
見過ごされがちですが、ポルシェ911ターボ・フラットノーズはファクトリーメイドでないクルマが流通しています。つまり、あとからリトラクタブルライトにしたり、リヤフェンダーに通気口を設けたりした改造車であり、オリジナル原理主義者からは相手にすらされません。正真正銘のファクトリーメイドは、3世代あるフラットノーズ全台を合わせて948台と極めてレアな存在。もしも、フラットノーズを手に入れようとお考えでしたら、慎重に真贋を見極めることをおすすめいたします。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
グループ5マシンの935スタイルからスタート
そもそも、フラットノーズは1970年代初頭に、バイザッハの敏腕エンジニアだったノルベルト・ジンガーがグループ5レギュレーションの穴をついたことが始まりでした。彼が携わった935こそ、フラットノーズの祖であることは言うまでもないでしょう。空力特性の向上を図り、フェンダー上のヘッドランプを省いて「フラット」にしたことから、この呼び名となっています。なお、ドイツ語では「フラッハバウ(平面仕上げ)」アメリカでは「スラントノーズ」と呼ばれることもあります。
ポルシェが初めてフラットノーズの公道マシンを作ったのは、屈指の大金持ちにして、ポルシェ・コレクターのマンスール・オジェのオーダーによる「935ロードバージョン」と言われるもの。1978年にリリースされると、ほかの大金持ちがこぞって935仕様車を欲しがったのですが、ポルシェはさすがにこれらを却下。代わりに、フェンダー上のライトをフロントエプロンに移設して、リトラクタブルライトなしの911フラットノーズを作り上げたのです。なお、初代フラットノーズと呼ばれるこれらのマシンは58台が納められています。
ポルシェのグループ5マシン、935のデザインからインスパイアされたフラットノーズ。ファクトリーメイドは全世界で948台のみのデリバリーです。
初期型のフラットノーズはリトラクタブルライトでなく、スポイラーにヘッドライトを埋め込み。2年間に58台が製造されています。
フラットノーズの歴史は3世代にわたる
1980年以降、第二世代ではオジェのような金持ち専門の特殊ルートでしか手に入らなかったフラットノーズが、より開かれたカスタマーカウンターで注文できるようになりました。とはいえ、このカウンターは主にレーシングユーザー、あるいは大手ディストリビューターが優先されるもので、個人的に門をたたくのはなかなかハードルが高かったようです。それでも、「ボディコンバージョン911ターボ/911 SCターボルックフラットフロントエンド」というメニューが用意され、ルックスは現在のフラットノーズにほど近いものとなりました。また、1983年になると「911ターボおよび全ターボ型(M491)用に折りたたみ式ヘッドライトとGRPフロントスポイラー、ミドルオイルクーラーを備えたスラントノーズ」へと名称が変更され、1987年までの間に第2世代フラットノーズが204台製造されています。
そして、1988年には正式なオプションコードが設定され、世界中のディーラーからフラットノーズが注文できるように。一般的にはM505で、アメリカ市場向け。そして、M506は他の地域でのオプションコードとされています。この区別の背景としては、世界の他の地域ではフロントエプロンの中央にオイルクーラーを設置することが義務付けられていたものの、アメリカの一部では許可されていませんでした。それゆえ、ポルシェ911スラントノーズM505は通常の930ターボのフロントエプロンを採用しています。追加のオイルクーラーはリヤ右フェンダーに設置されています。
第二世代のカタログで使われたフラットノーズ(M506)この頃はカスタマーカウンターでのみ受注していました。
リトラクタブルライトは924/944の流用ですが、内部構造はだいぶちがっており、真正フラットノーズの識別点にもなっています。
スタイルだけでなくエンジンもパワーアップ
また、フラットノーズは初代からエンジンのアップグレードがメニューに組み込まれています。最も一般的なのは、出力を330psに増加させたターボSキットで、SCカム、K27ターボ、1.0barブーストスプリング、4アウトレットのフリーフロー排気システムを装備。ファンシュラウドに貼られた元の点火タイミングステッカーにBTDCが29度と指定されている場合は標準の930であり、25BTDCならアップグレードキットが組み込まれた可能性が高くなります。加えて、より大きなインタークーラーを搭載し、エンジンブロックには「930/66 S」の刻印も確認できるはず。なお、この場合385ps仕様や400ps仕様も混在するとのことですが、当時の日本のディストリビューターは扱っていなかった模様。
このほか、ファクトリーメイドであれば「ヘッドランプのオペレーションシャフトには、金属製の固定マウントが溶接されており、ランプバーを取り付けるためにM8製ナットでボンネットロックコンソールに溶接」「M505モデルは標準の930フロントバランスとフォグ/ドライビングランプを装備し、ヨーロッパモデルはより深いフロントエアダムを採用」など、識別点は山のようにあります。確実なのは、車台番号からポルシェに確認することですが、初代、ならびに第二世代は記録があやふやで、フラットノーズで出荷したとしても「標準車両」とされていることもあるのだとか。いずれにしろ、真正フラットノーズの価値はこれからも爆上がりしていくことは確かなので、それだけ偽物も増えるはず。くれぐれも、ご注意いただきたいものです。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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