
世に出ることなく開発途中で消えて行ってしまったマシンは数あれど、それが表に出てくることは滅多にない。ここではそんな幻の名車を取り上げてみたい。今回はカワサキのロータリーエンジン搭載モデルであるX-99を紹介しよう。
●文:ヤングマシン編集部 ●取材協力:川崎重工業、カワサキモータースジャパン
石油危機で消えたポストZ1候補2台目はロータリーエンジン
KAWASAKI X-99
1970年代初頭、ロータリーエンジンは一般的なレシプロエンジンよりも低振動でよりフラットなトルクカーブとスムーズなパワーデリバリーが実現できるものとされ、次世代のエンジンとして大きな注目を集めていた。 1974年、カワサキも独自のロータリーエンジンの開発をスタートさせており、同年6月に実施されたプロトタイプエンジンの性能テストでは最高出力85.1ps、最大トルク9.96kg-mをマークした。
そして、谷田部のテストコースで走行実験を行った結果、レシプロエンジンと比較してスムーズで低振動な特性が確認されたが、低回転域で発生するメカノイズやエンジンブレーキが弱いこと、予想以上に燃費が良くないことも明らかになった。このテストの後にX-99の商品性が再度検討され、当時オイルショックによる原油価格の高騰の影響もあり、1975年に開発休止が決定された。しかし、その直前まで開発は進められ、最高出力87.8ps、最大トルクは10.78kg-mを達成するに至った。
【KAWASAKI X-99 1974年】日本メーカーで唯一発売されたスズキのRE5以外にホンダ、ヤマハにもロータリーエンジンのプロトタイプが存在しており、同様にカワサキもX-99を開発していた。カワサキらしく大排気量&ハイパワー路線だ。
当時のZ系の足まわりや補器類を使っているX-99。細部まで観察するとフレームは独自のもので、タンクやシートも1976年発売のZ650(ザッパー)に似ているが別物だ。マフラーはZ1のメガホン形状が極太化?!
排気量は896.8ccで、日本4メーカー最大
1972年秋にリリースした900SUPER FOUR(Z1)で世界最速の地位を盤石にしたカワサキは、当時水面下で2つのフラッグシップモデルを開発していたことが明らかになっている。1つは、SQUAREーFOUR 750(スクエアフォー750、’73年8月開発中止)で、水冷2ストスクエア4の750ccエンジンを採用していた。通称「タルタルステーキ」と呼ばれ、空冷2ストトリプルH2の後継にしてZ1を超える最速モデルを目指していたのは間違いないだろう。
そしてもう1つがこのX-99で、水冷ツインローターの896.8ccエンジンは87.8psを発揮。’74年当時で82psだったZ1を上回るパワーを発揮しており、オイルショックがなかったらZ1を超える次世代機として発売された可能性もあるだろう。また、X-99の2ローター896.8ccは4メーカー最大で、スズキRE5(497cc、1ローター、62ps)、ヤマハRZ201(660cc、2ローター、68ps)よりも1クラス上と言える排気量で、もちろんパワーも大幅に上回っている。ちなみにホンダの2輪用ロータリーエンジンは排気量不明だが、125ccの車体に搭載されていたことから最小排気量だったと思われる。
2ストのマッハシリーズに似たコンパクトな腰下に5速のミッションを備える。キャブレターは当時としては珍しい負圧式を採用しているようだ。
横置きのツインローター式のローターリーエンジンを登載。水冷エンジンはこの後1979年にZ1300がカワサキとして初採用して発売された。
メーターやハンドルまわり、タンクキャップはZ1と同じ。ハンドルクランプ部分に水温計と思われるテンプメーターを装備している。
こちらは初代Z1のハンドルまわり。X-99ともタコメーターのレッドゾーンは9000rpmからとなっている。
1974年に撮影されたと思われるX-99のエンジン内部の写真。ロータリーエンジンは西ドイツのNSU社とWankel社の共同開発で実用化された技術がルーツとなっており、これはマツダの4輪モデルと同じだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([特集] 幻の名車)
イタリアンイメージをネーミングやデザインに注入 これらデザインスケッチ等は、1989年8月にウェルカムプラザ青山で実施された「MOVE」展で公開されたもの。これは本田技術研究所 朝霞研究所が企画して実[…]
2ストローク90ccの「CO-29」は、キーレスにポップアップスクリーン採用 1988年に劇場版「AKIRA」が公開された翌年、1989年8月にウェルカムプラザ青山で「MOVE HONDA MOTOR[…]
1984年にツインチューブフレームを採用していた これはホンダウェルカムプラザ青山で1989年8月に開催されたイベント「MOVE」に出品されたプロトタイプのCR-1。モトクロッサー、CR500Rのエン[…]
GLの元となった水平6気筒試作車 CB750フォアの発売後、モーターサイクルキングとは何かを探るために試作された1台。ロータリーエンジンのような滑らかさを求めて水平6気筒としたが、ミッションを後ろにつ[…]
市販されなかったターボはミッドナイトスペシャル仕様 1981年10月末~11月にかけて開催された東京モーターショーは、各社がターボのモデルを一斉に出品して話題となった回である。ターボ過給器付き2輪車は[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI] | 名車/旧車/絶版車)
カワサキZ400FX:DOHC4発のスモールマークII ヨンフォア(ホンダCB400フォア)なき後、400ccクラスに4気筒モデルは不在だった。しかしそれは決して不要だったわけではなく、ユーザーは絶え[…]
※Z900RSの最新相場情報は記事末に掲載しています。 2018モデル:「Z900RS」デビュー! Z1/Z2へのオマージュ&“火の玉”の衝撃 2017年の東京モーターショーで鮮烈なデビューを飾ったカ[…]
36年の“時間”を感じる仕上がり カウルが紫外線で退色し、くすんだトーンだが、じつは緑青を用いたペイント。擦れて色が剥げ落ちた箇所も塗装だ。車体右側のエンジンケースカバーやサイドカバー、マフラーには転[…]
GPz900Rを受け継ぐ実用系最速マシン【カワサキGPZ1000RX】 1983年にTT-F1の排気量上限が750ccに引き下げられた結果、リッターバイクはレースの呪縛を解かれて独自に発展し始める。 […]
軽量化とパワーアップの両面を果たしたフルモデルチェンジ フルモデルチェンジが実施された2018年モデルの発売は、2018年2月1日。2017年モデルまでのニンジャ400は、海外向けのERシリーズをベー[…]
人気記事ランキング(全体)
36年の“時間”を感じる仕上がり カウルが紫外線で退色し、くすんだトーンだが、じつは緑青を用いたペイント。擦れて色が剥げ落ちた箇所も塗装だ。車体右側のエンジンケースカバーやサイドカバー、マフラーには転[…]
フレーム/スタンドの別体構造と自在キャスター装備で自由に移動できる 向山鉄工のオリジナル製品である「ガレージREVO」は、バイクスタンドに自在キャスターを取り付けることで、スタンドアップしたバイクを前[…]
従来の理念をさらに深化させた「Emotional Black Solid」 今回注目したのは、新たなステップワゴン スパーダ専用に用意された、これまた新たなアクセサリー群です。その開発コンセプトは、従[…]
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
ヤマハXJ400:45馬力を快適サスペンションが支える カワサキのFXで火ぶたが切られた400cc4気筒ウォーズに、2番目に参入したのはヤマハだった。 FXに遅れること約1年、1980年6月に発売され[…]
最新の投稿記事(全体)
AMAスーパークロス2位の実績を持つモトクロッサーのエンデューロ仕様が上陸! トライアンフが開発したオフロードマシンには、250cc4ストローク単気筒エンジンを搭載するモデルと、450cc4ストローク[…]
クラシックなボバースタイルをもつ”個性爆発”のゴアン クラシック350 名は体を表すというが、ロイヤルエンフィールドのニューモデル「ゴアン クラシック350」が表現するものは何か? 英国発祥のロイヤル[…]
A.クラッチを切らずにギヤチェンジできるクイックシフターは便利なはずですが、確かに操作するときの状況によっては仰るようにギクシャクしたりショックがあって怖い思いをするかも知れません。加速(増速)側の場[…]
新型”日産リーフ”は、北米市場投入後に日本国内でもデビュー 日産が明らかにした今後の車両投入プランによると、2025年度から2026年度にかけて多岐にわたるパワートレーンを搭載した新型車が登場する見込[…]
2年に一度、世界各国から勝ちぬいたGSライダーが競う祭典への道 BMWモトラッドは、「インターナショナルGSトロフィー2026」に出場する日本代表選手を決定する国内選考会を2025年10月11日(土)[…]
- 1
- 2