日本最大の草レース「テイスト オブ ツクバ」のKAGURADUKI STAGEが、茨城県の筑波サーキットで11/4〜5に開催された。最速クラスの「ハーキュリーズ」では、Team KAGAYAMAのオリジナルマシン「鐵隼(テツブサ)」を駆る加賀山就臣選手が、3回目の参戦で見事に優勝を達成した。
●文:ヤングマシン編集部(佐藤寿宏) ●写真:佐藤寿宏
動員数は過去最多!! そして鐵隼は3度目の正直
日本一盛り上がっている草レース、テイスト オブ ツクバ(T.O.T) KAGURADUKI STAGEが、11月4日(土)・5日(日)に筑波サーキットで開催されました。今回は13カテゴリーで254台ものエントリーを集め、それぞれ思い入れのあるマシンでアツい走りを見せていました。土曜日は快晴、日曜日はお昼にパラっと雨が降ったものの、両日とも11月とは思えないほどの暖かさとなったこともあり、土日で過去最高となる1万100人を動員しました。
T.O.Tの最高峰クラスとなるHERCULES(ハーキュリーズ)では、Team KAGAYAMAの加賀山就臣が、独自製作の鉄フレームにスズキ ハヤブサのエンジンを搭載したオリジナルマシン「鐵隼(テツブサ)」を駆り、3度目のチャレンジで優勝を果たしました。その勝利は新たな強敵にも打ち勝ったものですが、実は土曜日までは12周のレースを走り切れるかすら分からない状況でした。
この鐵隼は、2022年5月のSATSUKI STAGEでデビュー。最初のレースはSTDエンジンだったこともあり、カワサキ ニンジャH2Rを駆る光元康次郎にストレートでかわされ2位。2度目のレースとなった2023年5月のSATSUKI STAGEでは、エンジンをパワーアップし電気系にGSX-R1000Rのレーシングキットを組み込むものの、直前テストで転倒しマシンが炎上。ギリギリで本戦に間に合わせるものの、予選でも転倒を喫してしまいます。レースでは転倒の影響や、カワサキZRX1200S+新庄雅浩の気合いの走りに抑え込まれたこともあり、またも2位となっていました。
そして、今回の2023 T.O.T KAGURADUKI STAGEを迎えました。前回、欠場していたH2R+光元も復活。そのH2Rに打ち勝つために、鐵隼はエンジンの圧縮比をコントロール。メカチューンを施し、JSB1000マシン並みの200psまでパワーアップ。さらにじゃじゃ馬となったものの、足回りの変更で対応。フレームも青くペイントし、カウルも新しくして見た目もブラッシュアップ。さらに炎上対策としてタンクカバー仕様に変更しましたが、レース後までひた隠しにしていたものの、ココが今回のウイークポイントになってしまっていました。
現役トップライダーが参戦し、あっさりコースレコード!
さらに新たな強敵が現れます。何と2022年シーズンはともに全日本JSB1000クラスを戦った渡辺一樹が、POWER-BUILDERのZ1000RRでエントリー! 賞典外とはいえ、バリバリ現役のトップライダーがT.O.Tでどんな走りをするか注目を集めます。渡辺の駆るマシンは、5月10日に全日本ST1000のSUGOテストで転倒し亡くなった岩﨑朗がライディングし、活躍していたものでした。
「10月に入ってからPOWER-BUILDERの針替代表に話をいただきました。ベースがよかったのですぐ58秒真ん中が出ましたし、大きな変更はしていません。以前に新庄さんのZRX、加賀山さんの鐵隼にも乗らせてもらいましたが、ちゃんとしたショップが作るバイクはしっかりしていますね。ZX-10Rのエンジンをキャブ仕様にしているので、スムーズにアクセルを開けなけらばならない難しさはありますが、タイムも証明しているように、攻めていける車体になっています」と渡辺。
土曜日のプラクティスで57秒848とコースレコードに肉薄した渡辺は、「更新は予選にとっておきます」との言葉通り、予選でまず57秒629を叩き出してレコードを更新すると、さらに57秒390まで縮めポールポジションを獲得。「筑波でクリアラップを取るのは難しく、ベストを出した周も引っかかってしまったので、もう少し詰められれば56秒台も見えたかもしれません。でもテイストですし、そこまでシャカリキになるより、このマシンでここまで走ることをお見せできたと思います」と語っていました。
一方、加賀山+鐵隼は57秒731を出し、自身が2年前にGSX-R1000エンジン搭載のKATANAで出した57秒786のレコードを更新。渡辺は賞典外なため、リザルトでは加賀山のところに“R”マークがあり、正式なコースレコードとなっていました。しかし、それよりも重要なことを加賀山はこのセッションで確認していました。レース後までひた隠しにしていましたが、実はタンクの仕様変更が原因で、5周も走るとガス欠症状が出てしまっていたのです。
これを解決すべく、Team KAGAYAMAの野口裕一メカニックと斉藤雅彦チーフメカニックはミリ単位で原因を追及していきましたが、土曜日の時点ではまだ8周から10周しか走れない状態でした。そこで急きょ、神奈川県大和市にあるTeam KAGAYAMAのワークショップに残っていたスタッフ“ハッシー”こと橋畑脩斗に指示し、アルミの角材を制作。それを日曜日の朝に筑波に持ち込んで予選までに組み込み、ようやくレース周回数の12周を走る目処が立った…というわけです。
決勝は赤旗中断で再スタートに
こうして迎えた決勝は、スタートが得意な加賀山がホールショットを奪い、ここのところ恒例となっている第1ヘアピンへのブレーキングで新庄がトップに浮上。そしてポールポジションの渡辺は…実はこのマシンでスタート練習をしていませんでした。「ウォーミングアップに出ていくときが初めてで、アクセルをあおったんですが、完全にストールしてしまったんです。“やっぱりこういう感じなの?”って思いながら、本番スタートは丁寧に行ったら、全然クラッチをつなげられなくて前に進まず、8番手くらいまで落ちてしまいました。でも12周あるから落ち着いていこうと思っていました」と渡辺。
スタートで出遅れた渡辺は、1コーナーでアウトからまくってポジションアップ。オープニングラップは新庄/加賀山/光元/渡辺の順で続き、この4台がトップグループを形成します。序盤は様子を見ていた加賀山でしたが、4周目のバックストレートで新庄をかわしてトップに浮上します。5周目には渡辺が第1ヘアピオンで光元を、最終コーナーの進入で新庄をかわして2番手に浮上。加賀山に迫ります。
7周目の1コーナーで渡辺が加賀山のインに入りますが、ここはクロスラインとなり加賀山がトップをキープ。しかし渡辺は8周目の第1ヘアピンで加賀山をインからかわしトップに立ちます。この際、加賀山と新庄のラインが交錯し軽く接触。あわやという場面でしたが、うまく回避していました。しかしその直後、ホームストレートで白煙を吹いてしまったマシンがあったために赤旗が提示されます。
大荒れの展開にベテラン加賀山の気合い炸裂!
コースにこぼれたオイル処理の後、残り5周の超スプリントでレースは再開されます。ここで「5周なら息を止めてでも全開でイケる!」と気合いを入れ直したのが加賀山でした。再び得意のスタートダッシュを決めると、レースをリード。最初のスタートより出遅れなかった渡辺がオープニングラップで2番手に上がり、加賀山を追います。新庄と光元はこの2人について行けず、トップ争いは加賀山と渡辺の一騎打ちになります。
第2ヘアピンを立ち上がりバックストレートで一気に差を広げる加賀山に対し、最終コーナーで差を詰めても1コーナーで仕掛けるところまでいけない渡辺は、最終ラップの第2ヘアピン進入でレイトブレーキングを見せインに入る意地を見せますが、加賀山は冷静にクロスラインを取り、前に出ると勝負アリ。加賀山+鐵隼が3度目の正直で勝利を飾る結果となりました。
「3度目のレースで勝つことができて本当にうれしいです。1回目は光元選手のH2Rに敗れ、2回目は炎上から”焼き鳥”呼ばわりされた新庄選手に敗れ、今回は新たに現役バリバリの渡辺選手が参戦。さすがに勝つことは難しいと思いましたが、過去のリベンジを果たし、渡辺選手を抑えての勝利は最高ですね。これも燃料タンクの問題を解決してくれたウチのスーパーメカニックのおかげです。改めて彼らの技術力を自慢したいですね。隼ミーティングに集まってくれた方を始め、応援してくださった皆様、T.O.Tに関わってくれている全ての皆様に感謝いたします」と加賀山。
2番手チェッカーの渡辺は賞典外のため、2位はH2R+光元、3位はZRX+新庄という結果に。「見せ場も作れましたし、ZRX会を始め応援してくれた方に喜んでもらえたので、イベントレースとしてよかったかなと。ライダーとしては悔しい部分もありますが、これもT.O.Tですし、今のパッケージではベストを尽くせたと思います」と新庄。スーパースポーツのエンジンを搭載する車両ばかりの中で、キレのある走りを見せてくれました。また、同じくZRXで4位に入った植垣創平は、レース序盤に上位を走るなど、元気のいい走りが印象に残りました。
また、「ゼッケン39最後の挑戦」と題し、何度もテストを繰り返して久しぶりにT.O.Tに登場したサンクチュアリー+國川浩道は、レースウイークの木曜日に最終コーナーでギア抜けがありコースアウト転倒。その修復に時間がかかり、金曜/土曜は走れなかったものの、ぶっつけで予選をこなして58秒962で6番手と大健闘。グリッドに着いたものの、ウォームアップで電気系トラブルが発生し、エンジンがかからず無念のDNSとなってしまいました。ACサンクチュアリーが細部までこだわって制作したA16R ZレーサーⅢ(オリジナルフレームにカワサキ空冷Zエンジン搭載)の走りを、もう一度レースで見せてもらいたいですね。
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