
好機を逃したことで歴史に名を残せなかった、そういう武将はことのほか大勢いるようです。たとえば、朝倉義景は信長包囲網を敷きながら好機を見極めきれずに逆転負け。かの上杉謙信にしても上洛&天下布武という好機の直前で急死という憂き目に遭っています。となると、さしずめフォード・エスコートRSコスワースという稀代のマシンにしても好機を逃した悲劇のモデルといえなくもありません。デビュー時にはデルタを打ち負かそうと鼻息荒かったものの、ランエボやインプレッサの猛攻には耐えきれなかったというエスコートRSコスワースを振り返ってみましょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherby’s
満を持してのコンパクトマシン投入
英国フォードがシエラRSコスワースや、サファイヤ・コスワースといった名車の後継モデルとして開発したのがエスコートRSコスワース。1992年、5代目エスコートをベースとして同社のAVO(Advanced Vehicle Operation:現フォード・モータースポーツ)がコスワースとともに仕上げたホモロゲーションモデルという成り立ちです。
先代のコスワースチューンモデルに対し、ワンサイズ小さなボディが持ち味で、ラリーステージで求められる軽量、俊敏といったアドバンテージを狙ったとされています。
もっとも、前の2台で培われた4WDシステムやビッグタービンを装備した直4エンジンを縦置きにするにはかなりの無理があったようで、デルタ・インテグラーレに続く「メカニックの悪夢」と称されることもあるようです。
市販車ベースとはいえ、グループA規則に合わせたカスタマイズは徹底的で、F:マクファーソンストラット、R:セミトレーリングアームというオーソドクスなパッケージも質実剛健で素直な運動性を発揮したといわれます。
とりわけターマック(舗装路)では素性の良さが光り、並み居る全輪駆動ラリーカーをぶち抜く走りを見せたことも少なくありません。また、リヤの2段ウィングも見掛け倒しではなく低速ゾーンでもしっかりとダウンフォースを発生させ、フォードらしい地べたに張り付くようなコーナリングを見せてくれました。
ちなみに、デザイナーによれば「第二次大戦中のフォッカーDr.Iの3枚翼にしたかった」とのことですが、コストの関係から見送られました。
英国フォードがWRC制覇を狙ったホモロゲーションモデルのエスコートRSコスワース。1992年発売、翌年からグループAに参戦しています。
なんといってもホエールテール(クジラの尾)と呼ばれる2枚ウィングが目印。実際のダウンフォースにも定評があります。
英国フォードとコスワースは永遠のゴールデンコンビ
そして、エスコートRSの白眉ともいえるのがコスワースYBTと呼ばれる2.0リッター直4ターボエンジンにほかなりません。排気量1993cc、ボア×ストローク: 90.8×77.0(mm)のショートストロークタイプでフォード製鋳鉄ブロックに、コスワースが作ったアルミ製16バルブヘッドを用いた結果、227ps/6250 rpm、304Nm/3500rpmを公称。
無論、レースとなると話は別で、このブロックは1000馬力にも耐えたとのことですから、それに準ずるチューンが施されていたこと間違いありません。なお、YBTはギャレット製タービンT35を採用していましたが、後期の公道向けは小型化されたT25を装着。ターボラグを解消しつつ、点火制御のアップグレードによりパワーに変更は生じていません。
ちなみに、YBTはヘッドカバーがブルーに結晶塗装されており、T25搭載のYBPエンジンはアルミの地色というのが目視でわかる違いとなります。
フォードAVOとコスワースという黄金のタッグで仕立てられた直列4気筒ターボ、YBTエンジンは公道モデルで227ps/304Nmを発揮。
コンパクトクラスのエスコートがベースだけに、さほどレーシーとはいいがたいインテリア。ホワイトメーター、革巻きステアリングぐらいがノーマルとの差異。
日本車勢を大いに上回るプレミア価格
そんな英国フォードの知恵と熱意が注がれたエスコートRSコスワースでしたが、けっきょくマニュファクチャラーズタイトル獲得はなりませんでした。93年のデビューから、97年までの間にトミ・マキネンやカルロス・サインツによる通算10勝というパッとしない成績です。
が、これは前述の通り日本車勢、すなわちランエボ、インプレッサ、あるいは末期だったセリカGT-FOURなどがめきめきと頭角を現していた時期と重なるわけで、善戦といえなくもないでしょう。
本場、イギリスでもオークションに出てくることはレアですが、YBTエンジンを搭載した公道モデルで、落札価格は7万7000ユーロ(約1400万円)の記録があります。当時の日本でオートスポーツ・イワセなどが並行輸入していた価格(約600万円)に比べるとかなりのプレミアがついているかと。
なお、ランエボの極上ものがヨーロッパでは5万ユーロ程度ですから、価格競争ではフォードが勝利を収めているようで、エスコート好きも少しは溜飲が下がるのではないでしょうか。
開発中は2枚でなく3枚にするアイデアもあったとか。コストが理由で流れましたが、エスコートファンなら見てみたかったはず。
1997年はグループAでなく、WRCカーとしてエントリー。こちらはカルロス・サインツが乗った実車です。
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