4月13・14日に行われた2024年MFJ全日本ロードレース選手権シリーズ第2戦、モビリティリゾートもてぎ。日曜日のレース2、スターティンググリッド先頭にあるマシンから外れ、コースサイドのコンクリートウォールにもたれて水野涼はいた。レース人生の中でも最高に勝ちを狙える状態だと自負しながら。
●文/写真:ヤングマシン編集部(佐藤寿宏) ●写真:箱崎太輔
コースレコード更新、セカンドベストで2日目のポールポジションに
全日本ロードレース選手権第2戦が栃木県・モビリティリゾートもてぎで行われました。極寒だった開幕戦鈴鹿から、ようやく暖かくなってきましたが、レースウイークは、木曜、金曜は気温が上がらず、土曜は昼間は暑かったものの、風は冷たかったですね。JSB1000のレース1は、Tシャツで写真を撮っていて、そのままJP250のレースに突入しましたが、動いていれば、まだよかったのですが、最後の表彰式は、クラス表彰が遅れたこともありガタガタ震えながら待っていました。そして、日曜日は、朝から快晴となり、一番気温が上がりました。紫外線が強く、レース後は“すごい焼けたね~”ってけっこう言われました。鏡を見ると、見事な帽子焼けとメガネ焼け……。4月のもてぎで、こんなに焼けたのは初めてのことです。
それはさておき今回も注目は、DUCATI Team KAGAYAMAのPanigale V4 Rを駆る水野涼がヤマハファクトリーに対して、どんなレースを見せてくれるか!? というところでした。レースウイークの前週に行われた公開テストでは、トップタイムをマーク。一方、ヤマハファクトリーの中須賀克行は、雨の中で転倒を喫し、右肩を傷めてしまっていました。
レースウイーク初日、DUCATI Team KAGAYAMA陣営は、公開テストでタイムを出した最終日は気温が低かったことから、コンディションに合わせたアジャストをしていきますが、思いのほか時間がかかっていました。金曜日になって、ようやく合わせられてくると2本目にトップタイムをマークし、予選ではコースレコードを更新。中須賀に次ぐ2番手でしたが、セカンドベストではトップとなりレース2はポールポジションを獲得。日本車以外でJSB1000クラスのポールポジションは、初めてのこと。ドゥカティ全日本初優勝への期待が高まってきていました。
気温が上がり、グリッド上でタイヤ交換
レース1のグリッドでは、マシンから降り、コースサイドのウォールに寄りかかるように座り込んで一人の世界に入っている水野がいました。かなり緊張していたのかな? 集中したかったのかな? と思いながら見ていましたが、そのことを聞いてみると。
「予選まで、走っていて楽しかったですし、レコードも更新できてアベレージもよかった。自分のレース人生の中でも最高に勝ちを狙える状態で臨むレースだったので集中したい思いもありました。ただ、気温も上がったので、タイヤを少しでももたそうとグリッドでタイヤ交換をしたんです。ドゥカティは片持ちスイングアームなので、またがっていられなかったという裏事情もありました。初めてマシンを降りてウォールで一人になりましたが、意外とリラックスできました」(水野)
レース1は、2周目の1コーナーで水野がトップに立つと、そのままレースをリード。これを3周目に2番手に上がって来た中須賀、そして岡本裕生のヤマハファクトリー勢が追う展開となります。ラップタイムは1分47秒台後半と昨年のトップ争いよりも約1秒も速いペースでした。そして、レース終盤となった12周目に中須賀が動きます。ヘアピンで水野をかわしトップに立つとラストスパートに入る。ここで中須賀はファステストラップとなる1分47秒324をマーク。水野も1分47秒355を出し食らいついていきます。この2人のペースに岡本はついていくことができず最後は中須賀と水野の一騎打ちとなりますが、中須賀が水野を抑え切ってチェッカーフラッグを受けました。
「マージンをもってトップを走っていたので、いつ(中須賀が)来るか準備していました。前に出られてからも同じペースで走ることはできましたが、抜く余力はありませんでした。公開テスト、レースウイークといい仕上がりでしたし、手応えもあったので、勝てると思っていました。それでも負けてしまったので、レース1はとにかく悔しかったですね」(水野)
レース1を終え、中須賀の後ろを走ったことで、データと実際に走ったことと違う部分を発見することができたといいます。そこを改善すべく日曜日朝のウォームアップ走行に臨みますが、水野は転倒を喫してしまいます。そこから流れがよくない方向にいってしまっていました。
3レース連続で同じ顔ぶれの表彰台に
レース2は、序盤に出遅れてしまい3番手に上がったときには、ヤマハファクトリーの2人ははるか前を走っており、ペースもレース1に比べると、かなり遅いものでした。チームとしては、暑くなったコンディションに合わせきれなかったと発表していましたが、何か問題を抱えていたように見えました。それでも3位に入り開幕戦から3レース連続で同じ顔ぶれが表彰台に上がる結果になりました。
「去年以上に負けて悔しいと感じましたね。ただ、今回からETSのCN燃料を使って遜色なく乗れましたし、仕上がりはよかったですが、まだ、このマシンの能力を100%使えているとは思えないですから。乗る度にセットアップの方向性も変わってきていますし、電気にしても勉強しながら進歩しています。予選でレコードを出せてアベレージも速くなって、国内最高峰のレベルが上がるのはいいことですし、ミニバイクや地方選手権を走っているライダーに“全日本JSB1000クラスを走るのが目標”と思ってもらえればうれしいですね」
まだまだ発展途上の状態でヤマハファクトリーとトップ争いを繰り広げているのは驚異的なことと言えるでしょう。ドゥカティサイドとしてもブリヂストンのデータは全くなく、その特性を学んでいる真っ最中だと言う。次戦SUGOも事前に公開テストがあるだけに、ヤマハファクトリーとの対決が楽しみなところです。レベルの高いレースになることは間違いないですし、コースレコードが更新される可能性は高いでしょう。
「もてぎの反省を生かして、SUGOに対してどう臨むかを考えていますが、やることだらけです。レコード更新はもちろん、アベレージも上がるでしょう。中須賀さんの頬のこけを見ても本気で戦ってくれていますし、とても光栄なことだと思います。本当に高い壁なので、タイトルを考える上では早く勝ちたいですし、鈴鹿8耐に向けても、いい流れを作っていきたいですね。SUGOは岡本くんも得意としていて3台の戦いになると思うので、どんなレース展開をしていけるか考えるためにも、しっかりマシンを仕上げていきたいですね」(水野)
「ライダー水野にしろ、チームにしろ、マシンにしろ、まだまだ100%は出し切れていない。ヤマハファクトリーとトップ争いをできたとはいえ負けているからね。ヤマハファクトリーも今年は、さらにペースを上げて来ていた。ヤマハというより中須賀なのかもしれないけれど。レース2は、路面温度が前日より15度も上がり、ECUのセットを変えることができず経験不足が出てしまった。イタリアからファクトリーマシンをもってきて、JSB1000ルールの中で、ブリヂストンタイヤに合ったセットを模索しながらやっているんだけれど、セッティングの中で付け替えたいパーツがあって、オーダーしているけれど、もてぎには間に合わなかった。今は日本風にアジャストしていてデータを備蓄している真っ最中。次戦のSUGOは暑くなってくるだろうし、コンディションが安定してくれればいいけれど、暑くなれば暑くなったで新たな問題も出てくるはず。それを乗り越えていきたい」と加賀山就臣監督。
第2戦もてぎは、DUCATI Team KAGAYAMA水野の活躍ぶりを始め、野左根航汰、高橋巧の元JSB1000王者の復帰、DUNLOP Racing Team with YAHAGIの長島哲太の参戦など話題豊富なJSB1000クラスはもちろん、ST1000クラス、ST600クラス、J-GP3クラス、MFJカップJP250の初戦となったことや天気がよかったこともあり、前年よりも多くのお客さんが来場していました。
レースを見たことない人も、ぜひサーキットへ!
原田哲也さんのコラム「今のままではモータースポーツが終わってしまう」も読みました。全日本のエントラントも常に危機感を持っていますし、ほとんど他の仕事をしながらレースをしている人が多いのが現状です。もっとエントラントに負担のかからないスケジュールやシステムにしないと、レースが成り立たなくなってしまう可能性もあります。ボクもレースを生業にしているので、レースがなくなれば仕事がなくなってしまうわけですから危機感は持っています。ただ、レースの魅力は確実にあります。それを微力ながら少しでも多くの方に伝えられればと思い、この仕事を続けています。レースファンの皆さんの周りに、まだレースを見たことがないという人がいれば、サーキットに連れてきてください。
シリーズ第3戦SUGOの公開テストは、5月14日(火)~16日(木)、レース本番は、18日(土)・19日(日)に宮城県・スポーツランドSUGOで開催されます。新緑のキレイな時期ですし、ツーリングやドライブがてら、ぜひサーキットに足をお運びください。
全日本ロードレース写真館
以下は箱崎太輔カメラマンのレース写真を置いておきます。ご堪能あれ!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(レース)
機密事項が満載のレーシングマシンたち バイクムック”RACERS(レーサーズ)”は、「いま振り返る往年のレーシングマシン」がコンセプト。それぞれの時代を彩った、レーシングマシンを取り上げている。 現在[…]
ポイントを取りこぼしたバニャイアと、シーズンを通して安定していたマルティン MotoGPの2024シーズンが終わりました。1番のサプライズは、ドゥカティ・ファクトリーのフランチェスコ・バニャイアが決勝[…]
プロジェクトの苦しさに相反する“優しい雰囲気” 全日本ロードレース最終戦・鈴鹿、金曜日の午前のセッション、私はサーキットに到着するとまず長島哲太のピットの姿を撮りに行った。プレスルームで初日のスポーツ[…]
2024年は鈴鹿8耐3位そしてEWCで二度目の王座に ポップが切り拓き、不二雄が繋いできたヨシムラのレース活動はいま、主戦場をFIM世界耐久選手権(EWC)へと移し、陽平がヨシムラSERT Motul[…]
ポップ吉村は優しくて冗談好きのおじいちゃんだった ヨシムラの新社長に今年の3月に就任した加藤陽平は、ポップ吉村(以下ポップ)の次女の由美子(故人)と加藤昇平(レーシングライダーでテスト中の事故で死去)[…]
最新の関連記事(ドゥカティ)
ミドルSSの究極を目指しフルチェンジ パニガーレはドゥカティが誇るスーパーバイクで、2018年からはV型4気筒エンジンを搭載し、その戦闘力を高めるとともに車名がパニガーレV4となった。そして2020年[…]
スクランブラー誕生10周年。スタンダードモデルと特別仕様車を発表 ドゥカティ スクランブラーは、2014年に登場したネオクラシックシリーズで、1960~1970年代に人気を博したモデルをモチーフとした[…]
熟成度が深まったアドベンチャーツアラー ムルティストラーダはドゥカティのアドベンチャーツアラーで、2021年のフルモデルチェンジで1158cc水冷V型4気筒エンジン『V4グランツーリスモ』を搭載した。[…]
ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S 5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく[…]
全日本ロードレース最高峰クラスで外国車が優勝したのも初 全日本ロードレース選手権シリーズ後半戦のスタートとなる第5戦もてぎ2&4レースで、ついにDUCATI Team KAGAYAMAの水野涼[…]
人気記事ランキング(全体)
様々な使い方や乗り方に応える懐の深さが魅力 2024年上半期、400ccクラスの販売台数でGB350をしのぎトップに躍り出たのがエリミネーターだ。それどころか、大型バイクを含めた車検付クラスでもZ90[…]
Honda & MAAN Motocicli Audaci presentano il “SuperCub 125X” 生産モデルから大幅に逸脱しない設計……だけど雰囲気は一変! 日本でも好評[…]
深みのあるブルーにゴールドのラインとロゴ ヤマハはタイで、日本でいう軽二輪クラス(126~250cc)にあたるネオクラシックネイキッド「XSR155」に新色のダークネイビーブルーを追加発表。従来のマッ[…]
【ドライバー:谷田貝洋暁】本誌ハンターカブ実験担当として渡河性能実験に続き、今回のサイドカーでの高速道路走行実験にも抜擢されたフリーライター。無理/無茶/無謀の3ない運動の旗手。 【パッセンジャー:難[…]
ひと昔のバイクは一年中暖機運転が必須でした 昔のバイク…と行かないまでも、1990年代末ぐらいまでのバイクは、一年中エンジンの暖気が必要不可欠でした。とくに2サイクルエンジン車は、冬はなかなかエンジン[…]
最新の投稿記事(全体)
新型4気筒を待ち焦がれていたホンダファン CBにXが加わった車名のCBX400Fは、1981年10月にデビュー。バイクブーム真っ只中で爆発的な人気を誇ったホンダの切り札となったマシンだ。 実はカワサキ[…]
PG‐1の国内導入がオフロードのヤマハを復活させる!? 国内の原付二種市場は、スーパーカブやモンキーなどのギヤ付きクラスはもちろん、PCXなどのスクーターを含めて長らくホンダの独壇場となっている。そん[…]
クラッチレバー不要でギヤチェンジできる自動遠心クラッチ 今から65年前にの1958年に誕生したスーパーカブC100は、ホンダ創業者の本田宗一郎氏と専務の藤澤武夫氏が先頭に立って、欧州への視察などを通じ[…]
寒い時期のツーリング 冬はライダーにとって、本当に過酷な季節です。急激に気温が下がったりしてきましたが、オートバイに乗られているみなさんは、どういった寒さ対策をしていますか。 とにかく着込む、重ね着す[…]
インカムが使えない状況は突然やって来る!ハンドサインは現代でも有効 走行中は基本的に1人きりになるバイク。たとえ複数人でのマスツーリングだとしても、運転中は他のライダーと会話ができないため、何か伝えた[…]
- 1
- 2