ヤマハでは軽二輪クラスに249ccのYZF-R25と、155ccのYZF-R15という2台のフルカウルスポーツを用意している。“車検がなく、維持しやすくて高速OK!”という大枠のキャラクターは一緒であるはずだけど、一体どうキャラクターが違うのか? 実際にYZF-R25とYZF-R15を同条件で比較試乗してみることにしよう!
●文:谷田貝洋暁 ●写真:富樫秀明 ●BRAND POST提供:YAMAHA [Y’S GEAR]
メーター読み145km/hが可能なYZF-R15
高速道路も走れる軽二輪クラス。排気量で余裕のあるYZF-R25が有利なのは当たり前である。ただR25とYZF-R15の比較試乗と聞いて誰もが気になるのは「R15は155ccという、125cc+αの排気量で高速道路をまともに走ることができるのか?」というところだろう。
R15は、249ccのR25に対し94ccも排気量が少ない。225ccの空冷単気筒エンジンを搭載していた、かつてのセロー225などは100km/h出すのもやっとという感じだったのに、いくらR15が水冷エンジンとはいえ155ccではかなり不利なんじゃ…なんて考えながら高速道路へ乗り入れたのだが意外や意外。R15の走りがいいのである。
合流レーンで速度を上げていくと、80km/hぐらいから直進性が強まりピタッと車体が安定するのを感じる。本線に合流してみれば、排気量が155ccしかないのに100km/h巡航はもちろん、120km/hでもまだまだエンジンに余裕があることに驚かされる。
排気量を感じさせない、R15の余裕のある走りはやはり可変バルブ機構のVVA(バリアブル・バルブ・アクチュエーション)によるところが大きいようだ。低中回転域と高回転域で吸気側のカムプロフィールを切り替えるVVAは、約7000rpmを境に高回転向けの設定へと切り替わるため、中低速での力強いトルクを確保しながら1万rpm以上の高回転域までしっかり回り切るエンジンになっているのだ。
ちなみに筆者はクローズド環境でR25とR15を試乗した経験があるのだが、その時のメーター読みの最高速度を参考までに書いておくと、R25が175km/h(6速:1万2500rpm)、R15が145km/h(同1万2000rpm)だった。
ただし高速道路での快適性に関しては圧倒的にR25に軍配が上がる。エンジンの余裕はもちろんだが、やっぱりアップライト気味の余裕あるポジションが楽なのである。ステップポジションもR15ほどバックステップ設定ではないので、膝の曲がりにも余裕があって快適。同じ姿勢で長時間走り続ける高速道路で快適なのは明らかにR25の方である。
さらに大きく立ち上がるカウルにより、防風性もR25の方がいい。スポーティーなスタイリングのR15はレーシングライダーよろしくしっかり伏せる必要があるが、R25なら体が起き気味のツーリングポジションでもしっかりと風を防いでくれる。
もちろん“できるかできないか?”の話をすれば、R15で長距離のツーリングだって可能だろう。ただし下半身による車体ホールドを行い、上半身を固定する技術を身につけておかないと、長時間の運転では腕や首あたりに大きな負担がかかることになるのもまた確かなのだ。
ワインディングでもキャラの違いは明確
ステージを高速道路からアップダウンのあるワインディングに移してみると、俄然R15のコーナリング性能が際立ってくる。強めの前傾をもたらす低いハンドルと後退気味のステップのおかげでコーナリング中の荷重コントロールがしやすいのだ。車両重量も141kgとR25より28kgも軽いため、当然ながら動きもクイックに感じる。
R15にはショートサーキットでの試乗経験もあるのだが、バンク角の深さも十分だったし、2〜3速のギヤ比の設定が絶妙でしっかりスポーツライディングが楽しめるのが印象的だった。また、VVAのおかげで低速トルクがしっかり出ており、コーナーの立ち上がりでも押し出し感のある加速をする。155ccという小さめの排気量ながらあっぱれと言いたくなるスポーティーな走りが楽しめるのだ。
一方249ccのR25はというと、これはこれで面白い。単気筒よりも高回転で有利な2気筒の特性や、94cc分の排気量の優位性を感じられるし、車体がやや重めなところがまた楽しい。単純に速く走らせようと思えばR15の方がコーナリングスピードは高そうだが、重さのあるR25(車重は169kg)の方が操っている感がしっかり強く味わえるというのもまた確かなのだ。
R25はR15のような軽々しさがないというか、いい意味でマシンの挙動がおっとりしているのだ。そもそもスポーツするつもりがないのなら、少々乱暴なシフトダウンをしてもリヤタイヤがホッピングしにくいなど、R25の乗りやすさが光る場面も多い。このあたりにも“毎日乗れるスーパーバイク”というキャラクターがよく表れている。
軽量コンパクトな車体で、ふだん使いはどちらも便利!
最後は一般道。通勤通学などふだん使いするイメージで街中を走らせてみる。足着き性に関しては前述したとおり、R25が780mmなのに対し、R15は815mmと35mmほどの差はあるもの、跨ってみるとわずかにR15の方が高く感じる。どちらにせよ172cmの筆者の体格だと踵が着くのは変わりない。
ただ、押し歩きとなると話は別で、R15の141kgという圧倒的な軽さが際立った。R25の169kgが重いというわけではないのだが、装備重量で28kgもの差があれば、比べてしまえば差が出るのは当たり前。R15は、125ccのバイクを押しているような気分になるぐらい軽い(実際、兄弟車にはYZF-R125が存在するわけだが)。
面白かったのは最小回転半径だ。数値的にはR25が2.9mでR15が2.8mと数値的には10cmほど差があるものの、実際に郊外によくあるような1車線道路でUターンしてみると、どちらも目一杯寄せたところからフルロックでなんとか回り切れるという感じ。若干R15の方が楽な気がするものの、大差ない印象だったのだ。
びっくりしたのはR15の発進から常用域までの加速の良さだ。155ccという排気量でしかも高回転側がよく伸びるとなると、低中回転域のトルクが希薄になるのが道理というものだが、下がなくてスカスカなんてことはなく、発進からしっかりと押し出し感がある。ワインディングでも感じたことだが、R15は排気量以上の力強さがあるのだ。
加速自体は排気量が大きく、パラツインらしい伸びやかな吹け上がりのR25には敵わないものの、R15に小排気量車によくある非力さや、加速の弱さからくるストレスみたいなものは感じない。このあたりもVVAの恩恵とみて間違いないだろうし、シグナルダッシュでも4輪車を置き去りにできるぐらいの加速をしてくれる。R25とR15、どちらを選んでも街中の使い勝手は良好だ。
ライディングポジションの差に設計思想がよく表れる
R25のシート高が780mmなのに対し、R15は815mmとやや高め。しかし、実際に跨ってみると35mmもの違いは感じない。たしかにR15の方が膝の余裕は若干なくなるものの、両車とも踵までベッタリという、足着き性のよさは変わらない。
ただ、上半身のポジションは大きな違いがあり、アップライトな楽チンポジションのR25に対し、R15はやや前傾がきつめでスパルタン。シートの高さに対して、ハンドルが低くセットされている印象があり、R15の方がスポーツバイクとしてのキャラクターを強めに設定していることがよくわかる。ステップもR15はややバック気味で、快適性よりもスポーツ性を優先しているようだ。
実際、2台を並べてみると明らかにR25の方がハンドルの設定位置が高く、それに合わせてスクリーンやミラーの装着位置も高い。このあたりがR25の“毎日乗れるスーパーバイク”たる所以であり、快適性にも配慮していることが窺える。ちなみにスポーティーなポジション設定のR15には、純正アクセサリーとしてシート高を28mm下げられるローダウンリンク(8250円)が用意されている。
まとめ:欲しいのは快適性?それともスポーティさ?
同じ軽二輪クラスに属するYZF-R15とYZF-R25。フルカウルというキャラクターも被っていて“ほとんど違いなどないんじゃないの?”なんて試乗前は思っていたのだが、実際に乗り比べてみればまったくキャラクターが違うことが確認できた。
両車ともワインディングを楽しめるし、高速道路だって余裕を持って走れてしまうが、わかりやすく2台の選び方を述べるなら「高速道路を使った移動が頻繁にあるなら快適なR25」「スポーツライディングを楽しみたいならサーキットでも遊べるR15」と言ったところ。約15万円という価格の差以上に、しっかりとキャラクターの棲み分けができているのだ。
テスター谷田貝の「2台のココがイイ!!」
僕が気に入ったR25のポイントは、設計思想がしっかり表れた「楽ちんポジション」とパラレルツインならではの「伸びのいいエンジン特性」だ。一方、R15は141kgという「125ccクラスの軽さ」と、最新のYZFシリーズに通じる「凄みの効いたデザイン」が気に入った。とくにヘッドライトまわりのデザインはYZF-R7などの兄貴分達にも負けない迫力がある。
R15の、この低く構えたデザインをR25で成立させるとしたら、ハンドル位置をかなり下げる必要がありそうだ。つまり“毎日乗れるスーパーバイク”というコンセプトを捨てる必要があるかもしれない。スタイリングにもそれぞれの立ち位置が現れているのだ。
YZF-R25
YZF-R15
軽二輪YZF・ディテール比較
【YZF-R25】兄貴分は2014年登場のロングセラー
“毎日乗れるスーパーバイク”をコンセプトに2014年12月に登場したYZF-R25(型式名RG10J)。すでに登場から10年近くが経過しており、2019年にはフロントフォークの倒立化やフロントマスクのデザイン刷新を含むモデルチェンジを行なって現行型(型式名RG74J)へと進化している。
【YZF-R15】後発の弟分は豪華装備が自慢
2008年にインド市場で発売され、日本では2023年10月にデビューしたYZF-R15(型式:RG86J)。軽二輪クラスとしては排気量が少なめの155ccであり、高回転には向かないとされる単気筒エンジンだが、高回転と低回転で吸気バルブのカムプロフィールが切り替わるVVAを搭載。低速トルクと高回転側の伸びを両立させている。
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