
ラグジュアリーカーの代名詞のようにいわれるジャガーですが、ル・マン24時間耐久レースで7回も優勝するほどのレース好き。じつはクラス優勝ながら8個目の優勝カップを手にする可能性があったにもかかわらず、手続きの遅れで失格となったことさえあるのです。8度目の世界一を狙いにいったのが、こちらのXJ220S。ロードカーを大幅に軽量化し、優勝請負人のトム・ウォーキンショーが本気で作りこんだ渾身の1台です。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
281台の注文と前金のおかげで生産が決定された
ジャガーXJ220は、総勢12人のジャガー社員が時間外に作り始めた非公式プロジェクトからスタートしました。
FIAのグループB参戦を目指したといい、伝家の宝刀たるV12エンジンをミッドシップしながら全輪駆動で走るという勇ましいコンセプトを掲げていたのでした。
1988年にコンセプトモデルがイギリスのバーミンガムショーで公開されると、いきなり281台もの注文が殺到。顧客から5万ポンドの前金を集められたことも手伝って、ジャガー首脳陣は市販化を決断したといいます。
もっとも、当時の排ガス規制をクリアするのにV12は課題が多すぎたため、3.5リッターV6ツインターボ(542馬力)に路線変更。ちなみに、このエンジンもともとはMG(オースティン・ローバー)が開発したものでしたが、資金難から売りに出され、ウォーキンショーがまんまと手に入れたといわれています。
また、XJ220の製造はジャガー社内でなく、新たに作られた「プロジェクトXJ220株式会社」が担っています。これは、当時のジャガー社内に220を作るだけの余裕がなかったためとされていますが、別会社を作ってまで220を作り上げようとする熱意は見上げたものでしょう。
ジャガーが8個目のル・マン優勝トロフィーを取り逃がした1993年に発売されたXJ220-S。
公道仕様と言いつつ、700馬力の出力は制限のあったレーシングカー以上のもの。
東京モーターショーで量産モデルを初公開
量産モデルが1991年10月の東京モーターショーで初公開されると、トム・ウォーキンショーはさっそくレーシングモデルの製作に着手しました。コンセプトモデルの頃はFIAグループBでしたが、今度はFIA GTカテゴリに合致させ、ル・マンのGTクラスへの参戦を目論んだのです。
ウォーキンショーはV12をフロントに積んだXJ-Sでもツーリングカー選手権(ETCC)で自らステアリングを握ったほどのレース好きですから、XJ220にも乗る気まんまんだったのではないでしょうか。
レース仕様はコンペティションのCが加えられ、XJ-220Cを名乗ることに。おもにアルミだったボディをドア以外はカーボンに置き換えたほか、エアロパーツの追加、ブーストアップに伴うエンジンチューン、そして足まわりの強化といったセオリー通りのコンストラクション。
その結果、車重はノーマルの1470kgから400kgもの軽量化を実現し、V6ターボはベンチで700馬力以上をたたき出しています(レースではレギュレーションで500馬力に制限)。ル・マンには3台のXJ220Cがエントリーし、2台はリタイヤしつつ、ジョン・ニールセン、デイビッド・ブラバム、デイビッド・クルサードが乗ったマシンがGTクラスで優勝。ですが、後にキャタライザーの不備で失格となっています。
元はMGメトロ6R4用のV6エンジンをTWRが買い取り、タービンやコンロッドの強化を施し、ベンチで700馬力以上を記録しています。
ル・マン仕様よりもハイパワーな公道マシン
この幻の栄光をまとったXJ220Cを公道仕様にしたのが、ご紹介するXJ220S。といっても、嬉しいことに排気系を法規制に合わせたぐらいで、中身はほとんどル・マン仕様といっても過言ではありません。
現に、馬力は690馬力がカタログに記載され、重量も1080kgとレースカー並み。エアコンやレザー張りの豪華なバケットシートを省けば、すぐさまサーキットで闘える1台となっているのです。
限定6台の生産とされていますが、噂によるとル・マン仕様のスペアカーを仕立て直したとも言われており、その価値は計り知れないもの。
現車はTWRが1998年にベルギーの業者へ売却し、その後アメリカのコレクターの手にわたっています。熱心なジャガーファンらしく、ル・マン優勝モデルのXJR-9をベースにしたスーパーカー、XJR-15も所有していたとのこと。
ですが、XJR220Sは2017年にオークションに出品し、93万ポンド(約2億円)で売却しています。なお、出品時の走行距離は4822kmと、偶然ながらル・マンを24時間走り切った数字にほど近いものでした。
スライド式ヘッドライトだった量産モデルから、CとSはプレクシグラスで覆うデザインに変更。ボディとフェイス回りはカーボンに置き換えられています。
こちらのリヤタイヤは345/35ZR18、フロントは255/55ZR17。TWRからの出荷時はBS製エクスペディアを装着。
公道仕様XJ220-Sは6台のみが作られていますが、TWRによれば売却したすべてが動態保存されているそうで、いつでもリペアやメンテに応じるとのこと。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
アイコンの影にあった、レーシングカーゆえの苦悩 そもそも、なぜクーペ版はあの特徴的なガルウィングドアを採用しなければならなかったのか。それは、軽量かつ強固な「スペースフレーム構造」という、当時の最先端[…]
巨大なフロントノーズに収まる8リッターV10エンジン そもそも1989年のデトロイトショーでダッジ・バイパーR/Tが発表された時点で、クルマ好きはもとより、評論家筋まで「コブラがダッジから復活した」と[…]
技術的チャレンジ精神の結晶 まずは、特徴的なスタイリングこそボーラの目玉。ウェッジシェイプの鋭利なプロポーションでありながら、ステンレス製ルーフの質感や柔らかなリアフェンダーの曲線に、ジウジアーロの気[…]
始まりは車検の不合格 ごめんなさい。25万キロもの間、放置してしまい申し訳ありませんでした・・・! でもね。車ってエンジンが丈夫すぎるから、知らず知らずのうちに「放置」しちゃったりしていませんか? 我[…]
開店休業状態のランボとBMWがタッグを組むのだが… M1をざっくり説明すると、1976年にBMWがグループ4/5に参戦可能なマシンの開発に乗り出し、当時の趨勢(すうせい)だったミッドシップを画策。とは[…]
最新の関連記事(PICKUP情報)
賢くズラして、お得に涼む!お盆休みの「混雑回避ルート」 カレンダーの並びが良い2026年のお盆休み(8月8日〜16日)は、大混雑が予想されます。特に大混雑するのは8月8日(土)、9日(日)、13日(木[…]
驚愕!女性の約2人に1人、男性の約3人の1人が「脂肪のとりすぎ」という事実 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、1日の総エネルギーのうち、脂肪からとるエネルギーの目標量は20[…]
排気量拡大路線から4バルブヘッド開発へ 1980年代の後半はAMGにとって重要な分岐点だった気がします。もともと、彼らはメルセデスベンツが作ったエンジンをボアアップ、強固な足回りへと改造することに終始[…]
【おさらい】ライダーが「吉方位」を気にするべき理由 「吉方位」とは、「その方角へ向かうことで良いエネルギーを吸収し、自分自身のパワーをフルチャージできる場所」のこと。 適切なタイミングで吉方位へ走り、[…]
先代のヨーロッパとは似て非なる生い立ち ロータス・エスプリは言うまでもなく名作「ヨーロッパ」の後継モデルとして、1976年に発売されました。ロータス創設者のコーリン・チャップマンは、新時代のスーパーカ[…]
人気記事ランキング(全体)
Screenshot 真夏のツーリングを終えて帰宅すると、暑さと疲れから「早くバイクをガレージにしまいたい」と思うものです。しかし、走行直後のバイクには虫汚れが付着していたり、発汗によるヘルメットやジ[…]
夏の急な豪雨にも備える、コンパクトなイエローフォグ 夏は大気の状態が不安定になりやすく、ツーリング中に突然、雨が激しくなることも珍しくない。近年は局地的な大雨、いわゆるゲリラ豪雨も増えており、走行中に[…]
スーパーチャージャーがもたらす異次元の加速フィール 初登場時から変わらない、圧倒的な存在感は健在だ。カワサキの「Z H2 SE」が、2027年モデルとして2026年9月5日に発売される。 このマシンの[…]
製作費230万超、脳がバグるCB750Four再現 第18回モンキーミーティングで1位に輝いた、CB750Fourの124ccスケールダウンカスタムが凄まじい完成度だった。製作期間4年半、費用は実車が[…]
600台が夢を追った”アマチュアの甲子園”と彼女たちの夏 1980(昭和55)年にスタートした「鈴鹿4耐ロードレース」は、またたく間にバイクブームに沸く若者たちの情熱の受け皿となった。1980年代後半[…]
最新の投稿記事(全体)
スーパーチャージャーがもたらす異次元の加速フィール 初登場時から変わらない、圧倒的な存在感は健在だ。カワサキの「Z H2 SE」が、2027年モデルとして2026年9月5日に発売される。 このマシンの[…]
関係各社13社 メディア4媒体、50人以上を集めた大試乗会を開催! アライヘルメットが、“那須モータースポーツランドを貸し切って新作ヘルメットの体験走行会を行う”と聞いたとき、驚きを隠せなかった。 こ[…]
製作費230万超、脳がバグるCB750Four再現 第18回モンキーミーティングで1位に輝いた、CB750Fourの124ccスケールダウンカスタムが凄まじい完成度だった。製作期間4年半、費用は実車が[…]
夏の猛暑が招く「空気圧高すぎ」のブラインドスポット 多くのライダーは「空気圧は自然に減るもの」と思い込んでいる。そのため、しばらく放置していても「少し減っているくらいだろう」と楽観視しがちだ。しかし、[…]
記憶の底に眠る「あの相棒」たちとの再会 かつて、我々の心を鷲掴みにし、熱狂の渦へと巻き込んだ名作たちがある。熱狂的なスーパーカーブームを牽引した『サーキットの狼』。主人公・風吹裕矢が駆る「ロータス ヨ[…]
- 1
- 2












































