
去る9月27日、群馬県にある榛名モータースポーツランドでBATTLAXノブアツ杯ロードレース第3戦が開催。このレースには1986年デビューのスズキ・GAGで争われるワンメイククラスがあり、名物のひとつとなっている。今となっては珍しいGAGが一斉に集まり、さらにはレースをするなんて、もはや世界でもここだけ? どんなレースか現地で取材してみた!
●文:/写真:宮田健一
世界でも希少なワンメイクレース その名も“WGP-GAG”クラス!
1980年代ミニバイクレーサーと言えば、ホンダのNSR50やヤマハYSR50といったマシンが有名。だが、その2台に先駆けて登場したのがスズキのGAGだ。
フルカウルを纏った前後10インチの小さな車体に、4速リターン化したバーディ系の空冷単気筒を搭載。立ち位置はあくまでコミカルバイクだったが、これでレースを始めた人たちがいたところ大ウケし、その後のミニバイクレース全盛期を興す鏑矢となった。
そんなGAGが現代でも一堂に会して、さらにレースまで繰り広げるという、もはや世界広しと言えどもそんなイベントは他に存在しないであろうと思えるのが、群馬県・榛名モータースポーツランドで開催されているノブアツ杯ロードレースの“WGP-GAGクラス”だ。
このノブアツ杯は青木宣篤選手が主催するレースイベントで、キッズバイクから150ccは走れるクラスまで10クラスがあり、今年は全3戦。WGP-GAGクラスはその中の1クラスとしてワンメイクレース形式で行われている。
ちなみにGAGのみクラス名に“WGP”が付いているが、やはりエントラントたちもこれが世界でも唯一のGAG専門レースだと思っており、「ここで勝った者がGAGの世界チャンピオンということに勝手に決めちゃおうぜ」とノブアツ選手に掛け合って実現したのだとか。
かくして今回の舞台となった9月27日・最終戦となる第3戦は文字通り今年度のGAG世界チャンピオンを決める大事なレースでもあったのだ。
GAGは40年も前のマシン、でも皆で協力して走らせていた
毎戦10台前後が参戦するというこのクラスに今回エントリーしたのは全部で9台。いずれも艶やかなカラーリングを身にまとい、本家WGPやMotoGPを戦ったワークスマシンをオマージュしたものも多数。まさに世界チャンピオンを決めるにふさわしい取り揃えだ。
ただ、基本的にはどのマシンも性能的にはノーマル+αで、エンジンも50cc以下に限定。マフラーも音量レギュレーションの関係で純正ノーマルかヨシムラから発売されていたリプレイス品くらいしかクリアできないので、極端に性能の外れたマシンがいる様子はない。
なので、普段は保安部品を装着して公道用として乗られているマシンも多いのだとか。もっとも性能が高かったとしてそこは後述のハンデにより、あんまり有利にはならないルールになっているのが、このレースなのだ。
ショップのバックアップによりカウルは状態のよいものから型を起こして共同製作。当時の純正オプションだったフロントフォークカバーに至っては洒落でわざわざドライカーボンを使い複製品を作っていた。そうした遊びゴコロも彼らの特徴のひとつ。
さて、GAGは40年も前のマシンということでなかなかコンディションを維持するのも大変だろうと尋ねてみると、やはり純正部品についてはほぼ絶望的なようで、エンジンもバーディ系なのは有名だけどミッション形式も違うし、何だかんだで流用しようにも実際に使えるのはピストンとシリンダーくらいと大変そう。強いて使うならGS50が近いのだとか。
しかし、そこはいろいろとエントラント皆で協力し、工夫し合って楽しんでいたのが印象的。
例えばカウルはコンディションのいい状態のものから型を起こして共同作成していたり、木工が得意な人が専用スタンドを仲間にも作ってあげていたり、超マニアックなGAGコレクターはレース用に自分の車両を貸し出していたりと、エントラントはそれぞれライバルである以上にGAG愛好家の仲間なのだ。
また決め手となるのが、このWGP-GAGクラスの実現に向けてノブアツさんに声をかけた地元群馬のバイクショップ。ここがカスタムを含めた大がかりな技術面をバックアップしており、皆の心強い味方となっていた。
このあたりのファミリー感は、同じミニバイクレースでも台数の多いNSRやGROMなどよりもひと際強い印象で、率直に言って羨ましい。
タンクも程度の良い純正パーツが入手困難なことから共同製作したものが目立っていた。インナータンクにして上から純正から型を取ったカバーを被せる方式に。
ステップは千差万別で他車用バックステップを使っている人も多くいた。写真の車両はGSX-R用を流用。ちなみにGAG純正のステップブラケットはフレームへの溶接が点付けのため転倒に弱い部分の筆頭。なので、補強を入れるのが吉とのことだ。
誰にでも勝てるチャンスがある驚きのルール!
そうこう話を聞いてるうちに各7分間ずつのフリー走行&予選はあっという間に終わって決勝グリッドが発表。ここで目を見張ったのが、そのグリッド表だ。なんじゃこりゃ?
スタート位置がバラバラ…?!!!!
実はWGP-GAGクラスではリバースグリッド+ハンデが採用されており、予選で速いタイムを出したライダーほど後方からのスタートとなる方式。
これは普通のスタート方式だと速いライダーばかり勝つことになって面白くないでしょという理由からなのだそうだ。ちなみに予選でわざと遅いタイムで走っても決勝で予選より2秒以上速いタイムを出したら皆の前で土下座しなければならなくなるという罰則付き。なかなかに厳しい(笑)。
でも、このリバースグリッド方式を取ることでレースは毎回のごとく終盤になるとちょうどいい具合にワチャワチャした接近戦になるそうで、まさかの一発逆転劇となることも。それがエントラントたちには面白くてたまらないそうだ。
そこでGAGレースで勝つ秘訣をエントラントに聞いてみたところ“2psちょっとしか出ないので直線は60km/hがいいところです。なのでいかに速度や回転数を落とさずコーナーを走り抜けるかがカギ。コーナリングの速さは他の一般的なクラスにも負けていないと自負しています”との答え。
“え、ちょっと待って? GAGって5.2psあったはずでは?”と尋ねると“カタログではそうなってますけどエンジン馬力なんでしょうね。シャーシダイナモで負荷かけて測ると、実際はそんなに馬力出ていないんです”と、オーナーにしかわからない貴重な事実が判明。それを聞いたら、なおさらコーナーがカギになるというのも納得だ。
決勝では名物の“ワチャワチャ”発生で誰が勝つ?
そして6周で争われた決勝レース。スタートでは#40地味男選手が、まさかのエンジンストールで出遅れながらも全車無事に発進。
コーナーで注意深く見ているとブレーキングで無理して前車を追い詰めてもラインが塞がっていたりすると、そこでエンジン回転が落ちてなかなかその後の加速につなげられない。上手いライダーはその点を理解しており、いかに自車の旋回速度を維持するかのほうに神経を尖らせているみたいだ。
まあ、“コーナリングがカギ”という話を聞いていたからわかったことなんだけどね。知らずに見ていたら“まだ様子見の段階なんだろう”くらいで流していたかも。いやいや、しっかり見てみるとGAGレースって奥が深いんだね!
スタート位置が異なるために序盤こそバラけて走っていた各車両だが、やはり終盤が近づいてくると各車接近するように。おぉ、これが噂の“ワチャワチャ”ですな。
どこで仕掛けるか、かたや抜かれないよういかに相手より速くコーナーを抜けるか、限られた性能の中で繰り広げられる駆け引きが面白い!
そんな中、5周目の1コーナーではワチャワチャした集団を、スピードを上手く乗せた1台が大外から一気にまくっていくなんてシーンも。
しかし、今回はポールポジションスタートだった#6エプロン選手に追いつく前の2~3番手争いでワチャワチャが激化し、おかげで#6エプロン選手はガッチリとアドバンテージを維持。
ワチャワチャから抜け出した#19アバレロ選手が必死にこれを追うも、最終的に#6がコーナー1つ分ほど#19を引き離した状態で逃げ切りチェッカーフラッグを受けた。その後はワチャワチャが続いたまま数台がもつれ込むようにゴール。そして転倒無しの全車無事でレースは終了。この中から#12柳原選手が3位表彰台をもぎ取るかたちとなった。
これにより注目だった今年のGAG世界チャンピオンの座は2番手でゴールした#19アバレロ選手に決定。皆さんおめでとうございます!
観戦している側も非常に面白かったノブアツ杯WGP-GAGクラス。懐かしくて愛嬌があって、でも実は真剣にレースを楽しめて、さらにオーナー同士の横の繋がりも築けて、さらにさらに“世界チャンピオン”になれるチャンスまである(笑)。デビューから40年経ち、スズキGAGの世界は今が一番楽しめる時期なのかもしれないね。
今年のノブアツ杯のスプリントレースはこれで終了となったが、11月1日には4時間耐久レースが開催。また来年のスプリントレースは例年通りだと4月に開幕。我こそGAG世界一だと思っているオーナーは、ぜひとも来年エントリーして彼らに挑戦してみてはどうかな?
参戦したGAGたちをここに一挙紹介!
それでは最後に、ノブアツ杯・第3戦「WGP-GAGクラス」にエントリーしたすべての選手と自慢のマシンを紹介していくぞ!
◆#5 めぐみん選手
昭和なGAGによく似合うココアシガレットのデカールで彩られためぐみんさんのマシン。現在25歳、原付免許を取った16歳のときから9年間乗り続けているんだって。特別キレイなマフラーも目を引くが、これは入手に成功した走行わずか900kmの極上の掘り出しパーツとのこと。
◆#6 エプロン選手
ノブアツ選手がスズキワークスでWGPにエントリーしていた当時のMovistarスズキのカラーリングを再現。ゼッケンロゴも当時ノブアツ選手が付けていた“9”をそのままひっくり返したものになっていた。タンク上に書いてもらったノブアツ選手のサインも大きな自慢だ。今回のレースでは見事優勝をゲット。
ノブアツ選手の直筆サイン入り!
◆#11 フランコ・ヒゲ選手
世界チャンピオンを争うGAGの1台としてふさわしいカラーリングのひとつ。1982年ごろのフランコ・ウンチ―ニ選手のRG500Γカラーですな。マフラーは昔にヨシムラから出ていたものだそうです。フランコ・ヒゲ選手は木工に長けており、作成した木製フロントスタンドは他のエントラントたちも使用していました。そういう仲間内で自作パーツが流行るのって羨ましいよね。
フランコ選手謹製のGAG専用フロントスタンドだ!
◆#14 藤原大志選手
藤原選手のマシンは純正カラーリングのひとつでカラー名は“ポップアート・スタイル”。ロゴの入り方が最近のスズキワークスカラーを先取りしていたと思えるデザインだ。実は借り物で、持ち主のチャッピー(物理)選手によると世間では一番見かけることの少ないカラーなのだとか。
◆#19 アバレロ・バティストゥータ選手
みごと今年度のGAG世界チャンピオンに輝いたアバレロ選手。マシンのカラーリングはMotoGPでアルバロ・バウティスタ選手が駆ったRIZLAスズキがモチーフだ。赤いバックステップもいいアクセントになっているが、当然ながら他車用。やはりステップホルダーにはしっかり補強が入っていた。
◆#34 Kevin KAZU選手
「スズキと言えばこれしか無いでしょ」と、ケビン・シュワンツ選手のペプシΓのカラーを再現。当然ながらゼッケンも#34だ。リアルタイム世代ではないけど、レースを始めたときからシュワンツ選手の走りが格別にカッコいいと思っているのだと語ってくれた。
◆#40 七三地味男選手
「念願のGAGですっ! このレースに出るために購入しました!」という七三地味男さん。って……えっ? 女性なのに“地味男”さんなの……? 表彰式後の抽選会ではノブアツ選手もこれには驚き! 決勝ではエンジンストールで出遅れながらも無事にゴール。お疲れさまでした~!
◆#72 チャッピー(物理)選手
エントラントの中でも屈指のGAGコレクターで、純正色4台はもちろんのこと他にも集めて気付けば実動するだけで10台以上(部品状態を入れたらそれ以上!)所有しているとか。今回エントリーしている他の選手の車両にもチャッピー(物理)選手が貸し出しているものがあった。GAGの何がそんなに魅力なのか尋ねてみると「自分でもよくわかんないんですよね~」だって。それでいいのか?(笑)
◆#12 柳原健也選手
今回のエントリー中で異彩を放っていたこのマシンは“e-GAG”。柳原さんが社長を務める本業の機械製作やモーター制御技術を活かし、なんとエンジンの代わりに独自に電動モーター化していた車両だ。柳原選手はチョイノリでも電動化を手がけたことがあるという。
ホントにエンジンじゃなくてモーターだ!
◆番外編[FOBクラス] #148 caz谷マサル選手
その正体はWGP-GAGクラス実現の仕掛け人と言える群馬県前橋市にあるショップ“DamTmoto(ダンティモト)”の代表さん。お客さんが楽しんでいるのを見て自分でも楽しみたいと、エンジンを125ccに換装したGAG改でGSX-R125などが相手のFOBクラスに参戦。上位を走行する快走を見せ、みごとクラス2位をゲットした。小回りの効く10インチのGAGは後続につけ入る隙を与えないコーナリングが印象的。
◆ノブアツ杯の主催 青木宣篤選手
「ダンティモトさんから『レース始めるんだったら、うちのお客さんが楽しめるクラスも作ってよ』と声をかけられてGAGクラスを始めたんだよね。もう何年前になるんだろう。うちのレースでGAGが走り始めた当初は3台くらいだったんじゃないかな。それが今では10台くらいは毎回集まってくる。4月の第1戦では13台もエントリーがあって圧巻だったよ。GAGなんてレアなマシンのレースがあるのは、やっぱりうちくらいじゃないかな」
【BATTLAXノブアツ杯・第3戦 決勝リザルト 6Laps】
Pos. No. 名前 差 BestLap
1 #6 エプロン 01:06.4
2 #19 アバレロ・バティストゥータ 2.127 57.966
3 #12 柳原健也 6.266 59.861
4 #5 めぐみん 6.386 01:04.8
5 #34 Kevin KAZU 6.616 58.715
6 #72 チャッピー(物理) 7.525 01:01.6
7 #11 フランコ ヒゲ 9.37 01:01.9
8 #14 藤原大志 15.409 01:05.4
9 #40 七三地味男 59.452 01:05.5
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