【最高速300km/hの怪物】CBR1100XXスーパーブラックバードの真価|数値を超えた「操る歓び」と100馬力国内仕様の衝撃【柏 秀樹の昭和〜平成 カタログ蔵出しコラム Vol.35】

【最高速300km/hの怪物】CBR1100XXスーパーブラックバードの真価|数値を超えた「操る歓び」と100馬力国内仕様の衝撃【柏 秀樹の昭和〜平成 カタログ蔵出しコラム Vol.35】

ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺めていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第35回は、ホンダのスーパースポーツ「CBR1100XX スーパーブラックバード」についてお話したいと思います。


●文:柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)

300km/h時代を拓いた怪鳥の誕生

1997年にキャブレター式のバイクで世界最速と言われたCBR1100XX Super Blackbird(以下、XX)がデビューしました。カワサキZZR-1100をライバルの筆頭として世界最速の座を狙う作り込みで、発売されるとすぐに世界中のバイクファンが大注目する人気モデルとして君臨したのです。

XX発表試乗会(ワールドプレスローンチ)は、一般道の他にポールリカールサーキットを使って開催。速度計の300km/hを写真に収めるジャーナリストも少なくなかったようです。今ならば動画撮影でリアルタイムに世界へ同時配信するような、エポックなことだったと思います。

ニックネームのスーパーブラックバードは、CBR900RRの「ファイヤーブレード」と同様に営業サイドが考案したと言われています。

もともとは航空機好きな車体設計のエンジニアが、3529.5km/hもの速さを誇る米国空軍超音速高高度偵察機ロッキードSR-71の愛称である「ブラックバード」の写真を机上に置いて、デザイン担当者がクレイモデルに「Black Bird」のステッカーを貼り、これをたまたま見かけた欧州営業担当者が気に入って、ペットネームとして決定したと言われています。まさに偶然が必然になるようなエピソードです。

販促用プロモーションビデオやカタログでは、SR-71を模したモックアップモデルが出演していました。

優れた空力特性、シャープに吹き上がる怒涛のパワーは、まさにSR-71のイメージそのまま。その上で1000ccオーバーを感じさせない軽快なハンドリング、長距離高速タンデムツーリングでも疲れにくい相棒としても世界から高く評価されました。

フランス向けカタログ表紙。格納庫から漆黒のSR-71偵察機とともに姿を現すCBR1100XX。開発のバックボーンを感じさせる象徴的なグラフィックだ。

国内仕様が証明した、操る喜びの原点

ホンダは、2001年3月に日本国内仕様のXXを発売しました。

実はXXデビューの前に、XXのカウルを取り払ったパワー・ネイキッドと呼ぶ「X11」が1999年11月に国内市場にデビューしていました。限定1000台です。

フレームはツインチューブながらXXとはまったく異なるセンターピボット型。キャスター角、トレール量やホイールベースなどディメンションも別設定でした。

エンジンは出力・トルクともXXと同じですが6速部分を排除した5速。2次減速比を2.588から2.470へロング化。ワイルドなエンジンフィールとするためにデュアルバランサーをシングルバランサーへ。専用メーターボディ採用など本気の取り組みを示していましたが、あまりにもレアで「国内向けXXの後にX11がデビューした」と勘違いしていたほどです。

X11の後に国内向けXXがデビューしたわけですね。XXの価格は1100ccをもじった洒落の110万円でしたが、X11は92万円でした。

1999年に1000台限定で先行発売されたパワー・ネイキッド「X11」。XXとは一線を画す骨太なスタイルと独自のディメンションが与えられていた。

当時の雑誌企画で、299km/hの最高速度規制を受けた逆輸入フルパワー仕様と国内仕様のXXを、同時に比較テストしたことがあります。

国内仕様の100psは、1000cc以上の国産バイクに課せられた規制値。1989年から出力測定誤差は10%以内が条件で、後に誤差も認めない厳しい規制へと変わっていきました。日本国内仕様は2006年まで馬力規制、2017年まで最高速度180km/h規制が入っていたのです。

XX自体はキャブレター採用の164psで始まり、1999年型から電子燃料噴射式PGM-FI装備の152psへ(燃料タンク容量も22Lから24Lへ拡大)。外観としてはテールレンズ形状が主だった変更点でした。

2001年に登場した日本国内仕様のカタログ表紙。上品なシルバーの車体に「PGM-FI」や「CLEAN FOUR YOU」のロゴが輝く。

100psの国内仕様と輸出仕様152psの差は歴然。当然ながら走りは逆輸入車が圧勝と予測していたのですが、いざ走り出すと国内仕様は思いのほか優秀でした。スロットルレスポンス、そして開けた分だけ前に進むリニアリティ。その2つを指してドライバビリティと呼びますが、国内仕様はさらに滑らかながら楽しくて「バイクの根源はすべてドライバビリティにある」と再確認しました。

逆輸入車は確かに速いけれど、「楽しい!」を引き出すためにはもっと高回転でハイペース走行となるリスキーな走りが必要です。危険を冒して走るより、100psの国内仕様は扱いやすさによる意外な速さと楽しさが堪能できたのです。

現在のようなトラクションコントロールやスライドコントロール機能などのハイテク装備のない時代は、この扱いやすさはむしろ多くのライダーの武器になったはずです。

国内仕様は3速、5速、6速のギアレシオを見直し、バルブタイミングおよびバルブリフト量を変更しています。

スペック競争を超えた「操る楽しさ」の真価

馬力数値、最高速度値、あるいは加速データを絶対値として評価することもハズレではないけれど、その数値を上回るライバル車が登場したら、果たしてXXはその時点でNGになるのか過去の存在になるのか。

私はならないと、その試乗テストで実感しました。

XXの後に登場したハヤブサやZX-12Rは、スペックではXXを数値で超えていましたが、乗り味はそれぞれまったく異なるもの。たとえば1100のXXは、他の1200、1300、1400にはない軽快なピストン上下動と回り方があり、1100だからこそできるコンパクトで一体感のある「操れるスーパースポーツ」と呼べる高い運動性を、より広く多くのライダーに安心して体感させてくれたのです。

そこまで理屈は分かっていても、やはり世の大半のXXライダーやファンの視点は制限を受けた100馬力よりもフルパワーを望み、180よりも300の速度値に憧れます。「憧れを所有する喜び」もバイクという趣味のひとつかもしれません。

結果としてXXの国内仕様は侮れない走りを見せるものの少数派となり、発売は2001年から2003年までという短命に終わりました。

しかし国内仕様のXXは、ブラックコーティングされたフレームにハンドルバーエンドにはクロームメッキ、欧州仕様はシルバー塗装のフロントフォークアウターチューブに対して、国内仕様はバフ掛けクリア塗装。

ブレーキキャリパーは、黒に対して国内仕様はマグゴールド塗装。ドライブチェーンも国内仕様はゴールドチェーンを採用。楕円ピストンエンジンのNR750と共通のバックミラーにはマルチリフレクターレンズを装備するなど、質感では明らかに国内仕様がフルパワー仕様を上回っていました。しかも国内仕様はハザードランプ付きで、マフラーも国内専用の騒音・排気ガス規制対応型です。

国内仕様のカタログ見開き。「High-End Super Sports」の文字とともに、二人乗りでの高速巡航や上質なディテールがアピールされている。

リッター超を忘れさせる、俊敏な車体

その一方で、XXならではの真価はなんと言っても卓越の操縦性と乗り心地です。スーパーブラックバードは「バツバツ」「ブラバ」が愛称として多く使われ、キャブレター式XXを「キャブバード」と呼ぶファンもいましたが、国内外の仕様に関係なくXXはフラット路面だけでなく、少しばかりバンピーな路面でも安心して矢のように突き進む直進安定性をしっかり見せつけました。

しかも優れた直進安定性を発揮しながら、600~750ccクラスを思わせるマン・マシンの一体感を伴う俊敏なレスポンスを持つ高い運動性の両立が大きな魅力でした。49%の前輪重量配分と600ccクラスの車体横剛性の設定によって、この高い運動性を生み出しているのです。

XXはフルカバードスタイルのCBR1000Fの後継モデルとして生まれましたが、CBR1000Fよりも排気量を上げながら10kg近く軽量化した82.8kgのエンジン重量にしただけでなく、ニードルベアリングを使ってクランク回転の2倍速で回すバランサーを、シリンダーを挟んで前後にセットした2軸2バランサーを採用しています。

カムチェーンを右サイドにセットしてクランクジャーナルをひとつ減らせたことや、大きな回転質量を伴う発電機とクラッチをその反対に配置することによる質量の左右均等化、そしてオープンデッキ・シリンダーブロック一体鋳造構造技術により、シリンダースリーブ薄肉化やボア・ピッチを徹底的に詰めるなど、前後左右に高さまで全方位で軽量コンパクト化を推進したことで、運動性を犠牲にしない車体作りを可能としました。

XXの初期の開発記号MAT-A型は、スリムでコンパクトでタフなエンジンとならず車体系が大柄となった失敗作でしたが、バランサー取り付け位置見直しを含めて大幅なエンジン軽量・コンパクト・スリム化を受けたMAT-B型が、XXの完成形となったわけです。

当時の「ヤングマシン」誌にこの開発案件をすっぱ抜かれ、MAT-Bクラブなどと揶揄されながらも、XXはデビュー前からすでに多くのファンを生み出していたようです。

国内仕様のメカニズム解説ページ。2軸バランサー採用のエンジン構造や、改良型DCBS(前後連動ブレーキ)、メーター類の詳細が整然と並ぶ。

ともあれCBR600FそしてCBR900RRのエンジン設計者の経験が、XXの開発に活かされたことが大きなポイント。後に登場したハヤブサやZX-12Rでも超えられないXXならではの楽しさの根源は、エンジンの軽量・スリム・コンパクトにあり、エンジン搭載位置の自由度がスポーティな操縦性を生み出す源になりました。

馬力数値や最高速度値追求も良いけれど、XXはもっとも楽しめる「モースト・プレジャブル・マシン」と定義。他と乗り比べるほどにその違いが実感できる作りにしたのです。

開発責任者の山中勲氏は最高速度の数値による速さなど意に介さない、という発言をしています。他社の最高速度競争が悪いわけではなく、XXはホンダの矜持として「速さの意味」を数値として追い求め続けなかった、とも言えます。

補足ですが、風洞実験の現場にデザイナーを帯同させたのも、XXがホンダとしては実質的に初であり、それは最高速度数値と同等以上の価値としてライダーの快適性確保が含まれていたと推定します。

ヤマハYZF1000サンダーエースは、最高速度よりも250km/hまでの到達時間短縮を求める定義でしたが、それはそれで正しい見識であったとも言えます。速度設定意義などバイク作りの定義に共感したライダーがその銘柄を手に入れれば良いだけのことです。

驚きの低振動と極限まで突き詰めた静けさ

さて、XXの走りの続きです。

しっかりと腰感の強い前後サスながら路面からの衝撃をいなしつつ、ブレーキはCBR1000Fよりも前後で300g軽量化し、ペダルを強く踏んだ時のみ前後輪が連動する改良型DCBS(デュアル・コンバインド・ブレーキ・システム)へ進化。従来型よりピッチングモーションが利用でき、シャープなスポーツ旋回を楽しみつつ、いざという時は前後輪連動式ブレーキならではの安全性をアピールしています。

タイヤは超高速域でのタイヤの成長が抑えられたZR規格のモノスパイラルラジアルを採用したことも、XXの高い接地感による好印象を押し上げています。

ともあれエンジンの低振動が生み出す快適性こそが正義。まさに電気モーターのような滑らかさです。しかし、4気筒エンジンならではの高回転になるほどグイグイ前へ押し出すシャープかつ豪快な吹き上がりも堪能できる。その両立は今なお世界トップレベルにあると言っても過言ではないでしょう。

前後2軸バランサーによる低振動はライダーへの負担軽減だけでなく、エンジンのリジッドマウント化によるダイレクトな操縦性を確保しつつ、ツインチューブ式バックボーン型フレームの軽量コンパクト化にも大きく貢献しています。

エンジンの始動性と短時間のウオームアップ性能も、キャブレター式XXに限らず他社が追随できないほどのアドバンテージを昔から伝統としてホンダは見せていました。コンピュータ制御によるインジェクション式でも新設のオート・バイパス・スターター装置によって、より優れた始動性と暖気能力を発揮していました。

騒音規制が厳しくなる中で、とりわけホンダはXXを筆頭にメカノイズを含めた静粛性でも他の追従を許さない作りになっていたのです。

逆に言えばホンダ車は高性能なのに静か過ぎるため、多くのユーザーは4-2-1-2型マフラーを社外品に交換する事例が非常に多かったわけです。

この時代の他国製の輸入バイクは、日本の騒音規制に対応するためには大幅な出力ダウンと重量アップとコストアップが伴うため、海外メーカーの日本市場への導入はほぼ技術的限界に達していた時でした。

まさに厳し過ぎる日本のバイク騒音規制は日本市場に向けての「非関税障壁」になっていたのです。中でもその筆頭がXXだったのではないかと思うほど、国内仕様は静粛性に溢れていました。

さらにニュートラルから1速へ入れる時のガチャンと響くメカノイズでも、ホンダは独自の技術で配慮。XXは非常に衝撃音の少ない作りになっていて、数あるホンダ車の中で、XXは排気音だけでなくメカノイズでも静粛性の頂点に立っていたのです。

しかし、静粛性は素晴らしい技術力の証明でもある一方で、多くのライダーの「音」に対する欲求と反比例していきます。

ほどほどに大きな排気音や騒音こそがバイクを操っている満足感となり、昔から続いている揺るぎない価値観になっています。

逆に言えば、XXを代表とするホンダのバイクは静粛性の最右翼にいることで、ライバル車たちの荒々しい音によるワイルド感を引き立ててしまったという事実もあります。

日本国内だけでなく、バイクが放つ騒音もバイクの魅力であるとしたら、静粛性を突き詰める技術志向は販売の足かせになるとも言えます。わかりやすく言えば、現時点では電動バイクの音はつまらないということです。

ちなみにトヨタが1984年に北米市場でレクサスブランドを立ち上げました。4000ccのV8エンジンを搭載するLS400が北米市場で大成功したキーワードのひとつは、メルセデスやBMWといった欧州の高級車を圧倒する静粛性にありました。

以来、静粛性は今のクルマの常識になっていますが、一方のバイクは異なる価値観で推移しています。しかし、それでも純粋に静粛性は素晴らしい技術課題であると私は考えます。

「好き嫌い」はあっても良いけれど「良悪」または「良否」のジャッジが難しい世界、それがバイクです。しかし、魅力的なサウンドのために不要なノイズを消すという意味なら、まだまだやることはたくさんあるとも言えます。XXはその重要なことを今なお静かに語りかけているように思います。

無駄を削いだ空力美と機能的な上下ライト

デザインに関してですが、CBR400F、CBR750スーパーエアロを弟分としてフルカバードデザインの頂点モデルだったCBR1000Fは、空気抵抗低減だけでなくカウル内の空気の流れの効率化を図った「インターアクション」と称した作り込みをアピールしていました。

XXでは、さらにキャブレターへの吸気流路とラジエーターおよびオイルクーラーの冷却風を明確に分離して、それぞれの冷却機能を向上させています。NACAダクトを有効に利用しつつ一切の無駄なラインを省いた流麗なスタイルは、ライバルとの違いを明確にアピールしていました。

流麗なスタイリングを支えるポイントのひとつになっているヘッドライトは、ロービームを上側にハイビームを下側に置く上下配列としてリフレクターにフリーフォーム方式を採用。リフレクターに配光機能を持たせてレンズはプリズムカットなしへ変更しました。

反射鏡に対する光束が有効に使えるH7電球を採用し、H4比較では81lx(ルクス)帯の比較でロービームで10m前方が206%、ハイビームで20mから前方が142%と広範囲の照射になり、夜間の高速走行ペースが速いからこそのヘッドライトでもあるのです。

フランス向けカタログより。上段にロービーム、下段にハイビームを配した特徴的な上下配列ヘッドライトと、計算し尽くされた空力カウリング。

以上に列挙してきた様々な技術はXXの断片に過ぎないですし、今、XXに乗ればそれなりに古いと感じることでしょう。

しかし、その時代のベストを探求したからこそ、今の高性能や信頼性が成立していることもまた外せない重要な事実です。

そういえばカタログは国内仕様と輸出仕様があり、いずれもタンデムシーンが織り込まれていました。XXに限らずエンジニアの思いは何かにつけカタログに反映されているのです。

キャブレターから電子制御インジェクションへの過渡期に誕生した、世界最速のビッグスポーツ「CBR1100XX スーパーブラックバード」。

明確な開発コンセプトを掲げ、妥協することなくそれを形にした強い意志。その妥協なき情熱こそが、時代を超えて輝き続けることが、永遠に価値があることではないかと思います。

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