
ラリーシーンで活躍したランチア・ストラトスは、多くの方が熱い思いを抱いたマシンに違いありません。が、プラモデル好きならグループ5仕様のストラトスもまた思い出に残るものかもしれません。実際、ランチアはラリーだけでなくロードレースにもストラトスをたびたび投入し、まずまずの成績を残しています。今回ご紹介するのは、そうしたワークスマシンでなく、アメリカの個人が市販モデル(ストラダーレ)を輸入してレーストリムを施したじつに珍しい1台です。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
レース用にストラトスを個人輸入したド根性
アメリカはオクラホマ州でカーディーラーを営んでいたアナトリー・アルトゥノフがランチア・ストラスを手に入れたのは1976年のことでした。アマチュアレーサーだったアルトゥノフは、それまでポルシェ911にしてやられるレースが続き、対抗できるマシンを探していたとのこと。アルピーヌA110やダットサン240Zなども候補にあがったものの、IMSA出場を目論んでいた彼にとって、それらは「同型車のライバルも増えるはず」とあえて選択肢から外したのでした。
アルトゥノフがストラトスのパフォーマンスに注目したのは1974年のタルガ・フローリオとも、1976年のル・マン24時間耐久レースとも言われています。が、タルガこそ優勝したものの、ル・マンはリタイヤ。911に対抗できそうだと、どうして考えたのかは判然としませんが、とにかく彼はランチアにオーダーを入れて自ら輸入したといいます。また、一介のカーディーラーだったアルトゥノフにレーシングモデルは売ってもらえず、ストラダーレと呼ばれる市販モデルを手に入れたのでした。
スーパーカー世代には2.4リッターV6ということから人気は微妙だったとされるランチア・ストラトス。大人になると良さがわかってくる1台です。
ザ・ダックの異名を頂いたアルトゥノフのIMSA GTU仕様マシン。なるほど、ウェッジシェイプのボディはアヒルのくちばしにも似ています。
ウィングはカッコだけの装備だった⁉
ファクトリーマシンは、レースごと、コースごとに大幅なカスタマイズが施されていましたが、あくまでプライベーターのアルトゥノフにとってはストラダーレでさえも戦闘力の高いものでした。したがって、彼はIMSA(GTU)のレギュレーションに沿うよう細かな改修を施しただけで、エンジンやシャシーは「ほぼストック状態」だったそうです。ちなみに、通称「バスケットハンドル」と呼ばれるルーフ上のスポイラーはIMSAでは禁じられたものの、その影響をファクトリーに確認したところ「スタイルだけで性能に影響はない」との回答を得たのだとか。
レース中のザ・ダック。バスケットハンドルと呼ばれるルーフスポイラーが付いているのを見ると、IMSA以外のレースと思われます。
細かなスペックは不明ですが、元々はディノ246向けに作られた2418ccのV6エンジンはほぼストック状態に見えます。フードから突き出たエアフィルターはオリジナルパーツにも見えますが、その下のキャブレターは不明。それでも、エキゾストマニホールドからマフラーはストレートパイプが組まれている模様。また、ドラッグレース用とされるMSDのイグニッション強化システム(7AL)は最近になってのモディファイではないでしょうか。いずれにしろ、ワークスファクトリーの仕上げと違ってプライベーターらしい荒々しさが魅力的でもあります。
アヒルのあだ名がつけられたレーシングカー
イエローとブラックに塗り分けられたストラトスは、その後「ザ・ダック(アヒル)」の愛称で親しまれることになりました。が、リザルトは残念ながら911をやっつけるというわけにはいかなかったようです。1979年のIMSA、GTUクラスでの9位(予選15位)が最高位で、表彰台は一度もなし。セブリングやデイトナ24時間にも果敢なまでに挑戦しているものの、リタイヤと完走が半々くらい。もっとも、ワークスの支援なしにエントリーしているだけでもド根性と称えられるべきではありますね。ちなみに、アルトゥノフはストラトスのほかにもアバルト2000Sやロータス・ヨーロッパといったマシンでもレースを闘った歴戦の勇者でもありました。
アルトゥノフの手元を離れてからのザ・ダックはさるコレクターの手に渡り、クラシックカーイベントなどに参加していたようです。その後、オークションに出品されると56万6000ドル(約8900万円)という価格で落札されました。これだけカスタムされていても、好コンディションのストラダーレの平均値に等しいお値段ですから、アルトゥノフのド根性が産んだ「ザ・ダック」は市場でも認められたということ。ランチアのファンでなくとも、なんだかほっこりするストーリーです。
フロントとリヤがガバっと開く姿に喜ぶ方も少なくないでしょう。なお、ストラダーレとレーサーはFRPの厚み(と重さ)が段違いです。
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