【ファインダー越しに見た長島哲太×ダンロップの挑戦2026】初優勝を呼び込む一流の駆け引き:全日本ロードレース選手権第6戦岡山

【ファインダー越しに見た長島哲太×ダンロップの挑戦2026】初優勝を呼び込む一流の駆け引き:全日本ロードレース選手権第6戦岡山

「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年から全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けなければと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。


●文/写真:真弓悟史

「減量も合宿もやって、自分に出来る限りの準備はして来ました」

「自分でも勝てると全然思ってなかったですよ」

その言葉通り、優勝は突然やって来た。長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)はレース前、「レインよりも、ドライのほうがチャンスあり」と考えていた。

約1ヶ月前の全日本ロードレース第5戦もてぎ。雨のレースとなった土曜日のレース1を「何もできず、ただ走っていただけ」と言うほど、全く歯が立たずにレースを終えていた。対してドライとなった翌日のレース2での長島の躍動は、昨日のことのように今なお鮮烈な記憶として残っている。レインタイヤよりも、スリックタイヤのほうが仕上がっているのはもはや自明であり、ドライに分があると期待してしまうのは必然だった。

第6戦岡山が行われた9月27日(日)、天気予報は曇りマークが並ぶ。長島の思惑通りドライでレースが出来そうな雰囲気だった。しかし、その予報もレース当日には傘マークに変わり、午前中に行われたJ-GP3クラスの最終ラップで突如本降りの雨となり、転倒続出の波乱が巻き起こった。

その後は降っては止んでの繰り返し。ピットウォークでも、長島のサインをもらおうと並ぶ長いファンの列に強い雨が打ち付ける。もうドライの路面など全く期待できない状況だ。このまま勝利の女神は長島に微笑まないのだろうか……。

土曜日、予選を終えた長島を控室で撮影していた。レザースーツの上半身を開けてアンダーシャツを脱いだ姿に私は驚いた。減量をして挑んだ前戦もてぎの時よりも、筋肉が明らかに引き締まっているのだ。「そうですね。前より絞ってきました」と、さらりと言う。

以前、長島が言っていたことを思い出す。「いいレースで終えると次まで気持ちよく過ごせますけど、悔しいレースだと、次までその気持ちを持ち続けないといけない」

もてぎのレース2は、このプロジェクト発足以来、最も優勝に近づいたドラマティックなレースだった。しかし同時に最も悔しいレースでもあった。あの突っ伏して動けなかった姿がすべてを物語る。「まあ悔しかったですね。だから減量も引き続きやってきましたし、こっち(岡山)に来て合宿もやって、自分に出来る限りの準備はして来ました」

彼にしてみればプロとして当たり前の事をしているだけと言うだろう。しかしこの期間中の長島は、イベントの出席や解説の仕事、長距離の移動もこなす中での難しい調整であったはず。ハードなスケジュールの中でコンディションを整え、体を作っていくのは、いつも以上に大変であっただろう。“俺は何物にも負けない”──長島のこのレースに懸ける強い意志が、その肉体から見て取れた。

「『レースはレース』『勝ちは勝ち』ですけど、ドライとは違う」

午後2時。いよいよ決勝レースの時間を迎える。空は暗い。降りしきる雨が、路面を打ち続ける中レースはスタートした。國井勇輝(SDG Team HARC-PRO.Honda)が好スタートを見せレースを引っ張る。それを中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が追う展開だ。長島は4番グリッドから1つ順位を上げ、3番手を走行する。

前回は、ここからついていくことが出来ず順位を落としていったが、今回の長島は、コースサイドから見ていても、きつそうな雰囲気を感じない。「スタートしてみて、このまま離されるのかな?と思ったら、『あれ? 頑張ったらついていけるぞ』と思って」

長島はレース前、2周のサイティングラップを終えると、グリッドでチーフエンジニアの藤沢氏にマシンとコースの状況を説明していた。「左のウォームアップ性が若干悪いのか、あまりグリップしないです」

これを聞くと、すぐさまメカニックにサスセッティングの調整を指示する。この時のことを長島に聞くと「そうなんですか? 全く分からないです。数値も知らないですし、セットを変えたかどうかも把握していないです。もう藤沢さんのすべてに信頼を置いているんで」

全幅の信頼と阿吽の呼吸。これが功を奏したのか長島は、「いつでもコケそうな難しいコンディションではありましたが、安心感がありました」と話し、これまで雨のもてぎでは叶わなかったトップ争いを展開する。

上位3台の争いは、抜ける感じもしないが、無理してついていっているようにも感じない。まったく順位が変わることなく中盤戦に突入する。「抜きたいんですけど、真後ろにつくと走りがBS(ブリヂストン)のリズムになってしまうんです。そうすると1コーナーが止まれない。スリップストリームに入ってしまうし、BSと同じところでブレーキをしてもリヤが滑っちゃって止まれない」

抜いて順位を上げたい気持ちはもちろんあった。だが、タイヤの特性の違いから、抜こうとすると抜ききれない。仕掛ければ1コーナーでラインを外れコースアウトしそうになる。そんなジレンマを抱えたままレースは終盤へ。だが、ここでレースが動き出す。中須賀の転倒だ。

「中須賀さんが転倒する前の周に、自分も同じ所(ヘアピン進入)でフロントが切れ込みそうになったんです。そこで感覚的にフロントの『ここが限界だな』というのが見えたんです」

長島も1周前に同じポイントで危険を感じていた。事前に体験し身構えていた分、中須賀が転倒を喫した際も「何も驚かなかった」と言う。「ああいうのを見てしまうと、普通は1歩引いてしまうんです。(國井)勇輝はあれで一瞬守りに入った部分があったんじゃないかな」

長島は、この隙を見逃さなかった。残り6周となったレッドマンコーナーから一気に差を詰め始めると、最終コーナー立ち上がりで國井選手に並びかける。しかし、このままでは1コーナーが止まりきれないと判断すると、今度は立ち上がり重視のラインに切り替え、次のシケインで勝負に出ると、ついにトップに立った。

「BSのリズムだと上手く走れないけど、自分のリズムでいけば、もう少しペースを上げられそうなのは分かっていた」

セクター1は、向こうに分がある。しかしセクター2・3は長島が速い。「セクター2・3ってバンクを使って曲げていくところなので、タイヤに対して結構ストレスが掛かるんです。いままで淡々と走っていたのに急にペースを上げられたら、相手にミスが出る可能性が高い。なのでここは、自分も少しだけリスクを負って、抜いたあとの2周は頑張ってスパートを掛けました」

本来ブレーキング勝負に定評のある長島だが、今回はタイヤの特性上、相手にブレーキング勝負の展開に持ち込まれたら「勝ち目はない」と考えていた。レース中、何度も1コーナーでリヤが流れて真っ直ぐいきそうになる。もう逃げて、逃げ切るしかない。

決して自分も余裕があるわけではなかった。いつでも転びそうなコンディションの中、「ここしかない、攻めるなら」と、長島は覚悟を決めて勝負に出た。國井は気持ちを切られたかのように全くついていけない。この作戦は見事にはまった。ここで勝負あり。

最終コーナーを立ち上がり、後ろとの差を確認すると、長島は小さくガッツポーズを作りチェッカーフラッグを受ける。プロジェクトが発足して約3年。ついにこの時がやって来た。長島哲太×ダンロップのJSB1000初優勝だ。

大雨の中を戦い抜いた長島哲太が、泳ぐパフォーマンスをしながらパルクフェルメに帰ってくる。歓喜の輪に長島がダイブする。スタンドではダンロップの黄色い旗やタオルが揺れる。スタッフもファンも、みんなの想いが報われた最高の瞬間だ。

「めちゃくちゃ嬉しいですよね、やっぱり。あんなにグランドスタンドでファンの方たちが応援してくれるのも、やっぱり『ダンロップだから』だと思いますし、他のライダーが優勝してもそうはならないと思います。これだけ『ダンロップを応援してくれる人がいる』というのは、本当にありがたいですよね」

しかし、前戦もてぎで、あんなに苦労したレインコンディションのもと、初優勝がやってくるとは思いもしなかった。長島にそう伝えると「なんかホントに。ちょっと拍子抜けした部分もあるんです」と複雑な心境も吐露する。確かにパルクフェルメでの喜びに比べたら、表彰台に登った長島は、もうすでに冷めていた感じも拭えなかった。

「『レースはレース』『勝ちは勝ち』ですけど、ドライとは違う。(水野)涼(SDG DUCATI Team KAGAYAMA)が予選で2回も転倒したり……確かに自分達の実力で勝ったんですけど、やっぱりドライのガチンコ勝負で勝てていないので、まだまだ気を緩めるわけにはいかないです」

優勝したレースが終わったばかりなのに、喜びに浸ることなく、飽くなき野心がうずきだす。次はいよいよ最終戦の鈴鹿だ。このプロジェクトの最終レースでもある。ここまで、さまざまな出来事があった。だが、まだ余韻に浸る暇はない。

「『自分はこれが出来るよ』っていうのを、まだ全部出せていないんです。『自分はもっとこういう走りが出来る』というのをやりたくても、タイヤが保たなかったり答えてくれなかったりする部分がある。まだまだ自分の中では余力があるんです。もっとタイヤが良くなれば、タイムももっと上がる。だからもっと(タイヤを)作りたい。正直、今はまだ6割くらいかな」

今年の最低限の目標である優勝は成し遂げた。だが、長島の心には引っかかるものがある。自身がこの3年、ライダー人生をかけて開発してきたスリックタイヤでの優勝だ。残されたチャンスは鈴鹿の2レースのみ。長島は、その目標に向かって全身全霊を傾けて立ちむかうだろう。

そしてもう一つ、3年計画プロジェクトの目標としていたチャンピオン獲得。ポイント差からして、今年のチャンピオン獲得を成し遂げる可能性は限りなく低い。しかし長島の「もっと作りたい」という言葉の先にあるものは──夢の続きを期待せずにはいられない。

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