そのキャラクターがいかにも荒々しそうな「The BEAST」のキャッチコピーを持つKTMの1290スーパーデュークRシリーズだが、電子制御をより充実させたEVOは、優しく寄り添ってくれることもあるし、どこまでも猛々しくそれでいて頼れる相棒になってくれることもある。つまりライダーにとても忠実な野獣なのだ。飼い慣らせるかはアナタ次第。でも、難しく考える必要はどこにもない。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:KTMジャパン
進化を続ける超スーパーネイキッド
1301ccのツインエンジンで180psを発揮。しかも重量は200kg(ガソリンなし)に収まっている。このスペックを見るだけでバイク好き、もしくはベテランライダーはちょっと躊躇すると思う。国産の4気筒の同排気量のビッグネイキッドの1.6倍のパワーを発揮し、重量は50kgほど軽いだろうか……。
KTMの大排気量デュークは、2003年にプロトタイプの950デュークが登場し、2005年に990デュークとして市販化。2008年、2011年にもモデルチェンジしたが当時のデュークは、シャシーとサスペンションが猛烈に硬く、公道では乗り切れないほどスパルタンだった。
それが2014年に刷新。高スペックと扱いやすさを手に入れつつも「THE BEAST」として完全に生まれ変わったのだ。僕はこの時にスペインで行われた試乗会にも参加したが、そこで感じたのはKTMのバイクづくりが完全に変わったことだった。それまでオフロードの印象が強かったが、どこにも負けないロードスポーツを本気でつくってきたことを肌で感じた。
そして、2017年にマイナーチェンジが行われ、2020年にフルモデルチェンジ。フレームや足まわりを刷新したこれが現行モデルである。さらに2022年には1290スーパーデュークR EVOが登場。EVOの名を冠した初の1290スーパーデュークRは、電子制御式のセミアクティブサスペンションを搭載。KTMでもっともスポーティなロードスポーツと言えるだろう。
ライダーに選択を委ねられる電子制御式サスペンション
跨ると、835mmとシートは高めだが身長165cmの僕でも両足を着こうと思わなければ十分許容範囲。ハンドルはワイドだがとても自然なアップライトなポジションで、車体の軽さとスリムさもありとてもフレンドリーに感じさせてくれる。
KTMは全般的にスイッチが使いやすく、慣れてしまえば欲しいモードを直感的に導き出せるはず。ライドモードは「スポーツ」「ストリート」「レイン」から選択でき、モードによってパワー特性や様々な制御の介入度が変化。
サスペンションは「コンフォート」「ストリート」「スポーツ」のモードから選べ、今回試乗した1290スーパーデュークR EVOにはオプションのテックパック(クイックシフター+、MSR、アダプティブブレーキライト、サスペンションプロの内容で15万8024円)が装着され、ライドモードもサスペンションモードもより細く設定を変更できるようになっていた。
テックパックを装備(部品の変更は必要なく、ECUの書き換えのみ)するとサスペンションは通常のモードだけでなく「トラック」「アドバンス」「オート」のダンピング特性と、「ロー」「スタンダード」「ハイ」のプリロード調整機能やアンチダイブ機能も装備。ライドモードは「トラック」「パフォーマンス」も選べるようになる。
今回はワインディングでの試乗だったため、ライドモードは「ストリート」サスペンションモードは「コンフォート」を選択した。
通常、ライディングモードでサスペンションの特性が変わるものが多いが、1290スーパーデュークR EVOはその選択をライダーに委ねている。
リヤのスプリングプリロードも任意に選択できるが、この辺りになるとある程度のキャリアと知識が必要だから、最初にショップに相談して合わせてもらうのが良いだろう。
プリロードはそこをスタート地点にしてタンデム時や荷物積載時に調整。ダンピングはその特性によりバイクの挙動がどう変わるのかを確かめつつ、自分の好みを探ってみると面白いと思う。
サスペンションはとても難解に感じるかもしれないが、難しく考えずに色々触ってみて、迷ったらすべてをデフォルトに戻せば良いだけ。そんな気持ちで楽しんでいただきたい。
こういったハイパワーモデルはどうしても高速域を想定してサスペンションが硬めに出る傾向があり、それが難しさや怖さを生み出すことが大半。しかし、1290スーパーデュークR EVOは「コンフォート」を選べば、ハンドリングを馴染みやすくすることが可能。この電子制御式のサスペンションは決してハイアベレージ向けだけではないのだ。
エンジンは強烈。なのにしっかりとした対話ができる
エンジンは、そのスペックからどうしても身構えてしまうかもしれないが、とても洗練されている。デビュー当時は確かに荒々しく手がつけられないほど元気だった一面もあるが、最新モデルは1301ccならではの豊かなトルクにより発進からスムーズ。ツインにありがちなギクシャクする感じはなく、明確な爆発感とスムーズさを上手く共存させている。
前後サスペンションの動きも走り出した瞬間から良い。いかにも高級サスペンションの動き。スポーティでありつつ、乗り心地がよくライダーの操作をリアルタイムで感じ取り、それを効率よくタイヤのグリップに変換してくれているような印象だ。
ブレーキレバーにわずかに入力した時、立ち上がりで少し後輪への荷重を増やした時、そんな小さなアクションを見逃さずに感じ取ってくれる。確かに物凄いスペックのバイクだが、それが手の内にある感じでまったく不安や怖さがない。むしろ全面的に信頼できるのは、このリニアな感覚があるからである。
低中速を常用するワインディングではスロット開け始めの過渡特性が秀逸。スロットルを開けると「これこそがトラクション」といった感じで後輪のグリップが高まる。とにかく開けるのが楽しいエンジンだ。
撮影をしていると、「なんかこのバイクに乗っている小川君楽しそうなんだよなぁ」とカメラマンの長谷川さんに言われた。思わず「わかるんですか?」と僕。実はこの仕事をしていると数年に一度、走り出した瞬間にフィットするバイクに巡り合うことがあるのだが、まさに1290スーパーデュークR EVOはそんな1台だったのだ。
サーキットでも圧倒的な速さを披露
今回は1290スーパーデュークR EVOのワインディングでの試乗だったが、スタンダードの1290スーパーデュークRでは何度もサーキットを走っているので、その際のインプレも軽くお届けしておこう。
それはもはやネイキッドという枠に収まらないスポーツ性の高さで、ほとんどのリッタースポーツバイクと対等以上に走ることが可能。重心の低さと軽くて剛性の高いフレームは、バイクとの一体感を得やすく、だからこそアベレージアップもしやすいのが魅力的。深いバンクでの安定感も高く、どこまでも攻めていける印象が強い。
そして立ち上がりでは猛烈なパワーと秀逸な制御が威力を発揮。有り余るパワーは制御によってしっかりと路面に伝えられ、1301ccとは思えないレスポンスで次のブレーキングポイントにあっという間に到達。スキルに合わせて電子制御を合わせ込めば、暴れるような野獣にもできるし、従順な野獣にもできる。
ネイキッドは市街地やツーリングで流すバイク……KTMの1290スーパーデュークRシリーズにそんな昔からの概念は当てはまらない。KTMの考える市販ロードスポーツの究極、その完成度はとても高い。
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