッシュを決めています。M1000RRは、市販状態からリヤまわりがクイックリリース対応タイプになっています。一方僕たちのチームが使っているYZF-R1Mは通常のリヤまわりなので、タイヤ交換にかかる時間がまったく違うんです。

どれぐらい違うかと言うと、1回のタイヤ交換作業で20秒ぐらいは差が出ます。今の8耐は非常にシビアなタイム争いが展開しますので、ピットワークでの20秒差は致命的です。

しかもM1000RRは、エンジンも速い! ストレートではEWCクラスのマシンを抜き去るシーンも見られました。今後数年、SSTクラスはM1000RRの天下になると思います。

来年のことは何も決まっていませんが、もしNCXX RACINGがYZF-R1Mを使うなら、選択肢はふたつあります。ひとつはEWCクラスにスイッチすること。改造範囲が広がるのでクイックリリースも導入できますが、その一方で、勝負できるマシンを作るためにはパーツ代だけで4ケタ万円と、莫大な費用がかかります。

もうひとつは、SSTクラスに継続参戦すること。これは国産4メーカーのマシンを使うチーム共通の課題になると思いますが、クラス優勝を狙うのは厳しく、目標を大きく変えざるを得ません。でも、現実的な選択です。

耐久レース対応のYZF-R1が欲しい!

こうなると国産4メーカーに「耐久レース対応のスーパースポーツモデルを!」と期待したくなりますが、ユーロ5+だ、ユーロ6だと言われているこのご時勢、このカテゴリーにさらに投資することは、メーカーにとっても相当厳しいでしょう。

YZF-R1に関して言えば、ユーロ5+が適用されるヨーロッパでは今後公道用としては継続販売せず、レースベース車両としてのみ販売されるとか。レースベース車両はレースに出て勝ちを狙う人たちが買う特化型モデルです。多少値段が上がっても、耐久レースに対応してくれないものでしょうか……。

そういえば全日本ロードJSB1000クラスでは水野涼くんがドゥカティ・パニガーレV4Rで優勝しましたよね。SBKファクトリーマシンとは言え、チームカガヤマはプライベーター体制。それでヤマハ・ファクトリーチームに勝ったのですから、本当に素晴らしい偉業だと思います。

加賀山就臣監督は「これで国内の各メーカーが全日本ロードレースに力を入れてくれれば」と言っていました。いちレースファンとしては「そうなるといいなぁ」と思うのですが、さっきの8耐SSTクラスの話と同様、メーカーはシビアな経営判断をせざるを得ないでしょう。ホント、難しい時代になったものです……。

Supported by MICHELIN

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。