超大型新人登場、レジェンドは古巣に移籍

山田宏の[タイヤで語るバイクとレース]Vol.72「2013年のMotoGPはマルケスとロッシに大興奮」

ブリヂストンがMotoGP(ロードレース世界選手権)でタイヤサプライヤーだった時代に総責任者を務め、2019年7月にブリヂストンを定年退職された山田宏さんが、その当時を振り返ります。2013年のMotoGP最高峰クラスは、マルク・マルケス選手のステップアップとバレンティーノ・ロッシ選手のヤマハ復帰に、シーズン前から話題沸騰状態となりました。

TEXT: Toru TAMIYA PHOTO: HONDA, RED BULL, YAMAHA

いきなりトップ争いに加わったマルク・マルケス選手

2013年のMotoGPクラスは、2010年に125ccクラス、2012年にMoto2クラスのチャンピオンを獲得したマルク・マルケス選手が注目の大型新人としてホンダワークスチームから参戦するのと、あのバレンティーノ・ロッシ選手が2年間の苦悩が続いたドゥカティワークスチームを離れてヤマハワークスチームに戻ってくることが、開幕前から大きな話題。また日本人レースファンの間では、CRTマシンのチームとはいえ、2009年の250ccクラスワールドチャンピオンに輝いた青山博一選手が2年ぶりにフル参戦することも、シーズン前に注目を集めていました。前年、青山選手はSBK(スーパーバイク世界選手権)に参戦して思うように成績を残せずに終わりましたが、彼はコツコツとマシンを仕上げて速さを発揮するタイプ。フレームに手を加えられないSBKよりも、CRTとはいえMotoGPのほうが……と、私は2013年のMotoGP復帰を知ったときから感じていました。

上半身を大きく落とし込み、ヒジを路面に擦りつけるマルケス選手のライディングスタイルは、その後のトレンドになっていった。その衝撃の走りについては、当時のヤングマシン誌で何度も特集している。 [写真タップで拡大]

一方で最高峰クラスルーキーのマルケス選手に関しては、初年度にいきなりあれほど活躍するとは、正直なところ私はシーズン前の段階では予想していませんでした。最近でこそ、最高峰クラスでルーキーがいきなりトップ争いをすることは珍しくないですが、当時はそんな例がほとんどなかったですし、ロッシ選手ですら500ccクラスの参戦初年度だった2000年はランキング2位。ルーキーとして最高峰クラスに参戦したライダーがチャンピオンとなった例は1978年のケニー・ロバーツさんだけで、あの当時ですら35年も前の出来事でした。どんなライダーでも、MotoGPクラスのルーキーイヤーは序盤に苦労して当然という時代。シーズン終盤にレースでトップ争いする可能性はあると思っていましたが、まさか最初からあれほどまでに活躍するとは……。

ただし、2月5~7日にマレーシアのセパンサーキットで実施されたシーズン最初のウインターテストで、その片鱗はすでに見えはじめていました。テストの最後にはロングランも実施していて、「お、やるなあ……」という感じ。MotoGPのレースディスタンスをまずは走ってみるというのは、とても大切なこと。HRC(ホンダレーシング)からの指示だったのかもしれませんが、このときのテストではそれほど多くのことを試すわけでもなくマシンに慣れるため淡々と周回を重ねていて、最後まで2分1秒台というトップレベルのタイムで走っていました。しかも、ブリヂストンの担当エンジニアに聞いたところ、タイヤに関するコメントも的確。「挙動などの説明もはっきりしていた」と報告があり、20歳のルーキーとは思えぬものを感じました。私も初日から話をして「MotoGPはどう?」と聞いたところ、「パワーがスゴくて楽しい! 学ぶべきことはたくさんあるけど」と、謙虚な態度ながらどこかに大物の雰囲気を感じさせられました。

2013年のドラマを予感させた開幕戦

このように、私を含めた多くの関係者とファンが、2クラスで世界選手権のシリーズタイトルを獲得して20歳で最高峰クラスにステップアップしてきたマルケス選手に並々ならぬ関心を寄せていたのは事実ですが、シーズン最初のウインターテストでより大勢のジャーナリストが群がっていたのは、やはりロッシ選手のピットでした。そのロッシ選手は、テストのときは昼ごろから走りはじめるというのがお決まりでしたが、そのときは10時のスタートと同時にピットアウト。これには、テストライダーとして参加していた吉川和多留・現ヤマハ全日本監督や中須賀克行選手も驚いていました。

ヤマハを離れてからの2年間、ロッシ選手は苦悩の日々を過ごしていましたが、このときはとても明るい表情だったのが印象的。この年までロッシ選手のチーフメカニックを務めたジェレミー・バージェスさんや、ロッシの幼馴染でパーソナルアシスタントを務めてきた“ウーチョ”ことアレッシオ・サルッチさんも、「彼の表情が昨年とはまるで違うから、我々もハッピーなんだ」と話していました。ロッシ選手はこの最初のテストから、マシンのセッティングはもちろん、新しいライディングスタイルにもいろいろとトライしていたようで、ベテランながら環境の変化に対応しようとする姿勢はさすがと感心しました。

ペドロサ選手を堂々と押さえ、首位と6.201秒差の3位になったマルケス選手。 [写真タップで拡大]

そして2013年シーズンは、前年までと同じくカタールで開幕。このレースで優勝したのは、前年に最高峰クラスで自身2度目の最高峰クラスタイトルを獲得した、ヤマハワークスチームのホルヘ・ロレンソ選手でした。ロレンソ選手は、2度目のウインターテストやカタールGPのプラクティスでもロングランを実施していて、マシンの仕上がりがいいことをうかがわせていましたが、開幕戦ではまさにその通りの結果に。そして2位にはロッシ選手、3位にはなんとマルケス選手が入賞しました。マルケス選手は、同じホンダワークスチームから参戦するダニ・ペドロサ選手をラスト6周でパスして2番手に浮上。一方でロッシ選手は、予選7番手かつレース序盤にコースアウトして出遅れながら中盤以降に追い上げ、ラスト4周のところでペドロサ選手を抜いて3番手にポジションを上げると、マルケス選手に迫りました。

トップはロレンソ選手だったが、5.990秒差の2位に入ったロッシ選手もご満悦。 [写真タップで拡大]

そして最後は、マルケス選手とロッシ選手が白熱のバトルを展開。ロッシ選手にはルーキーに負けられないという気迫、マルケス選手にはレジェンドライダーにも恐れを抱かぬ強さが感じられ、本当に見ごたえがあるレースとなりました。この開幕戦は、2013年のMotoGPがかなりおもしろいシーズンになることを予想させるものだったのです。


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