MotoGPのグランプリコミッションは、2027年から導入する新しいMotoGPマシンのレギュレーションを発表した。レースをより安全かつ持続可能なものとするため上がり過ぎたスピードを抑制し、各種デバイスを制限することで接戦を演出することが狙いだ。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:Michelin, MotoGP ●外部リンク:MotoGP
最高速度は2023年に366.1km/hを記録、もはやサーキットが対応できない
MotoGPマシンは、2010年代中盤の時点ですでに300馬力を超えており、ドゥカティのマシンに至っては350馬力を超えるという説もあるほど。2023年のムジェロサーキットではKTMのブラッド・ビンダーが長いメインストレートで最高速度366.1km/hを記録している。これはあくまでもレース中の記録であり、滑走路などを使えば400km/hに迫ることも容易と言われている。
さらにはタイヤの高性能化によってコーナリングスピードも上がっており、バンク角は65度を超える。イン側に大きく身体を落とすライダーの重心も加味した実バンク角で言えば、さらに深くなっていくのは想像に難くないだろう。
たとえばモビリティリゾートもてぎでは、2000年にバレンティーノ・ロッシがNSR500で記録したレース中のコースレコード1分50秒591に対し、2022年にはドゥカティのジャック・ミラーが1分45秒198を記録し、じつに5秒以上もラップタイムが短縮されているのだ。
こうした状況から、サーキットのランオフエリアがどんどん広がってきたのだが、すでにコースによってはスピードに対応しきれない状況になってきている。
これに対応するためにはスピードを落とすしかない。グランプリコミッションは5月6日、2027年から導入する新しいレギュレーションを策定したと発表した。まずは排気量を下げることで最高速度を低下させ、乱流を起こすことで競り合いを難しくさせているというエアロダイナミクスを制限、さらに車高デバイスを廃止し、全てのライダーのGPSデータに全てのチームがアクセス可能になるという。
リリースの文言によれば「3年後にプレミアクラスで導入される新しいバイクは、より道路関連性と効率性が高く、世界的な持続可能性を推進し、さらに優れたレース、そして、より多くの追い越しが可能となるように設計」とあるが、“道路関連性”とは、より公道を走るマシンに近い姿と技術を用いたものになるという意味に受け取れる。
ただし、上がり続けるコーナリングスピードに対する解決策は特にとられていないように見えることから、この新レギュレーションでどこまで状況が変わるのかは始まってみないとわからない部分もありそうだ。
公式リリースによる新レギュレーションは以下のとおり。
エンジン
最大排気量が『1000cc』から『850cc』に変更。この縮小により、最高速度が低下し、スポーツがより安全になり、走行距離の増加により、より効率的で持続可能なものになる。
最大ボア径は『81mm』から『75mm』に変更。この縮小により、パフォーマンスが制限され、エンジンは『MotoGP™』を素晴らしいものにする特性を維持しながら、エンジンが道路関連性をより高いものにする。
スポーツをさらに効率化するため、シーズン中に各ライダーに許可されるエンジンの使用基数は最大7基から6基に変更される。
燃料
既に発表されているように、2027年から『100%』持続可能な燃料を使用。これは2024年に導入された最低『40%』からの前進であり、新しい規則の一環として、燃料タンク容量は『22L』から『20L』に減少され、ティソ・スプリントでは『11L』の燃料タンク容量が許可される(ショートレースにおける現行の燃料タンク容量は『12L』)。
エアロダイナミクス
ネガティブな影響を最小限に抑える目的として、エアロダイナミクスが減少され、より厳密に管理されることになり、フロントフェアリングの上部幅は『50mm』(現行『600mm』から『550mm』)狭くなり、ノーズは『50mm』後退し、ストレートやブレーキングエリアといった最も重要なところでの空力効果を減少されることから、追い越しがさらに多くなり、より接戦となる可能性がある。
テールに関しては、2027年からホモロゲーションの対象となり、また、チームがコストを抑えるために、シーズンごとに1回のアップデートが許可される。
ライドハイトデバイス/ホールショットデバイス
2027年からライドハイトデバイス及びホールショットデバイスといった全てのデバイスは禁止。この不許可により、パフォーマンスがコントロールされ、特にレーススタート時において、スポーツがより安全になる。
また、エアロダイナミクスの減少が、追い越し能力を高めることを目的としているのと同じように、ライダーのスキルがさらに重要視される。
GPSデータ
競争をさらに平準化するために、全てのセッション後に全てのライダーからのGPSデータを全てのチームが利用可能となる。全ての参加者にデータを提供することで、パフォーマンスの低いチームやライダーに、管理されたコストで、進歩の機会が提供される。
この範囲のデータにアクセスできれば、スポーツの安全性が高まるだけでなく、世界中のファンが利用できる知識のレベルも向上する。
コンセッション
2023年シーズン終了の際に導入された現行のコンセッションシステムは継続されるが、2027年に新しい技術規則が施行されるため、全てのファクトリーは、『B』ランクからシーズンを始め、シーズンの途中、2027年の夏に再び評価され、ランクの変更により、より多くの、またはより少ない譲渡にアクセスできるようになる。
この反応型システムは、メーカーのパフォーマンスが初日から考慮され、新しい時代が始まるときに可能な限り競争の場を維持することを意味する。
ライダーにとって、スポーツにとって、そしてスペクタクルにとって、2027年の『MotoGP™』は、これまで以上に安全で、持続可能で、さらに壮観なものになるだろう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(モトGP)
現地だからこそわかるMotoGPライダーの凄さ MotoGPは第16戦日本GP(モビリティリゾートもてぎ・10月4日~6日)を迎え、北関東は大いに盛り上がっている。ワタシももちろん現地におり、さらにマ[…]
レース直前でも買える席はココ! それぞれのポイントは? 9月末現在で残っているシートはのは、ビクトリースタンド(V席)/グランドスタンド(A席)/V字コーナー席/Z席/G席の5種類。オーバルサイドコー[…]
国内チーム応援メニューがズラリ! ボリュームたっぷりで大満足間違いなし ※今回ご紹介するメニューは取材時点の試作品につき、一部変更される可能性があります。 レプソルホンダ応援バーガー(カフェレストラン[…]
本物のMotoGPパーツに触れ、スペシャリストの話を聞く 「MOTUL日本GPテクニカルパドックトーク」と名付けられるこの企画は、青木宣篤さんがナビゲーターを務め、日本GP開催期間にパドック内で、Mo[…]
マルク・マルケス(ドゥカティ) マルク・マルケス選手はスペイン出身のオートバイレーサーで、「現役最強のライダー」とも名高いレジェンド選手です。 5歳の頃からオートバイに乗り始めたマルケス選手は、オフロ[…]
最新の関連記事(レース)
現地だからこそわかるMotoGPライダーの凄さ MotoGPは第16戦日本GP(モビリティリゾートもてぎ・10月4日~6日)を迎え、北関東は大いに盛り上がっている。ワタシももちろん現地におり、さらにマ[…]
レース直前でも買える席はココ! それぞれのポイントは? 9月末現在で残っているシートはのは、ビクトリースタンド(V席)/グランドスタンド(A席)/V字コーナー席/Z席/G席の5種類。オーバルサイドコー[…]
国内チーム応援メニューがズラリ! ボリュームたっぷりで大満足間違いなし ※今回ご紹介するメニューは取材時点の試作品につき、一部変更される可能性があります。 レプソルホンダ応援バーガー(カフェレストラン[…]
本物のMotoGPパーツに触れ、スペシャリストの話を聞く 「MOTUL日本GPテクニカルパドックトーク」と名付けられるこの企画は、青木宣篤さんがナビゲーターを務め、日本GP開催期間にパドック内で、Mo[…]
Screenshot 英米で争われる「トランスアトランティックレース」のDVD化シリーズ、5月24日発売の第1弾(1984)、7月24日発売の第2弾(1985)、そしてこれらに続く第3弾が9月24日に[…]
人気記事ランキング(全体)
エンジンもシャーシも一気に時代が進む 第1回の記事では、新型CB400がトータルバランス路線を取り、77psを発揮するカワサキZX-4Rのような高性能路線には踏み込まない…という情報に対し、プロは「バ[…]
日本で登場したときの想定価格は60万円台か カワサキはタイに続き北米でも「W230}を発表。空冷233cc単気筒エンジンはKLX230のものをベースとしているが、レトロモデルにふさわしいパワー特性と外[…]
世界初、デイタイムランニングライトにウインカーを統合 ホンダは欧州で新型「X-ADV」を発表。ヘッドライトまわりを含むフェイスリフトに加え、テクノロジーやオールラウンドな扱いやすさに磨きをかけたという[…]
1441cc、自然吸気のモンスターは北米で健在! かつてZZ-R1100とCBR1100XXの対決を軸に発展し、ハヤブサやニンジャZX-12Rの登場からのちにメガスポーツと呼ばれたカテゴリーがある。現[…]
車検のある機種は熊本製作所で作る? 新開発の400cc4気筒エンジンを搭載し、CB400スーパーフォアの後継機として、開発中のホンダ新型CB400。WEBヤングマシンでの注目度もとても高く、2025年[…]
最新の投稿記事(全体)
世界屈指のバイクを味わい尽くすには、日本最高峰の鈴鹿サーキットをおいてほかにない 近畿/東海圏でBMWディーラーを展開するミツオカグループ(光岡自動車)。店舗ごとにさまざまなイベントを随時開催している[…]
違いますよね、分かってます。でも比べてみたんです。 原付二種・異種格闘技戦勃発?! 今回は人気の125ccの中から趣味性の高いマニュアルトランスミッションモデル、いわゆる“ギヤ付き”のヤマハXSR12[…]
エンジンもシャーシも一気に時代が進む 第1回の記事では、新型CB400がトータルバランス路線を取り、77psを発揮するカワサキZX-4Rのような高性能路線には踏み込まない…という情報に対し、プロは「バ[…]
2024 MotoGP日本グランプリが開幕(10/4) FIM(国際モーターサイクリズム連盟)が主催する世界最高峰の二輪レース「2024 MotoGP™ 世界選手権シリーズ」の第16戦・日本グランプリ[…]
まるで極楽浄土に迷い込んだような景色 例年は、9月ごろが見頃の埼玉県日高市の巾着田の曼珠沙華。2024年は暑さが長引いたせいか、10月前半が見頃とのことで、さっそく、日高市に向けてツーリングに出かけた[…]
- 1
- 2