
EICMA 2025に出展されたニューモデルやコンセプトモデル群は、2026年以降に向けた提案や宣言、あるいは実際に売るもののお披露目だった。ここでは、現地取材に赴いた河野正士さんによる「電動バイクの現状」をお届けしたい。
●文/写真:河野正士(ヤングマシン編集部)
電化政策は失敗したが、静かに浸透するEV二輪車
かつてEICMAをあげて後押ししていた電動バイクたちは、いま会場にはない。代わりに中国ブランドやインドブランドが台頭し、かつて電動バイクブランドやそれを集めた特別展示のようなスペースは、その二輪車市場の新しいジャイアントに置き換わっている。またそれら電動バイクたちと入れ替わるように、巨大なインドマーケットに向けて世界中の二輪車メーカーが多様な形態のエンジンと、それを搭載したさまざまなスタイルの新型車を投入してEICMAを起点に世界中の二輪車マーケットを賑わせている。
BENDA(ベンダ)が発表したハイブリッド250cc水平対向2気筒のパワーユニット。10.2kg-mの最大トルクと0-100km/h加速3.7秒というスペックを主張する。
排気量500ccあたりのニューモデルが多いのは、それがインド市場のスイートスポットであり、同時に欧州や北米で新規ユーザーやリターンライダー、ダウンサイジングを考えるベテランライダーにピッタリのカテゴリーでもある、いわばダブルスタンダードなカテゴリーであることがその理由だ。その盛り上がりはICE(内燃機)モデルの復活、と見えなくもないが、話はそれほど短絡的ではないと感じている。
世界中のモビリティ企業を挙げて取り組んできたICEからEVへの移行が頓挫してしまったのは、皆さんもご存じの通り。その移行の大義が巨大な経済活動であったことも浮き彫りとなった。似たようなことは、あちこちで起こっている。
台湾の電動バイクブランド/GOGORO(ゴゴロ)は、台湾政府の強力な後押しによって、ガソリンスタンドを越える交換バッテリー用ステーションを台湾全土に整備し、車体購入補助金制度も利用して車両販売台数を伸ばし、あるときの台湾はGOGOROに染まっていた。しかし政権交代によってその後ろ盾を失うと、安価なICEスクーターにシェアを奪われ、いまやその勢いはない。
かつて欧州二輪車メーカーがこぞってラインナップし、二輪ブランドのEV化への足がかりとなっていたE-Bike、いわゆる電動アシスト自転車のマーケットも、ここ2年で大きく落ち込んだ。一時期のEICMAは、いや一時期の二輪完成車メーカーは、自転車ブランドやE-Bikeブランドとタッグを組み、急成長するE-Bike市場を取り込もうとしていた。
しかしE-Bikeの主要市場であった欧州の経済状況の停滞に合わせて、販売台数が下落。その落ち込み具合は国によってバラツキはあるが、昨年対比で15%以上も販売台数を落とした国もある。そこには、レジャーとしてのE-Bike市場が拡大したために価格の高騰を招き、したがって経済状況の影響を受けやすい市場構造となっていたこと。また税制優遇や補助金制度の縮小や終了なども影響している。
こういった電化政策の失敗とともに、EV二輪車は静かに浸透している。EICMAが行われているイタリア・ミラノの街を見ると、日本同様、郵便やフードなどのデリバリーには電動スクーターが普及しているし、街中で散見するレンタルスクーターもほとんどが電動だ。事業形態や用途を吟味すれば、電動のメリットを活かせることも分かってきている。
EVスポーツバイクを作ってきたメーカーは小型EVにアプローチ
これまで電動スポーツバイクブランドとして活動してきた米国のZERO MOTORCYCLEや、ハーレーダビッドソンからスピンアウトしたLiveWireが、小型EVバイクをラインナップまたは小型EVバイクのコンセプトモデルを発表したのも、使い方を限定し、電動のメリットを共有しやすいカテゴリーにアプローチするものだと考えられる。
LiveWire(ライブワイヤー)が発表したS4 HONCHOという小型EV。現在のハーレーダビッドソンからはかけ離れたレジャーバイク然としたたたずまいだ。
Can-amブランドを展開するカナダのBRP社は、昨年にEV二輪車を発表。今年もそのEV二輪車を展示した。BRPの前進はボンバルディア社であり、ボンバルディア社は1970年代にオーストリアのエンジンメーカーであるROTAXを買収。21世紀に入りBRP社が創立されてからも、Ski-DooやLYNXなどのスノーモビル、Sea-Dooのジェットスキー、Can-amのATVなどBP傘下の各ブランドにエンジンを供給していた。
Can-amのEV二輪車には、そのROTAXが開発したE-Drive テクノロジーが搭載され、モーターやバッテリー、インバーターやソフトウェアも独自に開発。二輪車だけでなく、E-カートやATVなど、さまざまな自社製品に搭載している。BRP傘下の各ブランドは、公共空間ではなく、海や山といった限定された環境で使用されることが多く、そのなかでは電動のメリットを享受しやすく、そこで得た知見をE-モビリティに生かしていくことは、じつに自然な流れと言える。
また、ほんの数年前までは無理と言われていた二輪車へのハイブリッド化も実現した。そこに野心的な中国ブランドなどが加わり、二輪車HEV市場はにわかに活気づいている。さまざまな形態の二輪車HEVが登場すれば、そこで二輪車に合わせたHEV特性の造り込みやメリットも生まれるだろう。
さらには、新しい二輪市場のレッドオーシャンとなったインドでは、国を挙げて電動化に取り組んでいる。インドに行けば、インドのトップブランドがEVスクーターをラインナップし、好セールスを記録しているほか、日本では聞いたことがないインドのスタートアップ企業が展開する電動スクーターが、スクーター部門の販売台数上位に食い込んでいる。
インドを含め、発展途上にあるアジア諸国では、郊外に出るとガソリンスタンドが少なく、露天商の軒先にペットボトルに入れたガソリンが売られているような場所でも、誰もがスマートフォンを持ち、電気インフラは整っている。そういった場所では、EVの可能性は生活の基盤になり得るのではないかと考える。
自動車や二輪車も社会インフラとして機能している以上、その最先端にいるEVの存在価値が、各国の政策に左右されるのは避けられない。だからといって、それを対岸の火事として傍観しているわけにも行かない。遅かれ早かれ、電動化はやって来るのだ。
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