
エンツォ・フェラーリにとって「ディノ206S」は悲痛な思い抜きでは語れないマシン。一方、サーキットの狼ファンにとっては、これほど胸をときめかせるマシンもありません。無論、世界中のフェラーリファンにとっても同様で、たった18台しか作られなかったディノ206Sはオークションに出品されるや否や天井知らずの入札が続出している模様。フェラーリがまたしても落札価格の記録を塗替えるのかどうか、これはもう目が離せません。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
50台の予定がわずか18台で打ち止め
ご存じの通り、ディノは若くして病没したアルフレード・フェラーリの愛称。スクーデリアでエンジニアとしても活躍していただけに、エンツォの悲しみは想像を絶するものだったに違いありません。彼が開発に携わったF2エンジン、65度のバンク角を持つV6に「ディノV6」と名付けたくなるのも大いに納得です。
ちなみに、珍しい挟み角は吸気ポートやキャブを配置しやすく、吸気効率を最大化させるメリットがありました。後に、ヴィットリオ・ヤーノという稀代のエンジニアがブラッシュアップし、220psを発揮するに至っています。
1966年、スクーデリア・フェラーリは、このF2エンジンを使ってスポーツプロトタイプレースに参戦することを決定。レギュレーションによって50台の製造を計画したものの、イタリアを襲った労働争議によって工場が滞ってしまい、たった18台しか組み立てることができませんでした。
この惨状に目を覆ったエンツォが、フィアットとの提携に舵を切ったのは有名なエピソード。ディノの早逝といい、願わない提携といい、この時期のエンツォは徹底的な不運に見舞われていたのでした。
不運といえば、ディノ206Sもあまり運に恵まれたとは言えません。前述の通り、50台のホモロゲーションを達成できなかったために、本来参戦するはずだったグループ4カテゴリには入れず、無制限にほど近いグループ6へのエントリーをするはめに。
これは、兄貴分の4.0リッターV12を積んだ330P4が走っているクラスですから、苦戦することは当初から明白だったのです。
1966年のスポーツカーレースでデビューしたディノ206Sは50台の生産予定が、18台しか作られず、こちらは1967年に作られた最後の1台。
わずか500kgほどの車体に、2リッターのディノV6エンジンは220psを供給。優れた運動性能は難コースのタルガ・フローリオで証明されました。
逆境を跳ね返すレースリザルト
が、デビュー戦のセブリング12時間では総合5位、クラス2位という素晴らしい成績を収め、市街地の難コースを走るタルガ・フローリオでも総合2位となるなど、マシンそのものポテンシャルはかなりの高レベルだったのです。
もっとも、熟成という部分ではちと弱く、ルマンでは3台がエントリーしたものの、すべからく序盤でリタイヤ。油圧やら、足まわりのトラブルやらは、後の検証によって予防できたものとされています。
それでも、206Sが忘れがたい存在となっているのは、やっぱりディーノ・ブランドとして市販モデルをリリースしたことではないでしょうか。エンジンこそ縦置きから横置きに変更されているものの、受け継がれているものは少なくありません。
また、206Sがタルガで好成績を残したことで、ミッドシップの市販車に「運転が難しい」と懐疑的だったエンツォが翻意したことも事実。すなわち、206Sの存在がなければ、今のフェラーリにおけるミッドシップスポーツは生まれなかった可能性すらあるのです。
さらには、ディノV6は、ご存じの通りフィアット経由でランチアが使用することになり、これまた伝説的なラリーチャンピオン「ストラトス」の心臓部となったのでした。
65度という変わったバンク角は吸気効率の最大化を目論んだもの。こちらのエンジンはスクーデリアによってルーカス製インジェクターが装備されています。
サーキットの狼に登場した魔改造ディノ
なお、サーキットの狼に登場したディーノ・レーシングスペシャルはスタイルこそ206Sや、ディーノ・ベルリネッタ・コンペティツィオーネに見えるものの、元をただせばディノ246GTを矢田部のオッちゃんが魔改造した力作。
それでも、オリジナルのリップスポイラーやスプリッターを装備した姿は206Sのルマン仕様をほうふつとさせるもの。これを見てワクワクしないクルマ好きはいないことでしょう。
ともあれ、ディノを名乗る世界遺産的マシンがいかほどの値段をつけるのか、サーキットの狼ファンならずとも注目せねばなりますまい。
ノーズにはもちろんディノのエンブレムが鋳込まれています。ゼッケン28は1967年のムジェロに参戦したカーナンバーをそのまま維持したものと思われます。
エクステリアイメージ
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
EICMAで熱視線を集めるイタリア発の都市型マイクロモビリティ ミラノで開催されたEICMA 2026で異彩を放ったデスナー T30は、欧州のL6e(軽量四輪車)規格に適合する完全電動の2人乗りシティ[…]
30年の精密製造技術を結集したハイエンドな車体構造 現在公開されているEICMA 2026出展車両の中でも、ひときわ異彩を放っているMTPEAK One All。3D精密加工やCNC切削、カーボンファ[…]
中部地方初の拠点「名古屋BASE」が庄内通にオープン 地下鉄鶴舞線の庄内通駅エレベーター口から徒歩5分というアクセスしやすい場所に、ビークルファンの新拠点「名古屋BASE」が開設された。関東や関西、九[…]
システムトータル出力880馬力、プラグインハイブリッドシステムを採用 918スパイダーの開発にあたり、ポルシェが掲げたコンセプトは「ポルシェ・インテリジェント・パフォーマンス(性能と効率性の高次元での[…]
普通免許で楽しめる!前2輪リバーストライクが生む圧倒的な安定性と走りの歓び Can-Amの3輪モビリティ(Spyder / Ryker)はバイクともクルマとも違う、自由と走りの歓びを届けるオープンエア[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
軽量化への徹底したこだわりが生んだ、革新的なスーパースポーツ 1980年代、国内のバイク市場ではレーサーさながらの外観と高性能を備えた、レーサーレプリカの人気が急速に高まっていた。その流れを牽引する存[…]
悪評を覆し、世界中で熱狂的に迎えられた「GSX1100S KATANA」 GS750・1000はひとまずの成功を収めたが、スズキはさらなる高出力化を求めて研究を開始。新4バルブユニットには GSXの名[…]
初期型ゼファーの第一印象は「遅い!」だった 1989年に発売されたカワサキ・ゼファーは、レーサーレプリカ全盛期にデビューし、その後の「ネイキッドバイクブーム」の立役者となった一台です。 ちなみに「ゼフ[…]
Z1から11年、新基準を打ち立てた カワサキが水冷6気筒のZ1300を発売したのは’79年だったが、この頃からすでにZ1系に代わる次世代フラッグシップが模索されていた。Zに改良を加えて世代交代を進めて[…]
スペックで勝負する時代の終焉 “スペックの高さこそがスポーツバイクの存在意義”と、多くのライダーが疑わなかったレーサーレプリカブーム。その全盛期ともいえる1989年に、カワサキが発表した「ゼファー」は[…]
人気記事ランキング(全体)
悪評を覆し、世界中で熱狂的に迎えられた「GSX1100S KATANA」 GS750・1000はひとまずの成功を収めたが、スズキはさらなる高出力化を求めて研究を開始。新4バルブユニットには GSXの名[…]
中部地方初の拠点「名古屋BASE」が庄内通にオープン 地下鉄鶴舞線の庄内通駅エレベーター口から徒歩5分というアクセスしやすい場所に、ビークルファンの新拠点「名古屋BASE」が開設された。関東や関西、九[…]
S 1000 RRのDNAを凝縮したアグレッシブなフォルム EICMA 2026のBMWブースで大きな注目を集めそうなF 450 RRは、上位モデルの意匠を色濃く受け継いだグラマラスなカウリングをまと[…]
70年代レースシーンとM.マルケスのモチーフを合体! 『Glamster MARQUEZ DUSTY RACE』は、MotoGPライダーのマルク・マルケス選手のシグネチャーモデルだ。トップライダーのグ[…]
高性能ICを採用したバイク専用電源 クラシックデュアルメータールックカバーのサービスホールに取り付け可能な、USB Type-C 1ポートを備えたバイク専用電源。接続機器に合わせて最適な充電を制御する[…]
最新の投稿記事(全体)
国内版CBR400R FOURと共通基盤を持つ502cc直4エンジンとEクラッチ 欧州発表の新型CBR500R FOURは、国内で販売されているCBR400R FOURの直列4気筒プラットフォームと基[…]
EICMAで熱視線を集めるイタリア発の都市型マイクロモビリティ ミラノで開催されたEICMA 2026で異彩を放ったデスナー T30は、欧州のL6e(軽量四輪車)規格に適合する完全電動の2人乗りシティ[…]
チェックポイントは陸上にあらず! 試されるのは「海の中まで行く覚悟」 「端ッコスタンプラリー第4弾」の最大の特徴は、チェックポイントが陸上に存在しないという衝撃の仕様だ。 スタンプを獲得するためには、[…]
会場で観ようぜ!全日本ロードレース選手権最終戦鈴鹿 全日本ロードレース選手権も残すところ10月24日・25日に三重県・鈴鹿サーキットで開催される最終戦MFJグランプリを残すのみとなりました。 Moto[…]
数年間放置V-MAXと過走行サンバーをフラッシング オイル交換予定のヤマハV‐MAXは、車検切れのまま数年間放置されていた車両である。この機会にフラッシングを行い、エンジン内部をリフレッシュすることに[…]
- 1
- 2









































