
「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年からは全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けなければと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。
●文と写真:真弓悟史
レース以前にサーキット入りで苦戦
前戦モビリティリゾートもてぎで見せた劇的な4位から3週間、9月12日と13日に全日本ロードレースの第5戦が大分県のオートポリスで行われた。
結果はレース1が7位、レース2が6位と苦しい結果に終わった。
あの灼熱のもてぎで、終盤まで3位争いを演じた力強い走りから“表彰台は目前”と思われたが、一転して今回は不発に終わる。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
そもそも今回の長島はレースウィーク開始の時点でつまずく事になった。
通常ライダーは金曜日から始まる走行に備え、木曜日の昼頃にはサーキット入りして、コースの下見をしたりチームとミーティングを行ったりして準備をする。しかし今回の長島はポルトガルでの海外テストを終えて羽田に帰国すると、その足でそのまま熊本空港に木曜日の夜に着くという強行スケジュールを組んでいた。だが、その綱渡り状態の予定が破たんしてしまう。9月11日に羽田空港付近を襲った大雨の影響で飛行機が欠航になってしまうのだ。
その後やっと乗れた便で無事に熊本空港着と思われたのもつかの間、天候不順で搭乗便が引き返し、さらに関西国際空港に着陸するという散々な目にあってしまう。大きな荷物を引きずり大きな疲労感の中、ホテルの予約もない深夜の大阪。この時点で明日の午前の走行は絶望的。午後の走行を目指して金曜朝から移動する事になる。そしてサーキットに到着したのは、走行開始の20分前。即レーシングスーツに着替えてピットに現れた長島は「なんとか間に合った」という安どと疲労感が入り交じったと言う表情だろうか。
「ポルトガルの出発から熊本までがホント長かった……。飛行機が飛ばなかったのは余計でしたね。そのせいで自分のリズムも崩れちゃって。木曜日、大阪に着いた日は時差ボケで眠れなくて、金曜日も寝れたのは3時間くらいでした……」と語る。
明らかに表情を見ると疲れている。だが、それとは裏腹に走りの方はコースサイドで見ていても、それを感じさせず、タイムはトップから1秒少しの遅れで6番手に付け、午前との総合でも7位とまずまずの順位でこの日を終えた。このような状態でいきなりコースに出て行き、このタイムを出すあたりはさすがプロライダー長島哲太と言ったところであろう。
土曜日午前中に行われた予選では8番手につける。午後からは決勝レース1だ。天候は曇りで暑くはない。冷感時に強さを発揮するダンロップタイヤにとっては好材料なのではないかと期待も高まる。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
予選はあくまでも予選。前回も予選は8番手だった。得意のスタートダッシュを決めてトップに躍り出れば、初表彰台に立つ姿も見えてくるのではと想像してしまう。だが、その期待は数周後には淡くも遠ざかって行く。
「1周目にギヤ抜けしてしまい、その後ヘアピンでオーバーランしかけて、そこから攻めようとした時にはチャタリングが出てしまいグリップも悪かったですし、あの様になってしまうと、もう何も出来なかったですね」と言うように“ひたすら耐える”周回が続いて行く。
コースでは白熱の2位争いが展開されていたが、長島はそこから大きく後れを取り、ヤマハのプライベーター児玉勇太選手は何とか抑えきり7位に終わる。
「意地ですね」この言葉通り、いう事を聞かないバイクで抑え切った場面に長島の意地は見た。しかし今シーズンの彼の活躍からするとこのレース、見せ場なく終わった感は否めない。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
レース1では得られなかった感覚、しかしチャタリングは消えていなかった
翌、日曜日は、朝からサーキットは濃い霧に包まれ他のレースのスケジュールが次々に中止になって行く。そんな中、JSB1000の時間だけ奇跡的に霧が晴れレース2が行われる事になる。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
空は曇り、路面はドライ。前日とほぼ同じコンディションである。だがこのレース長島はスタート直後、前日よりも希望を見出していた。「レースをスタートした瞬間に『あっ、これちょっとイケるかも』と思ったので、もう何も考えずにとにかく全開で行きました」と話す。
レースはスケジュールの関係で12周に短縮された。しかしコンディションは昨日とほぼ同じ、そしてタイヤも昨日と同じものだと言う。いったい何があったのだろうか?
「タイヤがアスファルトを食う感覚です。1コーナーを曲がった瞬間にイケるという感じがありました。もてぎのレース2の1周目もそうなんですけど『これは使える!』というタイヤとアスファルトの接地感があったんです。たぶん気温だとか路面温度の部分なんだと思います。もちろん車体も昨日から変わっている部分もありますが、昨日はこの感覚はなかった。今回序盤については、もてぎに近いものが少しあって、手応えとまでは行かないですけど、タイヤとしては少し機能をさせられる場面はあったのかなと感じました」
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
その言葉通り2周目には3位に浮上し、翌3周目には後続を引き離し単独3位でトップ2台を追いかける展開に持ち込む。今度こそ表彰台に届くかもしれない。しかしその期待が前回のようにドキドキに変わるまでは長続きしなかった。何とか粘りに粘ったが7周目、ついに後続グループにかわされてしまう。
「『このまま行きたい』って思って『うぁ』と開けたところで『もう、(タイヤのライフが)ない』みたいな。もう滑って跳ねて、もうそこからは何も出来なかったです。8周目くらいからですかね。もうダートを走っているようで、一人だけ明らかに動きがおかしかったと思います。スライドだけだったらまだ何とかなるんです。でもチャタリングがなかなか抑えられない。小さいレベルだったら何も気にならないですけれど、結構“視界が歪むレベル”と言うか、飛びそうになるくらいのチャタなんで…いろいろ走り方を試しても消えなくて……」
しかしこのチャタリング、実はもてぎのレースの時にも出ていたのだと言う。
「もてぎは出る箇所が少なかったんです。130Rとビクトリーコーナー、2か所しか出なかった。そこもアクセルを戻して開けて滑らせてしまえば何とかなる。でも、ここはチャタが出ている所で曲げて行かなくてはならない。曲げようとして寝かして行くと、どんどん増えて行くから寝かせられなくなる…バイクが寝なければスピードも上げられないし……」
4位に入った前回のもてぎの後、長島は「まだまだ安定して表彰台を狙えるかと言うと、そうとは言えない部分があります」と言っていた意味が少し解けた気がした。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
ブリヂストンタイヤとの純粋な性能差の部分を言っていただけではなく、ブリヂストンすらも垂れてしまう高温過ぎた気温と進歩したダンロップの関係性、そしてネガな部分をカバー出来るコースレイアウトとライダーのテクニック。それらが相まって出た好成績だったのだ。
今年は、開幕戦から毎回トップに立つレースを見せて来た中で、ここオートポリスはインパクトの薄いレースだったように感じてしまう。だが今後に向けて長島の中にはポジティブな要素があったようだ。
「“届かなくはない”っていう感覚。もてぎもそうですし、少しずつでも前に進んでいる感覚はあります。去年の時点では『ただただ何も出来ません』でしたが、今年は明確に『こうして欲しい、ああして欲しい』が伝えられているくらいのレベルまで来ました。今回で言えばフロントタイヤ。『今まではフロントはある程度でいいです。とにかくリヤをやって下さい』と言う感じだったのが、今はリヤをこのままで『まずフロントをやりましょう』というレベルまで来ました」
長島の中で、もてぎとオートポリスのレースを経てリアタイヤの開発に手ごたえを感じ、仕様が決まって来たようなのだ。
「リヤはここをベースにしてフロントがもう少し良くなればリヤへの負担も減らせますし、大分と前進じゃないですかね」
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
パッと見のリザルトの結果には繋がってはいないが目に見えない部分で確実に前進をしているようだ。次戦の岡山国際サーキットはダンロップのホームコースでもある。長島の意見をフィードバックしたフロントタイヤがきっと導入される事だろう。そしてそのタイヤがどの様に機能するのか? 急激な進歩は期待しすぎかもしれない。しかしフロントもリヤも決まった長島の爆発した走りを見られる日は、一歩一歩近づいているように思える。
見据えているのはいつも世界のレベル
そして長島は、ここオートポリスのレースを終えて、今度はそのままスペイン・へレスサーキットへワールドスーパーバイクのテストに向かうと言う。ポルトガルからオートポリス、そしてスペインへ。なんともタフである。
取材時点では、スーパーバイクでHRCのシートが空いていた(現在はチャントラとディクソンに決定)ので、「俺っ!」て手を挙げないの? と聞いてみた。
「俺はダメみたいです」と答えた長島。「ワールドスーパーバイクは、すごくレベルが高いですし、日本でレースをやっていると『頑張ってるね』って言ってもらいますけど世界基準で見ると『全然なんだよな』って。そこは本当にレベルの差を痛感します。日本でレースをやっていると『すごい』って言ってもらいますけど、俺で最低限戦えるかどうかのレベルなんです。世界に行くと“死ぬ気で走って”シングルに入れるかどうか。ポイント圏内に行けるかどうかなんです。もう全員死ぬ気で走っているんです。俺が序盤に飛ばしたりするじゃないですか。みんなあれが普通。あれを最初から最後まで全部やるんです。世界は。遅いバイクで遅いのは普通ですよね。それをどうにか出来るから凄いライダーだし、それをどうにかする奴がいるのが世界なんです」
彼の見ている基準は全日本にいながら世界レベルだ。この熱く強い気持ちは、今の全日本では他の誰よりも突き抜けているように思う。長島哲太なら現状を乗り越えて必ずやってくれる。そう感じたオートポリスの日曜レース後だった。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
【真弓 悟史 Satoshi Mayumi】1976 年三重県生まれ。鈴鹿サーキットの近くに住んでいたことから中学時代からレースに興味を持ち、自転車で通いながらレース写真を撮り始める。初カメラは『写ルンです・望遠』。フェンスに張り付き F1 を夢中で撮ったが、現像してみると道しか写っていなかった。 名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。その後アルバイトでフィルム代などの費用を作り、レースの時はクルマで寝泊まりしながら全日本ロードレース選手権を2年間撮り続ける。撮りためた写真を雑誌社に持ち込み、 1999 年よりフリーのフォトグラファーに。現在はバイクや車の雑誌・WEBメディアを中心に活動。レースなど動きのある写真はもちろん、インタビュー撮影からファッションページまで幅広く撮影する。
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