ホンダが威信をかけて勝ちにきた! そう思わずにはいられない新型CBR1000RR-Rの開発手法は、変化球ナシのど真ん中ストレートだ。日本での発売が見込まれるのは2020年春頃。待ちきれない気持ちを抑えながら、開発者に話を聞いた。
今回インタビューを行なったのは、「馬力屋」と紹介されるエンジン研究担当の出口氏と、EICMAでもお話を伺った石川氏。石川氏は’80年代のブームから4気筒が大好きということで、もちろんカワサキのZX-25Rにも興味津々だとか。

[左]出口寿明氏(本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター パワーユニット開発部 動力研究課 技術主任)[右]石川譲氏(同 完成車開発部 完成車統括課 課長 技師)
【’20 HONDA CBR1000RR-R FIREBLADE/SP】主要諸元 ■全長2100 全幅745 全高1140 軸距1455 シート高830(各mm) 装備重量201kg ■水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 999cc 217.6ps/14500rpm 11.53kg-m/12500rpm 変速機6段 燃料タンク容量16.1L ■キャスター24° トレール102mm ブレーキF=φ330mmダブルディスク+4ポットキャリパー R=φ220mmディスク+2ポットキャリパー タイヤサイズF=120/70ZR17 R=200/55ZR17 ■予想価格:278万3000円(245万3000円) ※( )はSTD ■予想発売時期:2020年3月20日
手段を決めることなく目標馬力を設定した
新型CBR1000RR-Rで気になるのは、なんといっても217.6psという馬力だろう。しかも、噂されていた可変バルブ機構などは使わずにこれを実現している。
石川氏「新しいエンジン開発にあたっては、’20年の時点で予想されるライバル勢に対し、パワーでも勝るというのがシンプルな目標でした。そこにはエミッションとの両立なども絡んでくるので、もちろん各種デバイスの検討もしましたが、素のエンジンで最大のパフォーマンスが出ているのが大前提。このエンジンならそのままイケるという判断で、一番シンプルなところを選びました。今後、よりパワーを出したいとか、環境性能への要求が厳しくなるような場面があれば、デバイスを付加していく可能性も検討するでしょう」
ライバル勢のなかでもドゥカティのパニガーレV4Rは221psだ。負けず嫌いのホンダとしては気になるところだと思うが……。
石川氏「他社の数値についてはなんとも言えませんが、実際のパフォーマンスでは遜色ないと考えています」
パワーを出すことを突き詰めていくには、重箱の隅をつくように回転の限界を上げていく必要がある。
出口氏「ボア×ストロークを基本に、RC213V-Sのノウハウを投入していったのがメイン。チタンコンロッドやDLC処理したカムシャフトなども同様です。動弁系や吸気ポート形状などもRC213V-Sのノウハウをダイレクトに生かしました。ただ、V4ではなく直4エンジンということでクランクシャフトが長く、そのままだとたわんでしまってロスが出る。そこでクランクケース剛性も併せてバランスを取っていくのが苦労した部分と言えるでしょうか」
RC213V-Sといえば、サーキット用のキットパーツ装着車で215psとなっている。数値的にはこれを超えているのが驚きだ。
石川氏「213V-Sは、MotoGPの車両をそのまま作っているので非常に次元が高い。サーキットでは通常の市販車よりも、馬力などの数値以上に速いのです。その性能、市販状態ではなくキットパーツ装着車の性能を、法規対応しながら、量産車として作るというのがターゲットでした。213V-Sがベンチマークとして存在したことが、開発には大きなアドバンテージになったと思います」
CBR1000RR-RはSTDとSPの2本立て。車体色はどちらもトリコロールと黒が用意される。両車の主な違いは、電子制御オーリンズ+ブレンボ+リチウムイオンバッテリーのSPと、ショーワ+ニッシンのSTDといったところ。

RC213V-Sと同じバルブ径としただけでなく、吸気側バルブの挟み角も11度→9度へと変更し、これも213V-S同等に。吸気ポート形状も同じとした。ホンダ最高峰のエンジンをV4から直4に作り替えたようなものと言える。

ボア径はモトGPレギュレーション上で最大となるφ81mmを踏襲し、213V-Sと同じ材質のA2618材鍛造ピストンを採用。従来比で1個あたり約5%の軽量化を図った。スカート部にオーベルコート、ピストンピンのクリップ溝にはニッケル-リンめっきを施す。
高回転化のため、軽量なナットレスチタンコンロッドを採用。コンロッド/コンロッドキャップのチタン、コンロッドボルトのクロームモリブデンバナジウム鋼ともにホンダが開発した材質で、クロモリ製コンロッドに比べ約50%の軽量化を実現している。小端部のブッシュにはベリリウム銅、大端スラスト部にはDLCコーティングを施している。

ロッカーアームだけでなくカムシャフトにもDLCコーティングを施す。ホンダではRC213V-S 以外で初という。駆動はセミカムギアトレインシステムで行う。

フィンガーフォロワー式ロッカーアームを採用。従来型のバケットタイプに比べ、約75%もバルブ系慣性重量を低減した。表面処理はDLCだ。
マフラーは排気バルブまで含めアクラポヴィッチと共同開発。バルブは全閉時の排気リークを抑えるためストッパーを追加するなどし、38%の容量削減に貢献した。
ホンダ新型CBR1000RR-R開発者インタビュー、次ページではMotoGPマシンと同等の空力やラムエアシステム等について、さらに話が展開する。
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