「ドゥカティを脅かすほどの直線番長」MotoGP史上最高速を記録! F1のレッドブル・レーシングと共同開発した空力を持つマシンがオークションに出品[KTM RC16]

「ドゥカティを脅かすほどの直線番長」MotoGP史上最高速を記録! F1のレッドブル・レーシングと共同開発した空力を持つマシンがオークションに出品[KTM RC16]

目が離せないとはこのことで、なんと実際にモトGPでビンダー選手が走らせていたマシン、KTM RC16がオークションに出品されたというのです!レース好きでなくとも、バイクに乗る方ならビックリすること請け合い。ですが、「美味しい話には裏がある」のたとえ通り、実際のマシンなのに「展示用」などと但し書きもあり、ちょっとした不思議案件となっているのです。果たして、どんな売り物なのか探ってみました。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys

本物のワークスマシンが、一般のオークションに出品

2023年シーズンの第6戦イタリアGP。ムジェロ・サーキットでファクトリーライダーのブラッド・ビンダーが駆るRC16は366.1km/hと、当時のMotoGP史上最高速記録をマークしました。

2023年のモトGPに参戦したKTM RC16の実車が売りに出されました。ビンダー選手が乗ったゼッケン33番、本物だけがもつオーラが凄まじい!

ライバルメーカーが軒並みアルミツインスパーフレームを採用する中、KTMは頑なにスチール製トレリスフレームと自社グループのWP製サスペンションという独自のパッケージングを貫いています。

その独自のシャシーに、推定290馬力以上を発生する1000ccV型4気筒ニューマチックバルブエンジンを搭載。さらにF1のレッドブル・レーシングと共同開発した最先端の空力を纏うことで、ドゥカティの牙城を脅かすほどの直線番長であり、かつロケットスタートの名手へと進化を遂げたのが、この2023年型なのです。

2023年のムジェロで速度記録を樹立しつつ、レースは予選10番手、決勝は5位入賞というブラッド・ビンダー選手。

まさにモーターサイクル工学の結晶ともいえる本物のワークスマシンが、一般のオークションに流れるというだけで奇跡的なのですが、そこで浮上したのが「展示用」という謎の但し書きです。

普通、バイクのオークションで「展示用」とか「ディスプレイ専用」と書かれていれば、「中身のないハリボテ(外観だけの模型)」を想像しがち。メーカーがイベントの展示用に作ったプロトタイプや、F1でよくあるドンガラのショーカーだろうと。

しかしながら、今回のRC16はビンダーが実際にモトGPで走らせた、エンジンも電装系もすべて詰まった「完全なる本物」。

すると、どうして「展示用」とわざわざ注意書きがあるのか。そこには、現代のモトGPマシンが抱えるハイテクゆえの事情と大人の事情が複雑に絡み合っているのです。

「走る最高機密」は、あくまでも展示用

そもそも、現代のモトGPマシンには、セルモーターもスターターキーもありません。エンジンを始動するには、後輪を強制的に回転させる外部スターターが必要ですし、ニューマチックバルブのシステムに高圧の窒素ガスを充填する専用の機材も必需品。さらに、マニエッティ・マレリの共通ECUは、専用のデータPCからファクトリーのエンジニアがプログラムを立ち上げないと、まともに火を入れることすらできません。

エンジンスタートには外部スターターはもちろん、専用PCによってECUの立ち上げが必要だとか。さすが、現代のハイテクマシンです。

つまり、「買いました、ガレージに置きました、さあボタンを押してエンジンスタート」とはいかず、個人レベルでの運用は物理的に不可能なのです。

さらにモトGPマシンは、各メーカーが何十億円もの開発費を投じた「走る最高機密」です。オークションの規約には、エンジンに施されたメーカーの封印を解くことや、分解・改造することが厳しく禁じられており、購入者は「引き渡された時の状態をそのまま維持する」ことが売買契約の前提となっているのだとか。

車体の各部に封印がなされており、このままでは走行不可。KTMのファクトリースタッフなしではエンジンすら始動できない仕組みです。

さらに、290馬力以上、車重わずか157kgのモンスターマシンとなると、スーパーリッチな購入者が「ちょっとサーキットで走らせてみるか」と軽い気持ちで乗り出し、万が一の事故を起こしたらどうなるか。その破壊力と法的リスクは計り知れません。

そのため、主催者やメーカー側の防衛策として、「これは走行用ではなく、あくまでコレクション・展示用の美術品ですよ」という法的免責(但し書き)が必要不可欠だったのです。

夢のようなオーダーメイドプログラムを用意

ここまでの話だと、「なんだ、結局はガレージのオブジェか。なんだかなぁ」と思う方もいるでしょう。が、そこはさすがのKTMで、裏ルート的な「特例」を用意しています。

基本的に展示用となりますが、売買契約には裏があって、お金とやる気さえあれば走らせられる様子。

条件を読み解けば、購入時の引き渡し時には、KTMファクトリーのメカニックがわざわざオーナーの目の前でエンジンを始動させ、爆音とともに「完全動作品」であることを証明してくれるセレモニーが含まれるほか、「もし購入後にサーキットでの走行やメンテナンスを希望する場合、KTMファクトリー・レーシングと個別に協議・契約を結ぶことができる」との条件もありました。

つまり、「どうしてもこのRC16でサーキットを走りたい!」というオーナーに対しては、「相応の費用(おそらく数百万円〜数千万円規模)を払ってくれれば、KTMから専属のメカニックとエンジニア一団、そして始動用の機材一式をサーキットへ派遣し、ファクトリー管理のもとで走らせてあげますよ」という、夢のようなオーダーメイドプログラムが用意されているのです。

推定落札価格は数千万円から、場合によっては億を超えるとも言われるモトGPマシンのオークション。一般のライダーからすれば「展示用しかダメなんて……」と思ってしまいますが、その実態は、歴史的な価値を守り、機密を保持し、かつオーナーに最高峰のステータスを提供するという、超ラグジュアリーな売り物でした。

予想落札価格すら発表されてはいませんが、億超えは間違いありません。走らせるのにもコストがかかりそうなので、やっぱりスーパーリッチ向けということでしょうか⁉

リビングに飾られたRC16を眺めながら、年に一度、KTMのファクトリーチームをプライベートで呼び寄せてサーキットを貸し切る……。そうしたロマンが詰まっているという事実に、バイク好きなら誰もがワクワクすることでしょう。

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