
マクラーレンF1のレース仕様、GTRの生涯を振り返ると「出る杭は打たれる」という言葉を思い出さずにはいられません。1995年のデビューイヤーこそ破竹の勢いだったものの、強すぎたことでポルシェやメルセデスベンツの逆鱗に触れてしまい、最強バージョンだったはずの97モデルに至っては、レギュレーションにからめとられてしまう始末でした。とはいえ、クルマの強さ、完成度は誰もが認めるものであり、ル・マン初出場ながら総合優勝という快挙は、いささかも歪められるものではないでしょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
GTRは5台の予定がけっきょくは28台を製造
ロードカーとしてマクラーレンF1が登場したのは1992年のこと。ちなみに、この年デビューのスポーツカーはRX-7(FD)やインプレッサWRX、ダッジ・バイパー、あるいはジャガーXJ220など印象に残るモデルが少なくありません。
それでも、BMW製6.0リッターV12をミッドにマウントして、ドライバーをセンターに配置する特異なレイアウトをとったF1は群を抜いた存在だったかと。
鬼才、ゴードン・マーレーは自らの理想とした純然たるロードカーとして設計したのですが、ポテンシャルの高さはレース関係者から注目の的だったこと想像にかたくありません。
そこで、有力プライベーターがマクラーレンにレース仕様を打診すると、マーレー自身は難色を示したものの、けっきょくは「5台作れば開発費の元が取れそうだ」とのことでプロジェクトは進行。1995年から始まるGTカテゴリー参戦に向けたGTRの開発がスタートしたのでした。
マクラーレンF1はロードカーとして作られながらも、使っているパーツはほとんどF1レースと等しいクオリティだったために、開発はもっぱら軽量化に集中されたとのこと。
また、ロードでは使えなかったカーボンブレーキや、乗り心地を重視したゴムブッシュを金属マウントやピロボール化するといったレースカスタムは「さすがマクラーレン」といったレベル。これまたF1マシンを作るのと同じクオリティで作りこまれているのです。
ご存じの通り、エアリストリクターによる制限も課され、ストックの627psは600psまで抑えられることになりました。が、100kg以上の軽量化によって、車重は1050kgまで落とされ、ウェイトパワーレシオ:1.75kg/psとロードカーベースのレーサーとしては優れた数値を達成。
無論、エンジンの責任を負うBMWの伝説的エンジニア、パウル・ロシュによるレース向けリファイン、精査がなされていることは言うまでもないでしょう。
マクラーレンF1 GTRは1995年にレースデビューして、年々進化を繰り返し、この97ロングテールは最強と呼ばれるマシン。
1997年、チーム郷がル・マンに参戦したラークカラーのまま売り出されています。
虎の尾を踏むことになった95シーズン
前述の通り、95シーズンはル・マンをはじめ数々のトロフィーを獲得したものの、96シーズンはポルシェ911GT1に苦杯を飲まされました。
あちらは911を名乗りこそすれ、生粋のレーシングカーですから、いくらGTRといえども分が悪い。それでも、ル・マン連覇は逃したものの、GTカテゴリー11戦中7勝を挙げるという活躍。
ですが、マクラーレンにとってポルシェや、メルセデスベンツのGTマシンを破るには大幅なモディファイが必要だと思い知らされたシーズンとなったのです。
97モデルでは排気量を6064から5999ccに変更。ピストンの軽量化がなされた模様ですが、リストリクター装着後の600psの出力は維持されています。
もちろん、ドライバーを車体中央に配置するロードカーとしては特異なポジションはそのままキープ。
土屋圭一/中谷明彦が駆ったマシンそのもの
そして97モデルとして生まれたのが、今回ご紹介する「ロングテール」と呼ばれる空力性能を研ぎ澄ましたマシン。
前後オーバーハングを増やし、またリヤウィングも大型化することで、より強力なダウンフォースを得ることに成功。しかも、車重をさらに100kg以上減らして915kgまで減量させています。
こうしたモディファイの結果、マクラーレンF1は再度ホモロゲーションを取得することになり、なんとロングテールGTRの公道モデルが1台だけ販売されることに。こちらも、機会があれば詳しくお伝えしたいモデルです。
けっきょく、ロングテールGTRは10台が製造され、すべてプライベーターに売却されました。肝心のリザルトですが、今度はメルセデスベンツCLK-GTRにシリーズチャンピオンの座を奪われ、惜しくも2位。
ル・マンもレギュレーションの隙をついてきたポルシェWSCがまんまと優勝したものの、2&3位を獲得。ちなみに、クラス優勝も遂げており、宿敵だった911GT1を下しています。
マクラーレンのド根性がみっちり詰まった97ロングテールGTRですから、これまでオークションに出ることはなかった(レース関係者同士で売買が行われていた模様)のですが、イギリスのチームが走らせていた1台が遂に登場しました。
なんと、ゼッケン44番、中谷明彦、土屋圭市、ゲイリー・アイルズがドライブしたマシンそのもの! レースでは残念ながら5時間をすぎたところで中谷選手がクラッシュ、リタイヤすることになってしまいましたが、その雄姿は誰の胸にも刻まれたはず。
となると、オークションでの指値1800万~2100万ドル(約27億~32億5000万円)という値段にも驚きはありません。日本のレースファンにとってはかけがえのないマシンであり、まさにプライスレスな1台。
ぜひ、国内のリッチマンに落札してほしいと願うモータースポーツファンは決して少なくないことでしょう。
97年のル・マンでは惜しくもクラッシュ&リタイヤ。他のマクラーレン勢は総合2/3位、GTクラスでの優勝を勝ち取りました。後ろに見えるのはメルセデスベンツCLK-GTR。
チーム郷のドライバーは土屋圭一選手や中谷明彦選手が選ばれ、予選では土屋選手の奮闘により総合10位(3分47秒108)という好ポジションをゲット。
外観イメージ
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