
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:山内潤也/YM ARCHVES ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
規範を完全に凌駕した動力性能と信頼性
BSAのコピーか否か。これはW1シリーズの生い立ちを語るときに、よく使われる言葉である。そしてシリーズの原点となったメグロ・スタミナK1は、たしかに、BSA・A7との共通点が多いモデルだったのだが…。
カワサキが大改良を行ったK2以降は、コピーなどという範疇に収まるレベルではなく、本家のBSAを大幅に上回る動力性能と信頼性を獲得していたのだ。
中でももっとも注目すべきは、エンジンの要となるクランクシャフト/コンロッドで、K1とK2がA7と同様の一体鍛造/プレーンメタル支持(この構成は当時のブリティッシュツインの定番)だったのに対して、W1は組み立て式/ニードルベアリング支持を採用。
また、クランク左右の軸受けは、K1:ローラーベアリング+メタルブッシュ(A7と同じ)→K2:ローラー+ボールベアリング→W1:左右ともボールベアリングという進化を実現。この進化は、文字だけではなかなか理解しにくいものの、後に過剰品質と称されたZ1/2のクランクシャフト+コンロッドは、W1の発展型と言うべき構成だったのである。
それ以外にも、K2で行われた潤滑ラインの全面刷新やフレームの強化、W1で排気量を拡大した際のショートストローク化、W1スペシャル以降のモデルが導入したツインキャブヘッドなど、カワサキが行った変更は多岐に及んだ。
逆に言うなら、A7を生み出したBSAの技術者が見れば、そこまでやるのか!と驚くほどの大改良を、当時のカワサキは行っていたのだ。だからこそ、以後のカワサキは国内外で、数多くの成功を収めることができたのである。
KAWASAKI 650-W1主要構成部品解説
エンジン:カワサキの大改良で別物に進化
エンジンとミッションが別体式であることや、Y字型カバー内にカムシャフト/点火ユニット/オイルポンプ駆動用ギアと発電機用のチェーンを設置していること、クランクケース左側に1次減速チェーンとクラッチが備わっていることなどは、スタミナK1/K2やBSAA7と同様である。
ただし、カワサキによって大改良が行われたW1シリーズのパワーユニットは、先代や規範とは一線を画する、動力性能と信頼性を備えていたのだ。
W1シリーズのクランクシャフトはボールベアリング支持の組み立て式で、コンロッド大端部にはニードルベアリングが備わっている。
エンジン前部のカバー内には、バンド留めの直流ダイナモが収まっている。なお点火用のコンタクトブレーカーはエンジン後部に設置。
フレーム&シャーシ:メグロから受け継いだパイプフレーム
1950年代の日本車のフレームは、各部にラグ:継ぎ手を用いたロウづけ式や鋼板プレスタイプが主力だったものの、メグロは1955年型セニアT1から、電気溶接式のパイプフレームを導入。もちろんW1シリーズにもその技術が活かされている。
なおW1シリーズのダブルクレードルフレームの構成は、基本的にはスタミナK1と同様だが、K2以降は振動対策として、スイングアームピボット上部に2本の補強パイプを追加。キャスター角はメグロの伝統を継承した29度で、この数値はシリーズ最終型のW3まで共通だった。
【骨格の前半部はBSAの構成を踏襲】トップチューブの下に細身の補強パイプが備わる構成や、ダウンチューブの配置にはBSAA7の影響が見て取れる。ただし後半部は、BSAとはまったく異なる構成だった。
シート下右側にはドライサンプ用のオイルタンクが備わる。安全対策として、W1S後期型以降はウインカーの左右幅が徐々に拡大していくこととなった。
K1/K2でφ180mmだったフロントドラムは、W1でφ200mmに変更。リヤは一貫してφ180mmだった。W1SA以降はフォークスプリングがインナー式になり、リヤショックカバーを変更。
シートは昔ながらのスプリング式。ただし最終型のW3は、現代的なウレタン式を採用。
W1S前期型以前のウインカーは、前後にレンズを設置。ボディは板金で製作された。
ステアリングダンパーは2系統。車体右側は油圧式で、ステアリングヘッド上部は摩擦式。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
Zを知り尽くしたエンジニアならではの勘ドコロを押えた絶品設計! 1989年のゼファー(400)が巻き起こしたネイキッド・ブーム。 カワサキはこの勢いをビッグバイクでもと、1990年にゼファー750と1[…]
ザッパーシリーズの多種多様な展開 トータルでの歴史は30年以上に及ぶザッパーシリーズだが、その存在意義は’80年代以前と’90年代以降で大きく異なっている。まず’80年代以前の主力機種は、クラストップ[…]
ヤマハ・ハンドリングの真骨頂、パイプ構成では得られないデルタ形状アルミ鋼板フレーム! 1980年に2スト復活を世界にアピールしたヤマハRZ250の衝撃的なデビューに続き、1983年にはRZ250Rで可[…]
RZ250を上回る新テクノロジー満載! 1979年にホンダがリリースした、まさかの2ストローク50ccスポーツのMB50(広告なでの名称はMB-5)。 250ccやビッグバイクのスケールダウン・デザイ[…]
現在に続くミドルクラスの基盤は日本メーカーが作った ’70年代の2輪業界における最大のトピックと言ったら、日欧のメーカーが歩調を合わせるかのように、ナナハン以上のビッグバイクを発売したことだろう。もっ[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI])
11/1発売:カワサキ カワサキ ニンジャH2 SX SE カワサキの最高峰スポーツツアラー「ニンジャH2 SX SE」の2026年モデルが、11月1日に発売された。スーパーチャージャー搭載のバランス[…]
11/1発売:カワサキ W800 カワサキが50年以上にわたり培ってきた「W」ブランドの最新進化系「W800」の2026年モデルが11月1日に発売される。この国産クラシック系の旗艦モデルは、美しいベベ[…]
11/1発売:カワサキ Z250 カワサキ「Z250」はニンジャ250と骨格を共有するこの軽二輪スーパーネイキッドは、アグレッシブな「Sugomi」デザインを継承。軽さと力強さを併せ持つ本格的スーパー[…]
ニンジャH2 SX SE 2026年モデル発売! スーパーチャージャー搭載のスポーツツアラー「Ninja H2 SX SE」の2026年モデルが、2025年11月1日に発売。おもな変更点は、カラー&グ[…]
ラリースタイルのアドベンチャーモデル爆誕! カワサキが欧州&北米で2026年モデルとして発表した「KLE500」シリーズは、「LIFE’S A RALLY. RIDE IT.」というスローガンを体現す[…]
人気記事ランキング(全体)
11/1発売:カワサキ Z250 カワサキ「Z250」はニンジャ250と骨格を共有するこの軽二輪スーパーネイキッドは、アグレッシブな「Sugomi」デザインを継承。軽さと力強さを併せ持つ本格的スーパー[…]
薄くても温かい、保温性に優れる設計 GK-847は、ポリエステル素材をベースとしたサーマル構造を採用しており、薄手ながらも高い保温性を実現している。厚手のウインターグローブの下に装着しても動きが妨げら[…]
厳冬期ツーリングで感じる“インナーの限界” 真冬のツーリングでは、防寒ジャケットやグローブを重ねても、冷えは完全には防ぎきれない。風を受け続ける上半身は体温が下がりやすく、体幹が冷えることで集中力や操[…]
長距離や寒冷地ツーリングで感じる“防寒装備の限界” 真冬のツーリングでは、重ね着をしても上半身の冷えは避けにくい。特に風を受ける胸や腹部は冷えやすく、体幹が冷えることで集中力や操作精度が低下する。グリ[…]
より高度な電子制御でいつでもどこでも快適な走りを!! 【動画】2026 CB1000GT | Honda Motorcycles ホンダがEICMA 2025にて発表した「CB1000GT」は、「Hi[…]
最新の投稿記事(全体)
白バイ隊員の主な装備 オートバイが好きな方であれば一度は、白バイの装備や白バイ隊員の制服ってどうなっているんだろうって思ったことがあるのではないかと思います。私も警察官になる前は興味津々で、走っている[…]
11/1発売:カワサキ カワサキ ニンジャH2 SX SE カワサキの最高峰スポーツツアラー「ニンジャH2 SX SE」の2026年モデルが、11月1日に発売された。スーパーチャージャー搭載のバランス[…]
世界初公開! 3タイプのEVバイクが未来の二輪車シーンを牽引する!? 10月30日(木)から11月9日(日)まで東京ビッグサイトにて開催されている「ジャパンモビリティショー2025」。ヤマハのブースで[…]
革新メカERC装備の本格アドベンチャー EICMA2024、そして今春の東京モーターサイクルショーでも展示された「Concept F450GS」が、EICMA2025で正式モデル「F450GS」として[…]
風のように静かで、1000㏄並みにトルクフル! ホンダは昨年のEICMA2024で「EV Fun Concept」を出展したが、今回のEICMA2025では「WN7」を発表。基本スタイルは踏襲するもの[…]
- 1
- 2




















































