2020年1月19日、埼玉県のサーキット秋ヶ瀬でとんでもないチャリティイベントが行われた。1993年のWGP250ccクラス王者の原田哲也さんと、4輪のGT選手権などで通算7度のタイトルを獲得した本山哲さんが発起人となり、レジェンド級ライダー&ドライバーに現役トップクラスを揃え、普通ではあり得ない超夢空間をつくり上げたのだ!
台風19号の被害に遭ったサーキット秋ヶ瀬を救え!
「2020秋ヶ瀬新春祭り」と題されたチャリティイベントが2020年1月19日に開催された。関東も山間部は雪に見舞われた翌日の日曜日、早朝の冷たい空気の中でスタートした同イベントは、太陽が昇り暖かな小春日和となった日中の気温以上に、さらなる熱気を帯びていった。
2019年秋の台風19号は全国各地に豪雨をもたらしたが、荒川の土手よりも内側という立地のサーキット秋ヶ瀬も被害を受けていた。路面は泥にまみれ、サーキット設備や備品も多くが流され、営業再開までには時間を要した。サーキット秋ヶ瀬で育ち、プロの道へと巣立っていったライダーとドライバーにとっても、“故郷”の状況は気がかりだった。
そんななか、全日本カート選手権からフォーミュラーニッポン、全日本GT選手権へと駆け上がっていったプロドライバーの本山哲さんが、WEBヤングマシンコラムでもおなじみのWGP250ccクラス世界チャンピオンの原田哲也さんとの会話の中で「何かできないか」、「じゃあ、イベントをやろう」となったのだという。
レジェンドふたりが発起人となることで、声をかけて集まったメンバーも普通ではあり得ないほどの豪華な面々に。ライダー界からは、1994年&1998年のWGP125ccクラス世界チャンピオンの坂田和人さん、1995年&1996年の同クラス世界チャンピオンの青木治親さん、そして全日本のなんらかのクラスでチャンピオンを獲得または勝利を挙げたライダー、現役で世界選手権のMoto2やMoto3に参戦しているライダーが次々と参加を表明したのだ。
参加ライダーは以下の通り(順不同・敬称略)。長島哲太、小椋藍、浦本修充、水野亮、名越哲平、榎戸育寛、加賀山就臣、岡崎静夏、岩田悟、小室旭、村瀬健琉、武田雄一、亀谷長純、井筒仁康、鈴木竜生、福田充徳 。
そして参加ドライバーは、日本一速い男・星野一義さんの息子である星野一樹をはじめ、道上龍、武藤英紀、安田裕信、平中克幸、牧野任祐、千代勝正、佐々木大樹という面々だ。
レンタルバイク耐久でスーパースターライダーがチームメイトに?!
最初に行われたのは、レンタルバイクによる1時間耐久レース。これは青木拓磨さんが主催する「Let’sレン耐」から車両の貸与があり、運営システムもほぼそのままというものだ。一般からエントラントを募り、グロムとエイプ100による混走で争われるのだが、ここにくじ引きでスターライダーが各チームに助っ人として参加するという異常事態。これは参戦するチームももちろん嬉しいが、世界チャンピオンや現役スターライダーが同時にコースを走る姿を見られる観客にとっても面白くないわけがない。
あくまでも安全第一に楽しむレースではあるが、あのライダーとあのライダーが戦ったら……という、今まであり得ないはずだった対決が見られるチャンス! じっさい、原田さんのようにオトナの走りに徹するライダーはむしろ少数派!? と言ってよく、あちこちでガチバトルが勃発。レジェンドの凄さに改めて驚かされることになった。
まず盛り上がったのは、ミニバイクで無類の速さを見せるという小椋藍選手と長島哲太選手によるMoto3 vs Moto2バトル。現役ワールドクラスの切れ味はハンパではなく、観客もため息をつくばかりだ。このバトルは小椋選手に軍配が上がった。……ところが、ここに仕掛けていくライダーの姿が。125ccのグロムに乗る亀谷長純選手だ。マシン的に有利な亀谷選手は、あえて直線では抜かずにコーナーで仕掛けていくが、驚くことに小椋選手はこれをことごとくブロックまたは抜き返す。最後はパワーにものを言わせて亀谷選手が抜き去ったが、魅せる戦いを選んだ亀谷選手と小椋選手には惜しみない拍手が送られた。
そして、プロライダーは走行時間が15分以内と決められているため、ライダーは次々に入れ替わっていく。
次に観客を沸かせたのは、2年連続世界チャンピオンで現オートレース選手の青木治親選手と、昨シーズンMoto3で初勝利を挙げ勢いに乗る鈴木竜生選手だ。この勝負は前をキープする青木選手に鈴木選手が仕掛ける展開が続き、そのままレース終盤へとなだれ込むが、ここに超弩級の乱入者が! なんとグロムを駆る坂田和人選手がコースインし、鬼神の速さで全員をブチ抜いていく。「今も速さは変わらない」と各ライダーが口をそろえる坂田選手に2台しかない125cc(他はすべてエイプ100)の組み合わせは、まさしく鬼に金棒。誰も手をつけられない状況になっていったのだった。
同じ頃に、原田さんもコースイン。モナコから帰国したばかりで時差ボケに悩む原田さんは「皆さん、お先にどうぞ~」とばかりに安全運転だ。しかし、コースサイドからは「原田と坂田が一緒に走ってるぞ」「感動した!」「泣きそう」などの声が飛ぶ。ガチモードの坂田選手とツーリングモードの原田さんの間には最後まで争いが起こることはなかったが、ともに走る姿を見られただけで感無量、といったファンは多かったはずだ(筆者もである)。
さらに、青木選手と鈴木選手によるバトルも続いていく。途中で坂田選手が大人げなくブチ抜いていくが、それはともかく見応えのあるバトルがファンを魅了する。最終的には青木選手が前を守り切り、さらにはやや差を広げる形でゴール! 世界チャンピオン3名が同時にコースを走っているという状況だったが、夢だけではない、現実のガチバトルもファンを大いに満足させたのだった。
ちなみに、レースを制したのは「日本一になれた男とダメだった男(チーム名)」で、助っ人ライダーは井筒仁康さんだった。トップでマシンを託された井筒さんは無益な(?)争いに加わることなく、淡々とトップを維持したのである。
ゴール後には坂田選手の大人げない走りを責めるライダーたち、という寸劇が繰り広げられたが、「空気なんて読んでたらレースはできねぇよ!」と、どこまで本気かわからないコメントを残した坂田選手なのであった。
チャリティオークションと、原田哲也さんからの重大発表!
イベントの入場料はサーキット秋ヶ瀬に寄付することが宣言され、続いてチャリティオークションへ。オークションの売上は、同じ台風19号で被害を受けた地域へと寄付することになっており、これは後日報告されるとのこと。
続いて、原田哲也さんから重大発表があった。なんと、現役復帰! という期待の声も飛んだが、さすがにそれはないと笑顔でかわす原田さん。実際に発表されたのは、2020年の鈴鹿8時間耐久ロードレースにチーム監督として参戦するという内容だった。チームは、SSTクラスで上位入賞などの好成績を挙げてきている「Zaif NCXX Racing」だ。原田さんは鈴鹿8耐にはライダーとして監督としても参戦するのは初めてだという。今年の夏もひときわ熱いレースが見られそうだ!
チャリティオークションでは各ライダー&ドライバーの超貴重な装具などが出品されてファンを沸かせた。ちなみに原田さんが出品したのは、現役時代の最後(2002年)に使ったというグローブ。さすがに手を挙げたファンも多かったが、偶然にも現役時代のゼッケン31を思わせる金額で落札が決定した。
バイクパートはプロによる74daijiro(ポケバイ)レースで締め
チャリティオークションの後は、プロライダーによる模擬レース! 模擬と言いつつガチモードのライダーが多いのは、きっと気のせいじゃない。オークションへの出品が済むとそそくさとステージから立ち去り、練習走行に励むライダーたち。これは波乱の予感!? ……といっても、そこはプロ中のプロたちだけに、十分にマージンを取りながらのレースになった。と思われる。
5周で争われることが宣言されたレースは、40ccバージョンと50ccバージョンが混走することに。排気量に応じてスタート位置にハンデが付けられた。ちなみに原田さんは、ポケバイに乗るのは小学生以来、サーキット秋ヶ瀬を走るのも小学生以来である。
グリッド位置は適当に決められ(たように見えました)、全員大人なので窮屈そうにスタート! ここでもガチモードの選手が数人飛び出し、オトナ走りの原田さんは後列からゆっくりスタートした……のだが、2周目に見えないパッシング(別名:ショートカット)が炸裂! 大差をつけた原田さんがそのままトップでチェッカーを受け、場内アナウンスも何事もなかったように原田さんの優勝を告げた。このリザルトが、誰も文句を言えないレジェンドという立場を利用したものだったのかについては今後の審議で明らかになるだろう(なりません)。
そしてレースは第2ヒートへ。これは急きょ逆回りとなったが、原田さんは窮屈すぎて「モモがつる」とのことで不参加。勝利を挙げたのは現役の長島選手……のはずだったが、負けず嫌いを発揮した坂田選手によるマシン不調のクレームによりうやむやに。「坂田選手が勝つまでレースは終わらない」という都市伝説は、もしや本当では? と思わせるコント……じゃなかった、一幕であった。
レンタルカートによるプロドライバーのガチンコ対決も
ポケバイレースに続いて行われた、レンタルカートによる対決は、さらにヒートアップ。ラインの奪い合いで弾き出されたドライバーは水たまりを通ることになり、数名のドライバーが犠牲に。「パンツまでビショ濡れだよ!」と、レース後に言い争いがはじまり、犯人捜しでレース結果はこちらもうやむやに。しかし、なぜかうやむやになったほうが盛り上がるという結果になったようだった。
このほか、バイク同様にプロが助っ人として参加するレンタルカート1時間耐久、74daijiroの選手権レースなどが開催され、暖かい1日となったイベントも終幕。来年度の開催を望む声も多かったが、これについては続報があり次第、お伝えしていきたい。
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