
iB井上ボーリングが積極的に展開中のICBM®技術。内燃機ファンの間ではもはや当たり前であり、“高性能な技術”としても認識評価されている。その技術にあらためて注目し、未体験ユーザーへお届けしよう。
●文/写真:たぐちかつみ(モトメカニック編集部) iB井上ボーリング ●外部リンク:iB井上ボーリング
熱膨張率の均一化によって様々なアドバンテージがある
2ストローク/4ストロークエンジンを問わず、エンジン性能を向上するためには様々な課題や問題がある。特に大きな課題は、“熱膨張率”に関わる問題だ。
「エンジン性能の向上」と記したが、それは単純な馬力アップではなく、様々なユニットが持つ耐久性の向上なども大きな要素となる。具体的には、シリンダーを構成するすべての部品が“アルミ製”になることで、様々なアドバンテージを得られることが立証されたのだ。
カワサキZ1/Z2を例にすると、アルミ製シリンダーバレルと鋳鉄製スリーブの間には、長期に渡る使用で“隙間(すきま)”が発生していることが多い。ファンの間でもよく知られている問題である。ボーリング加工の受注で、ユーザーやショップから届いた部品を開梱すると、嵌合が緩んでいる鋳鉄スリーブがシリンダーから抜けていたり、抜けかかっている例が頻繁にあるそうだ。
シリンダーに保持されている鋳鉄スリーブでも、軽い衝撃で簡単に抜けてしまうことが多い。抜けていない鋳鉄スリーブでも、そのままボーリングやホーニング仕上げを行うと、加工時のツール回転によって鋳鉄スリーブが回ってしまい、危険なことが多い。現実的に、加工できない場面が多々あるそうだ。
オーバーサイズ加工を施せても、エンジンを組み立て始動することで熱が入り、シリンダーバレルと鋳鉄スリーブの間には隙間の発生が想像できる。そんな状況では、鋳鉄スリーブからアルミシリンダーバレルへと効率良く熱を逃がせなくなってしまう。
つまり、“熱伝導性が低下”し、さらに鋳鉄スリーブとアルミシリンダーの嵌合部は隙間が大きくなってしまう。そんな状況では鋳鉄スリーブが不安定になり、上部のツバ部分だけで支えられる状況になることも。これでは効率良く放熱できず、スリーブの振動によってシリンダーバレルが異常摩耗してしまうことになるのだ。
この問題は、アルミと鋳鉄の“熱膨張率の違い”によって発生する。そこで、鋳鉄スリーブをアルミ素材のスリーブに変更することで、問題発生を根本的に解決できるのだ。
現代のメーカー純正アルミシリンダーと同様に、ニッケルシリコンカーバイト系の特殊めっきを施したアルミスリーブが入手できる現代なのだから(まさにICBM®スリーブがこれ)、重くて摩耗も早い鋳鉄スリーブを選択する理由は、“コスト差”以外に考えられない。
言葉は悪いが、中古車を“売り逃げ”するのではなく、末永く乗り続けるためにオーバーホールするのなら、コストをかけてでも高性能なアルミめっきスリーブを採用するべきだろう。
指定ピストンに対してホーニング完成済みスリーブとして販売されているカワサキZ1 用のEVERSLEEVE®pat.。井上ボーリングへの依頼だけではなく、他の内燃機業者でもICBM®化が可能になるアルミめっきスリーブキットだ。
性能維持に貢献するピストンクリアランス問題
ホーニング仕上げ時には、ピストンとスリーブの間にクリアランスが存在する。エンジンによってクリアランス数値に違いはあるが、ノーマルエンジンならメーカー設定データに準じることで問題はない。メーカーでは連続耐久テストを経た後に、正式なクリアランス数値が決定されているからだ。
エンジン始動前は冷えていて、始動後に発生した熱によって部品各部が熱膨張する。ピストンには熱膨張率が大きなアルミ素材を採用し、摺動するスリーブには熱膨張率の少ない鋳鉄素材を採用する例が多い。
しかし、これは理に適ったものではない。爆発を受け止めたピストンが大きく熱膨張しても、シリンダースリーブが半分程度しか熱膨張しないので、ピストンクリアランスを大きく設定しないと焼き付きトラブルが発生しやすくなる。そんな状況を踏まえたときに、理想的な組み合わせと呼べるのが、ピストンと同じアルミ素材を使った“アルミ製スリーブ”の採用になる。
温度域に関わらず、ピストンとスリーブは常に同じように熱膨張する。以上のことから、ピストンクリアランスを少なめに設定することが可能になり、しかもめっきシリンダーなら焼き付きにくいといった特徴も得られるようになる。
また、ピストンクリアランスが少なくなると、往復運動中のピストンの首振りが抑制され、それによりピストン摺動部の摩耗も減る。エンジンコンディションの良し悪しに大きく関わる圧縮圧力の維持においても、ピストンクリアランスが少ないほうが、条件的に優位なのは明らかだ。
さらに鋳鉄製ウェットライナー(水冷エンジンのスリーブを冷却水が直に冷やす)を採用しているモデルの中には、高温化したエンジンの鋳鉄スリーブを支えるアルミシリンダーバレルが熱膨張することで、冷却水漏れを起こしてしまうケースもある。
GPZ900RニンジャやGPZ1000RXなどにそのようなトラブル例が多いが、エンジン内部の水漏れは修復か困難なので、あらかじめアルミめっきスリーブを採用しておけば、このような問題も起こりにくくなる。
熱膨張率に関する研究を進めることによって、iB井上ボーリングでは、EVER SLEEVE®pat.(エバースリーブ)の特許取得に至ったのだ。様々な裏付けをテストによって得ることができたからだ。
サビ、サビ、サビ…。サビが及ぼす影響も大きい
休眠中のバイクを復活させようとエンジン始動を試みたところ“キックが降りない”とか“セルが回らない”などの状況に直面することがある。車両の保管状況にもよるが、露天保管だったわけでもないのに、シリンダー内壁にサビが発生し、最悪でピストンリングとシリンダーがサビで固着しているケースもある。
始動できたとしても、サビによってピストンリングがシリンダーのサビをかき落とし、エンジン内部へ送り込んでしまうことから、二次的な被害が起こることも多い。仮に、僅か数年の休眠期間でも、吸排気バルブが開いている隙間から湿気が流れ込み滞留すれば、シリンダー内壁はサビてしまうものだ。
しかし、アルミめっきスリーブなら、シリンダー内壁が赤サビに侵されることはない。ウェットライナー式シリンダーのモデルでも、サビが原因によるトラブル例がある。
たとえば水冷GPZ系エンジンを例にすると、ウェットライナー式鋳鉄シリンダーのサビが進み、冷却水が赤茶色く濁ったラテ状態になってしまうことがある。そのまま放置し続けた結果、サビ水がウォーターポンプのインペラを腐食させてしまうことも珍しくない。
なので、冷却水交換を含めた一般整備を施し、車検を取得して公道復帰。
ところが、常にオーバーヒートが続いてしまう!? そこで、ウォーターポンプカバーを取り外したところ、何と、ウォーターポンプのインペラが「なくなっている!!」といった例もある。
過去にそんな実例を聞いたことがある水冷モデルファンもいるはずだ。そんなエンジンこそ、アルミめっきスリーブの採用が最適とも言うことができる。
ボーリング依頼でシリンダーが届くと、すでにスリーブが抜けていたり、シリンダーバレルからスリーブがズレている例が頻繁にあるそうだ。この程度のズレは当たり前らしい。
スリーブが抜けてしまったシリンダーバレルを見ると、スリーブが回転時に残したキズが目の当たりになる。輝いた部分はさらに深刻で、クリアランス過大と考えられる。
オーバーサイズ加工中にスリーブが回ってしまうことが多いZ1/Z2。以前はイモねじによるスリーブ固定を請けたが、根本解決にはならないので、現在は受注していない。
エバースリーブで仕上げられたカワサキZ1 シリンダー。オールアルミシリンダーになったことで、圧倒的な放熱効果を誇る。アルミスリーブなのでピストンクリアランスを詰めることも可能だ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
モトメカニックの最新記事
ナンバー付きからレース専用車まで本格的スポーツ走行と模擬レースが体験できる 各地のサーキットには、ライダーの技量に応じてファミリー走行枠やスポーツ走行枠といったクラスが設けられていることが多い。また主[…]
コンパクトで抜群のフィット感。海外でも高評価のZ-EALソケット ミリサイズで人気を誇るZ-EALソケットシリーズに、遂に登場したインチサイズ。アメリカ製の機械は大ざっぱというイメージは過去のもので、[…]
量産型スーパーカブとは明らかに異なる初代シリーズ 新品デッドストックの部品を譲っていただき加工し組み付ける。しかし、この部品はもう二度とお目にかかれないかも? さらに加工も考えている。少しでも長く、そ[…]
数年間放置V-MAXと過走行サンバーをフラッシング オイル交換予定のヤマハV‐MAXは、車検切れのまま数年間放置されていた車両である。この機会にフラッシングを行い、エンジン内部をリフレッシュすることに[…]
「キャブボディ摩耗」こそFCRが抱える問題 FCRにはセッティング以外にも、長年使用することで発生する特有の問題があります。それがキャブボディ内部の摩耗です。 FCRのスロットルバルブは、操作抵抗を軽[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
クッション性抜群!腰に優しい絶妙な高さ設定 作業中の負担を大幅に軽減してくれるこのシート。座面にはクッション性の高い素材を採用しており、長時間の集中作業でもお尻や腰へのダメージを最小限に抑えてくれる。[…]
奥まった場所でも楽に作業ができる 今回登場した「エクステンションクランプツール」は、カウルの奥深くに潜むボルトや、スクーターの入り組んだ外装、エンジン周辺などの狭小スペースにアプローチするための優れも[…]
ママチャリとはサビるもの こちら(↑)妻のママチャリです。赤い色をしてますが、最高速が3割増しということはなく、至って普通のありふれたママチャリです。そんな妻のママチャリを「定期チェック」するのですよ[…]
有言実行のチャンス到来 さあ有言実行! 予告していた実験をするチャンスがやって参りました。以前、バイク部品のサビを電気の力で分解するという実験をやってみましたが、同じ方法でガソリンタンクのサビを落とし[…]
「キャブボディ摩耗」こそFCRが抱える問題 FCRにはセッティング以外にも、長年使用することで発生する特有の問題があります。それがキャブボディ内部の摩耗です。 FCRのスロットルバルブは、操作抵抗を軽[…]
最新の関連記事(iB井上ボーリング)
アルミスリーブは圧倒的な放熱性を誇る iB井上ボーリング(以下iB)が取り扱う内燃機加工修理の中で、とくに、大きなシェアを占めているのが“空冷エンジン”のシリンダー。 減らないアルミシリンダー「ICB[…]
何よりも高耐摩耗性の実現 圧倒的な耐摩耗性を誇るのが、アルミめっきシリンダーの大きな特徴である。iB井上ボーリングが、アルミめっきスリーブを作ろうと考えた最大の理由は、同社の社是でもある「減らないシリ[…]
現代のめっきシリンダー技術を、往年の名車や旧車エンジンに オイル交換をしっかりかつ定期的に行っていても、長年乗り続けることでどうしてもすり減ってしまうのが鋳鉄シリンダースリーブ。そんな鋳鉄スリーブに対[…]
減らないシリンダーづくりを現実的にした技術「ICBM」 金属表面の硬度を表すひとつの基準にビッカース硬度がある。鋳鉄の硬度が45から、硬いスリーブ素材でも140程度のデータに対して、ICBM®シリンダ[…]
入手困難な旧車のパーツをクラウドファンディング 「群衆/Crowd×資金調達/Funding」という言葉を組み合わせた造語が「クラウドファンディング」。インターネットやSNSを通じて、不特定の賛同者に[…]
人気記事ランキング(全体)
軽量化への徹底したこだわりが生んだ、革新的なスーパースポーツ 1980年代、国内のバイク市場ではレーサーさながらの外観と高性能を備えた、レーサーレプリカの人気が急速に高まっていた。その流れを牽引する存[…]
税込418万円で2027年1月23日発売! 国内限定300台のプレミアモデル 再導入の報から注目を集めていた2027年モデルのNinja H2 CARBONだが、注目の価格はカワサキケアおよびETC2[…]
国土交通省の性能等確認試験に適合した免許不要の特定小型EV四輪 ELEMOsが展開する特定小型EV四輪「エレポーター」および「エレポーターPRO」が、国土交通省の定める性能等確認制度に基づき、公益財団[…]
武骨で美しいファットバイクスタイルと16歳以上免許不要の手軽さ 一般的な電動キックボードや華奢な電動アシスト自転車とは一線を画す、圧倒的な存在感を放つのが「COSWHEEL MIRAI G」だ。 この[…]
冬ツーリングの天敵「底冷え」と「着ぶくれ」を克服するインナーの重要性 氷点下に迫る冬の道路を走る際、ライダーの体感を急激に奪っていくのが連続する走行風だ。寒さによって身体が強張ると、ブレーキやクラッチ[…]
最新の投稿記事(全体)
個性を主張する3つのグラフィック! 愛車のスタイルに合わせて選べ マルシンヘルメットブランドとしては初となる今回のコラボモデルは、ストリートからツーリングまで映えまくるオープンフェイス(ジェット)ヘル[…]
ナンバー付きからレース専用車まで本格的スポーツ走行と模擬レースが体験できる 各地のサーキットには、ライダーの技量に応じてファミリー走行枠やスポーツ走行枠といったクラスが設けられていることが多い。また主[…]
賑やかな空気に包まれた1周年感謝祭 「最初はグー!じゃんけんぽん!!」会場のあちこちから歓声が上がり、大人も子どもも笑顔いっぱい。豪華景品が用意されたウィズハーレー専属モデル・千羽ちゃんとのじゃんけん[…]
空力性能を追求したウイングレットとシャシージオメトリーの最適化 カワサキのフラッグシップスーパースポーツとして君臨するNinja ZX-10R。その走りのポテンシャルをサーキットでの戦闘力へ純粋に昇華[…]
スイスイ走れちゃうリーズナブルな電動! 日常での利便性に優れて街に馴染む走行性能 私がフル参戦している全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラスは、猛暑を避ける約2ヵ月間の夏休みを終え、間もなくシーズ[…]
- 1
- 2












































