
コロナ禍によって起きたバイクバブルが終わり、新車・中古車や用品の販売状況もコロナ前に戻りつつあるいま、せっかく増えた新規ライダーを含む多くのライダーに、バイク業界側は何を提供しないといけないのか。誰もがバイクの楽しさを享受できる持続可能なバイクライフをこの先も継続するための考えを聞いていく。今回は、ドゥカティのファクトリーマシンでのJSB参戦が話題を呼んでいるDUCATI Team KAGAYAMA代表の加賀山さん。理事長を務める「モトライダースサポート」で数千人規模のライダーイベントを実施するなど、バイク業界の活性化にも尽力されていることでも有名だ。加賀山さんが考える、持続可能なバイクライフのための施策についてお聞きした。
●取材/文:Nom ●写真:MRS、編集部
【加賀山就臣(かがやま ゆきお)】’74年、横浜市出身。’90年からレース活動を開始し、18歳のときにスズキワークスに入り’95年から全日本選手権に参戦。世界GP/MotoGPにもスポット参戦をする。’03年からブリティッシュ・スーパーバイクにフル参戦を開始し、’05年からはワールド・スーパーバイクに参戦。’07年には、悲願だった鈴鹿8時間耐久レースで優勝する。’11年にTeam KAGAYAMAを発足して全日本選手権に参戦。’21年末に全日本を「卒業」するが、ヨシムラ・スズキ・RIDE WINの監督として’22年、’23年も全日本を戦う。カスタムバイクショップ「RIDE WIN」、一般社団法人MRSモトライダースサポートの代表を務める傍らで、ライダーとしてもカタナや鉄フレームに換装したハヤブサでTOT参戦を続けている。
全日本JSB1000クラスにドカのファクトリーマシンで参戦!
箱根のターンパイクを占有してレーシングマシンなどを走らせるビッグイベントを開催したり、鉄フレームのスズキ・ハヤブサ=「鐵隼(テツブサ)」でテイスト・オブ・ツクバ(以下TOT)に参戦して大勢のハヤブサオーナーをサーキットに集めたりと、常に多くのライダーを巻き込んだ活動をしてきた加賀山さん。
今度は、ワールドスーパーバイク(以下WSBK)で2連覇中のドゥカティのファクトリーマシン、パニガーレV4Rで今年の全日本JSB1000クラスと鈴鹿8耐に参戦することを発表。「黒船襲来」とレース界を激震させている。
「バイクの楽しみ方を提案して、長くバイクに乗り続けて欲しい」、そう考えて行動する加賀山さんの思い、そしてドゥカティでの全日本参戦を決めた理由などをお聞きした。
「ドゥカティを選んだのは、当然、勝ちたいから。勝つためにいいモノを、勝てる可能性のあるものを選んだんです。’80年代からレースをやっていますが、いまの全日本ロードレースは元気がないと感じています。そこで、勝てる可能性のあるドゥカティで参戦して、閉塞感があるレースの現状を変えたいんです。国内メーカーにももっと奮起してもらいたい、本気を出してほしい。だから『黒船襲来』なんです」
唯一ワークス体制で参戦するヤマハの中須賀選手の独壇場になっているJSB1000クラスに、今シーズン、まさしく「黒船」で挑戦することになった経緯をぜひお聞きしたい。
「以前、WSBKに参戦していたときから、ドゥカティコルセ(編注:ドゥカティのレーシング部門、以下コルセ)のパオロ(編注:スポーティング・ディレクターのパオロ・チャパティさん)が可愛がってくれて、いまでも付き合いがあるんで、パオロにパニガーレのキット車を貸してくれないか、ヤマハ、ホンダに勝ちたいんだという内容の企画書を去年の春くらいに渡したんです。そうしたら、面白いと言ってコルセに企画書を渡してくれたんです。
そして昨年10月のもてぎの日本GPのときに、コルセの首脳陣とミーティングになって、『お前の企画は面白い。お前が今までやってきたことも全部調べた。どうせやるなら勝ちにいけ。我々のチャンピオンマシンを使っていい』っていきなり言われたんです。
こっちはパニガーレのキット車でプライベーターとして参戦するつもりだったので、最初は彼らが何を言っているのかよく分からないくらいあっけにとられたんですけど、チャンピオンマシンを借りられるんだと気づき、その場で『やる、やる!』と答えました」
’23シーズン、ドゥカティのアルバロ・バウティスタは36レース中27勝を挙げる圧倒的な強さを見せWSBK2連覇を果たした。ファクトリー仕様のパニガーレV4Rの速さも飛びぬけていて、ライバルの追随を許さなかった。このバイクがJSBを走るのだ!
ドゥカティのファクトリーマシン、それもバウティスタ選手が圧倒的な強さを見せてWSBKを2連覇したパニガーレV4Rを出してくれるなど、にわかには信じがたい話だ。だが、一昨年の末、コルセのゼネラルディレクターを務めるジジ・ダッリーニャさんがドリームチームを作って鈴鹿8耐に挑戦したいと発言したと伝えられた。ドゥカティワークスの鈴鹿8耐挑戦への布石なのだろうか。
「ファクトリーマシンを全日本で走らせて、それを8耐用にモディファイするのが我々の仕事です。WSBK、モトGPでは最強のドゥカティですけど、耐久レースのノウハウはない。でも、我々はそれを持っている。ノウハウを彼らに伝えて、8耐用のパーツ製作もまずは自分たちでやって、そのパーツをコルセに送って確認してもらうという感じでやっていこうと思っています。
それと、VR46アカデミー出身のモトGPライダーたちはペッコ(編注:モトGPを2連覇中のフランチェスコ・バニャイア)も含めてみんな鈴鹿8耐に出たがってるんです。彼らは師匠のヴァレンティーノ・ロッシがやったことはすべてやりたいし、師匠を超えたいっていう思いがあるんですね。
今年は最初の年だから当然苦労すると思いますが、ファクトリーのサポートもあるし、イタリアからメカニックも来てくれます。8耐までにある程度形にしたいですね。そして、来年はフルファクトリーで行けたらいいなと思っていますし、8耐も面白いことになるんじゃないかな」
2月15日にイタリア大使館でマシンを公開。ライダーは昨年までホンダで走っていた水野涼(左写真)。「勝てる体制で走りたい、その先にある世界選手権への可能性が新しいチームへ加入した理由です。自分はレーシングライダーとして長く続けたい気持ちよりも目の前の勝利を求めたい。日本人がドゥカティのファクトリーマシンに乗れるなんて、まずないチャンス。これをきっかけに、バイクそのものの認知度を上げていきたいと思っています」と語ってくれた。
ドゥカティユーザーにもサーキットに足を運んでもらいたい
今年の全日本JSB1000クラスは、いやがうえにも盛り上がりそうだが、加賀山さんは今までやってきたレースの活性化、一般ライダーへの楽しみの提供も継続していくそうだ。
「TOTにカタナやハヤブサで参戦することで、サーキットに来たことがなかったユーザーが筑波サーキットに大勢来てくれました。今年は、たくさんのドゥカティユーザーにサーキットに来て欲しいと思っています。ドゥカティのファクトリーマシンが日本のサーキットを走るなんて’03年のSUGO大会(当時はWSBKが日本でも開催された)以来ですから、絶対に盛り上がりますよ。レース後に、カタナ、ハヤブサ、そしてドゥカティのオーナーたちでパレードしたら面白いでしょうね」
そして、この企画の趣旨と同じく、せっかくバイクに乗り始めたライダーに長くバイクライフを楽しんでもらうことも加賀山さんのライフワークで、そのために「MRS モト・ライダース・サポート」という団体(一般社団法人)を仲間たちと設立してさまざまな活動を行っている。
「発端は、仲間たちと話をしていて、二輪って社会的認知度が少ないし、虐げられていることがいろいろあるよね。都心には駐車場がないし、高速道路料金も軽自動車と同じなんておかしいよって言っていたことです。そんなおかしいことを我々が活動することで変えられるなら、集まって行動してみようといって’21年の12月に設立しました。免許を持っている、バイクに乗っているライダーが楽しめることを増やしたいと思ってますし、オレが理事長なんで当然、モータースポーツも活性化したいと思っています」
バイクの楽しさを知ってもらう、そんなイベントを開催していく
MRSは一昨年の9月に関東圏のライダーにはなじみが深いアネスト岩田ターンパイクの本線を占有して、レーシングマシンやクラシックバイクを走らせ、普段は通行できない125cc以下のバイクでも走行を楽しめるという大掛かりなイベント「モトライダースフェスタ2022」を開催。会場となった箱根エリアに3700人もの来場者を集めた。
「一般のライダーが楽しめるイベントにしようと思って、箱根というブランドとターンパイクっていうツーリングの聖地を舞台に開催しました。販売店さんにも協力してもらって新車を展示したり、ハーレー系も含めたカスタムマシンやクラシックバイクを集め、レーシングマシンをターンパイクで走らせました。走るモーターサイクルショー、走れるモーターサイクルショーが目的で、やっぱりバイクは動いて、音を出してなんぼって思っているので。
自分たちで企画して、自分たちで開催告知をして、それを一般のライダーたちがなんか面白そうだってSNSで拡散してくれてたくさんの人が集まってくれました。
昨年は、3つの会場とターンパイクの箱根伊豆連絡線を貸切って開催して、4000人以上が集まってくれました。
ただ、ちょっと人が集まりすぎて駐車場に入りきれない状態になっちゃったので、今年は場所を変更して開催しようと思っています。候補地はオレの出身地でもある横浜のふ頭を考えています」
一昨年、昨年のモトライダーズフェスタの会場になったバイカーズパラダイスの駐車場には、国産・外車の新車や旧車が勢ぞろいした(写真左上)。ターンパイクの箱根伊豆連絡線の入り口にズラリと並んだレーシングライダーとレーシングマシン。来場者たちにはモータースポーツの雰囲気が強く感じられたはずだ(写真右上)。一昨年は、普段はターンパイクを走れない125cc以下の車両も走行した(写真左下)。駐車場はバイクであふれかえり、今年は会場の変更を検討中(写真右下)。
加賀山さんがいまとても気になっているのが、コロナ禍で移動の手段として免許を取ってバイクに乗り始めたライダーたちのこと。コロナが収まり通常の生活になるとともに、それらの新規ライダーがバイクの楽しさを味わう前にバイクを降りてしまわないかと気がかりなのだそうだ。
「一度バイクの楽しさを味わったら、バイクから離れないことを知っていますから、そういう新しいライダーたちが集まって楽しめるイベントをやりたいんです。ノンジャンルであらゆるバイクが並んでいて、レーシングマシンも置いてあって、レーシングライダーたちがトークショーに出ている。それがきっかけで、レースに少しでも興味を持ってくれた人がサーキットに足を運んでくれたらと思っています。バイクを好きになってもらい、次にレースにも興味を持ってサーキットにも来てくれるようになる。そうするとレース自体も盛り上がってくれる。最終的な狙いはそれなんですよね」
本籍地であるモータースポーツの世界に軸足を置きながら、すべてのライダーにバイクライフを楽しんでもらいたいという加賀山さんの活動に注視し、応援していきたいと思う。
加賀山さんの提言
- パニガーレという「黒船襲来」で全日本ロードレースを盛り上げる
- 鈴鹿8耐までにマシンを仕上げてワークスにノウハウを伝える
- 新規ライダーがバイクを降りないようにさまざまなバイクの楽しさを伝える
日本のレースに立派なホスピタリィティ・ブースを持ち込んだのも加賀山さんが初めて。応援してくれるスポンサーやファンが休憩したり食事をしたりしながらレースを楽しめるようにとの気遣いからで、この後、各チームともこぞってパドックにブースを設けるようになったそうだ。写真は鈴鹿8耐の際のブース。
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