
ルパン三世の愛車と聞けば、多くの方が「フィアット500」と答えるのだとか。一方で、ベテランのクルマ好きならば、即座に「メルセデスベンツSSK」と反応するのではないでしょうか。ルパン三世シリーズには様々なクルマが登場していますが、最初期のTVシリーズでルパンの愛車として活躍したのはまぎれもなくSSK。設定資料によれば、エンジンはフェラーリのV12に換装されているのだとか。ちなみに、宮崎駿氏は「SSKはルパンが金に不自由してない頃の愛車で、チンクエチェントは金に困っている時期の愛車」とコメントしています。いずれにしろ、SSKはルパンが乗るにふさわしいクルマに違いありません。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
レース出場を目的とした特別なモデル「メルセデスベンツSSK」
SSK、すなわちドイツ語:のSupersport Kurzの略でスーパースポーツよりもホイールベースが短いことを表しています。1928年から1932年にかけて製造・販売といいますから、ルパンが乗ったとされる1970年代はすでにクラシックカーという存在だったかと。設計はポルシェの創始者、フェルディナンド・ポルシェ博士によるもので、SSKの前にはノーマルホイールベースのスポーツタイプ「S」シリーズもラインナップしています。
SSKは2シーターとして設計しなおしがなされ、主にレースユースを目論んだモデル。わずか33台しか生産されていませんが、大半がレーシングカーに仕立てられており、公道仕様として販売されたのは数えるほど(詳細不明)。なお、資料によっては33台でなく、42台が作られたとするものもありますが、これはレースカーとして出荷したものを公道仕様に仕立て直した記録と混同しているという説が有力です。
気筒ごと、片側3本ずつある直管マフラーが猛々しいものですが、過給時の排気音は耳をつんざく爆音だったとか。
当時としては破格のパフォーマンスを発揮したスポーツカー
戦前のスポーツカーらしく、直6エンジンの排気量は7.1リッターという大ボリューム。ここに、当時のダイムラー・ベンツが開発したルーツ式スーパーチャージャーを装備することで250ps/3300rpm、57.3kgm/1900rpmと、当時としては破格のパフォーマンスを発揮しています。なお、このスーパーチャージャーは現代車のように常時作動しているのではなく、アクセルペダルを床まで踏み込むことでクラッチが繋がり、初めて作動する仕組みでした。スーパーチャージャー作動時のメカニカルノイズが強烈だったことからSSKは「エレファント・ブロワー(Elephant Blower)」とか、(標準の)白い車体色とあわせてホワイト・エレファントとの愛称もありました。
7.1リッターの直6エンジンはスーパーチャージャー付で250ps/57.3kgmという性能。最高速は190km/hを誇ります。
また、ポルシェ博士はレース向けの設計として、車体フレームを弓なりにして前後車軸の間を低くしたほか、サスペンションのリーフスプリングも車軸の下に変更するなど徹底的な低重心化を図っています。さらに、エンジンの搭載位置もフロントミッドシップに近いものとされ、前後重量バランスも最適化。短縮されたホイールベースとあいまって、運動性能は飛躍的に向上したのでした。
ポルシェ博士がSSKのために新設計としたのが弓型フレームや、車軸下のリーフスプリング。大幅な低重心化に成功しています。
現存数が極端に少ないのは、レース中の事故が要因か
こうして、優れたパワーと運動性能を武器にして、SSKは当時の主流だったヒルクライムで連勝、名手ルドルフ・カラッチオラに至っては新記録まで樹立するほどの大活躍を遂げています。もっとも、最大のライバルだったベントレーチームのマネージャーによれば「ハンドリングの重さとスローな設定がせっかくの低重心をスポイルしている。
巨大なステアリングは当時のデフォルト。正確無比ながら、いささか重くてスローだったらしく、現代のメルセデスベンツにも似ているかと。
床まで全開にしないと動かないスーパーチャージャーもレースの局面では非実用的」と辛口の評価。実のところ、SSKはレース中のクラッシュも多く、現存台数が極端に少ない一因ともなっているようです。
ルーツ式スーパーチャージャーはアクセルを床まで踏み込むと作動するという、現代とは違った構造になっています。
そんなお宝のようなクルマですから、市場価格も安いわけがありません。過去には8億円で落札されたノンレース車両もありましたが、現在はいくらか落ち着いていて、ご紹介のブラックSSKは2億5000万円ほどで落札されています。なるほど、ルパンが乗りたくなるのも納得ですが、フェラーリのエンジンに積み替えたとしたら、いったい売値はいかほどになるのかまったくもって興味が尽きません。
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