
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第170回は熱気あふれるもてぎ日本GPの小椋藍人気やマルケスの騒動、広がるパドック格差から、激変する二輪レース界の実情と「プロライダーの哲学」を元世界王者の視点で語ります。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
小椋藍人気が爆発!過去最多12万人が熱狂した日本GP
モビリティリゾートもてぎで行われた日本グランプリ、僕も仕事で行っていましたが、大盛況でしたね!
今回はトークショーなどの仕事で観客席側にいることも多かったんですが、「小椋藍人気」をひしひしと感じました。応援グッズもたくさん売られていて、素晴らしいことだな、と。
今回のもてぎでは、小椋選手のお父さんがかつて使っていたグラフィックをオマージュしたスペシャルカラーのヘルメットが注目を集めましたね。アライが企画した30個の会場限定抽選販売も、希望者多数であっという間に売り切れたと聞きました。また、クシタニも3日分のつもりで用意したグッズが金曜朝の時点ですべて売り切れてしまい、急きょ社長が浜松まで取りに行ったとか。本当に凄まじい人気っぷりです。
3日間の入場者数は過去最高の12万1997人。会場を歩いていて気づいたのは、アジア圏のお客さんが多かったことです。韓国や台湾を始め、アジア全体から観戦に来ている方が目立ちました。円安も影響しているのかもしれません。
ビバンダムの巨大看板をバックに、鋭いバンク角でコーナーを攻める小椋選手。蛍光イエローが映えるマシンとスペシャルカラーのヘルメットが、もてぎのコース上で鮮やかな存在感を放っている。
リバティ主導で近代化、問われるプロライダーの在り方
総じて印象的だったのは、リバティメディアに買収されて以降、MotoGPもずいぶんちゃんとしてきたな、ということです。パスはバーコードで管理され、取材申請もキッチリとオーガナイズされていました。古き良きグランプリ時代を走ってきた身としては「変わったものだ……」と思うところもありますが、基本的にはいいことだと思っています。
かつての二輪レースは、素朴と言うか、身近と言うか……、観客とライダーがかなり近い、という部分がありました。それも魅力のひとつではあったのですが、二輪の場合はちょっと近すぎた面も(笑)。リバティメディアはMotoGPライダーをスペシャルな存在にして、その価値を高めようとしています。ここは賛否両論あるところですよね。
レースだけでなく、こうしたファンとの触れ合いもグランプリの大きな魅力。リバティメディア体制のもとで厳格化が進む一方、会場を訪れたファンに特別な思い出を持ち帰ってもらう工夫が随所に凝らされている。
日本GPでは、決勝日の午前中にMotoGPライダーがカートで模擬レースをする、というイベントがあり、これをマルク・マルケス選手がキャンセルし、ペナルティを課せられました。これは大きな話題となり、「主催者が取り決めたイベントだし、お客さんのためにも参加するべき」という意見と、「ライダーもアスリート。レース前は集中したいはず」という意見がぶつかり合ったのです。
僕も元レーシングライダーとして、マルケス選手の気持ちは痛いほどよく分かります。僕も現役だったら、断っていたかもしれません。ただ、当時とはすっかり時代は変わり、プロライダーのあり方も変わってきています。いろいろなプロモーションを積極的に行うことで、もっと注目が集まり、そのことでもっとスポンサーが付き、もっと収入が上がる……。それはそれで、プロとしてはよいことではないかと思います。
決勝日に向けてぎっしりと観客で埋め尽くされたもてぎのグランドスタンド。3日間で過去最多となる12万1997人が来場し、コース上の熱戦へ向けてスタンド全体から地鳴りのような歓声が送られていた。
テントへ追いやられる中・軽量級、広がるクラス間の格差
今のMotoGPのファクトリーチームには、1区画多くピットが割り当てられます。そのピットは、ゲスト用。僕もドゥカティのゲスト用ピットに入れてもらいましたが、隣のファクトリーチームの様子がウインドー越しに見られるようになっていました。フランチェスコ・バニャイア選手が1、2m先にいるんですから、ゲストにはたまらない仕組みですよね。
もっとも、ファクトリーチームがピットを多く使う分、常設ピットに入りきらないMoto2やMoto3チームの一部はテントに追いやられることに……。今後、Moto2、Moto3は全チームがテントピットになる、という話もあって、最高峰クラスであるMotoGPとの差が今まで以上に明確になりそうです。
僕の現役時代は500cc、250cc、125ccの各クラスにメーカーのファクトリーチームが参戦し、それぞれプロとして成立していました。ライダーの収入面でも、250ccと500ccでほぼ変わらなかったようです。しかし今のMoto2は、トップライダーこそそれなりに稼げていますが、自分で資金を持ち込んでどうにか走らせてもらえているライダーも少なくありません。
今やMoto2、Moto3といった中量級、軽量級は、MotoGPにステップアップするためのクラスというポジショニングが明確です。ウワサではMoto2、Moto3とMotoGPを別開催にする案も出てきているそうで、あり得なくもないな、と。だいぶ変わった感はありますが、MotoGPのステータス性が高まり、ライダーの収入が向上するなら、それもありかな、と思います。
収入、収入と言ってしまうと身も蓋もないように感じられるかもしれません。バイクは趣味性が高い乗り物ということもあり、「お金よりも大事なものがある」という感覚を持つ方が多いのも分かります。
苦境でも選ぶべき。プロとしてファクトリーに乗る意義は大きい
小椋選手が来季ヤマハファクトリーチーム入りすることに関しても、「今、苦しんでいるメーカーに行くより、他メーカーのサテライトチームでチャンピオンを狙った方が……」という意見がありますよね。そういう面があるのも確かかもしれません。ですが、ファクトリーチームとサテライトチームで待遇が大幅に違うなら、例え苦しい道だと分かっていても、ファクトリーチームを選ぶのが正解だと僕は考えます。
プロライダーにとって、レースはあくまでも「仕事」。そしてどんな仕事でも、報酬が評価そのものであり、報酬アップのために頑張るはずです。ファクトリーチームからオファーがあるということは、それだけ高い評価を得ているということ。そして、プロライダーという「仕事」は、決して長くできるわけではない。となれば、選択肢はひとつしかないでしょう。
話は戻りますが、そういう意味でマルケス選手のプロモーションキャンセルは、ペナルティを受けても仕方ないのかな、と思います。ライダーの待遇向上のためのプロモーションですから、契約条項の有無に関わらず、基本的には協力するべきでしょう。
……ただ、繰り返しになりますが、元プロライダーとしては、マルケス選手の気持ちも分からないではありません。レース前は集中したい。その一方で、僕はアプリリア時代にスポンサー対応を徹底的に叩き込まれました。「例えスターティンググリッドでもスポンサーには笑顔で対応しろ」と(笑)。プロとして、それも大事な仕事だと受け入れました。
とても難しい問題です。ライダー側の意見をしっかり採り入れながらのバランス取りも必要でしょう。ただ、今後MotoGPがさらに大きく変わっていくことは間違いありません。今回の日本GPでは、その一端を垣間見た気がしました。
繰り広げられる緊迫の集団バトルも醍醐味のひとつ。各マシンのせめぎ合いは、まさに現代グランプリの厳しさと、中量級から最高峰へと挑むライダーたちの執念を物語っているシーンだ。
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