
「カブのエンジンオイルを抜いて、代わりにオリーブオイルを入れたエンジンは動くのか?」「バイクは走ることができるのだろうか?」この疑問、結論から言っちゃうとフツーにエンジンかかります。むしろ最初は調子よく感じたくらい。もっとも非推奨というオチもあるので、気になる方は自分で試さずに、この記事をぜひ読んでみてください。やってみなけりゃわからない、そんな実験の記録です!
●文:ヤングマシン編集部(DIY道楽テツ)
天ぷら油でも走るオートバイ伝説
本田宗一郎が作った世界一売れたバイク「スーパーカブ」。そのスーパーカブの都市伝説のひとつに「エンジンオイルの代わりに天ぷら油を入れても走る」というのがあります。一度は聞いたこと、あるのではないでしょうか?
実際に試して成功した人もいるらしい。それをクルマでやっちゃった猛者もいるとかいないとか。そして、昔のレースシーンでは鉱物油だけでなく、植物油も使っていたのもまた事実です。つまり潤滑能力はある、ということ。
だったら、思うわけです。サラダ油でいけるなら、オリーブオイルでもいけるんじゃないか?と。
しかもオリーブオイルといえば、滑らかで潤滑力ありそうだし(個人的な見解ですが)香りもいいし、ちょっと高級感すらある。・・・いや、エンジンに高級感が必要かどうかは別として。
気になってしまった以上、仕方ありません。浮かんだ疑問をなかったことにしてはいけないのです。というわけで、実際にトライして白黒つけてみることにしました。
【ご注意】本記事は、用途以外のオイル使用によるエンジンに与える影響を確認するための実験であり、一般使用車両での実施や再現を推奨するものではありません。絶対に真似しないでください。
実験車両はリトルカブ
今回の生贄・・・もとい、実験車両はこちら、リトルカブです。純正エンジンはすでにご臨終だったので、現在は海外製の汎用エンジンを搭載しています。とはいえ、基本構造はスーパーカブ系の横型エンジンにかなり近いもの。つまり、今回の実験にはちょうどいい被検体と言えます。
ちなみにこの車両、以前には「通常の3倍のオイルを入れてみた」という実験も行っています。
【ご注意】本記事は、エンジンオイルの過剰注入がエンジンに与える影響を確認するための実験であり、一般使用車両での実施や再現を推奨するものではありませんのでご了承ください。 オイルの規定量は守らなくちゃイ[…]
さらにこのエンジン、過去には北海道一周ツーリング中にオイルポンプの動作不良を起こし、ほとんどオイルが回らないような状態でも走って帰ってきたという、なかなかの剛の者。
カムシャフトを交換しただけで、多少の異音はありつつも、まだ走れてしまう。この時点で、「スーパーカブ系エンジンの基本設計って、やっぱりスゲェ!」と思わざるを得ません。ならば今回は、さらにその先へ。プルスウルトラしていただきましょう。
出でよ! コストコのエクストラバージンオリーブオイル
今回使用するのはコチラ(↓)コストコのエクストラバージンオリーブオイル。
我が家では定番の一本です。揚げ物、パスタ、炒め物、生食、なんでもこれ。普通にうまい。しかも最近は円安の影響もあってか、オリーブオイルもなかなか高い。ある意味、これは立派な高級オイルです(エンジンオイルより高いんじゃないか?コレ)。650mlほど頂戴することにしました。
あっ。もちろん奥様の承諾済みです(←ここ大事)。キャップを開けると、ふわっといい香り。
オイル注入用のジョッキにオリーブオイルを注ぐと、なお一層香りが広がって、ガレージがイタリア~ンなムードに(この時点ですでにシュールな状況)。
いつもの容量で、注入口からオリーブオイルをエンジン内に注ぎ入れるのですが、ちょっと意外だったのが、オリーブオイルってけっこう粘度があるということ。なかなか入っていかない(急かして入れようとしたら少しこぼしちゃった)。
サラダオイルよりも粘度がある気がするので、これはひょっとしたらけっこういけてしまうのではなかろうか? とか、つい期待してしまう。さて。いよいよ始動。
ちょっとワクワクドキドキしながらキックペダルを踏み込むと、あっさりエンジン始動。
ホントに一発始動。そして気になるエンジンのメカノイズ音も、びっくりするほど普通。いや、むしろ滑らかなぐらい?いや、気のせいじゃないぞ? ひいき目じゃなくて、ちょっとシビアに音を聞いても、いつものエンジンオイルよりいいぐらい。マイルドなタペット音を聞いていると、なぜか口に広がる生パスタのオリーブオイルの香り。
アクセルを軽くあおると、ビューンとエンジン回転数が上がる。嫌な引っかかりも少なく、むしろフィーリングがいい。これ、気のせいではありません。本当に滑らかなんです。コイツ・・・調子良いぞ!!?
「あっ ・・・企画倒れかもしんない」
内心、そう思いました。だって、すげー調子いいんだもん。いや、まて。長い間アイドリングしたら、ひょっとしたらダメになるかもしらんぞ?
うまくいってほしいと思いつつも、企画的には何かトラブルも起きて欲しいという、矛盾に満ちた気分のまま、そのまま放置してアイドリングさせてみたんですよ。30分ほど放置したでしょうか・・・。
全然問題なし。っていうか、相変わらずエンジンの調子いいし。
マジか。スゲー快調に走っちゃうんだけど!
ここで、急遽予定変更。本当はガレージでアイドリングだけで終わる予定だったんだけど、ここまで調子がいいんだったら、これで終わるのはもったいなすぎる。やっぱ実際に走ってみないと、本当の性能はわからないでしょ?
ってことで、近所のテストコースにやってきました。ここだったら突然エンジンが焼き付いても迷惑にならないし、自宅まで押して帰ることもできるのでOKでしょう。再びキックペダルを踏むと、やっぱり一発始動。
アクセルをひねってみると、すごく滑らかにエンジンが回る。ドキドキしながらギアを入れてみても、とくにクラッチが滑る様子もなし。これだったら走れるでしょうってことで、そのままスタート。
走り出す。ギアを「ガッチョン」と入れて二速へ。ぶいーーん。「ガッチョン」と三速。・・・めっちゃ調子いいんですけど!
さっきまで入れてたモノ●ロウのエンジンオイルよりも断然調子がイイ!! マジか、マジか。ただ走れるだけじゃなくて、すこぶるエンジンの調子がいいってんだから、思わずヘルメットの中でニヤついちゃいましたよ。
実験前にイメージしていたフィーリングと全然違う。違いすぎて思わず笑ってしまう。どうです? この結果は予想できなかったでしょう??
パスタの香りとともに帰路につくワタシ
そこで、ムクムクと湧いてくるいたずら心。
「フル加速したらどうなんだろう?」
ここまで来たら、オリーブオイルの底力を見てみたいよね。てことで、一時停止ラインからのフル加速!
エンジン回転の伸びがすこぶる良好だったので、加速も良好! 遠慮なく法定速度までブン回すことができます。
「おお~、オリーブオイルってスゲー!!」
たしかに、レースで植物由来のオイルを使ってたのも頷けます。だって、すげえフィーリングで、めちゃくちゃエンジン回るんだもん。やった~、すげー発見だぁ~!!
・・・なんてホクホクしながら走らせていると、「その時」が突然やってきました。
途中からエンジンのフィーリングが変わってきたのです。最初は滑らかだった回転が、妙に軽くなる。やたら回る。抵抗感が薄い。一見すると「さらに調子がよくなった」ようにも感じるのですが、これはちょっと違う。古いエンジンを触っている人ならわかると思いますが、壊れる直前に妙に軽く回るような、あの嫌な感じ。
これは調子がいいのではなく、油膜が切れかけてる状態で、つまりはエンジンが焼き付く寸前の気配です。
ウィンカーつけて路肩に停止。そこではじめて、決定的な異変に気付きます。あたりに立ち込める、オリーブオイルのいい香り!
一瞬、状況が理解できませんでした。「どこかでパスタでも作ってる?」「ガーリックでも炒めてる?」「イタリアンレストランあったっけ?」・・・いや違う。
右斜め後方、マフラーの出口から「プトプト」と出てくるわずかな白煙。それは排気ガスとは思えないほどに芳醇なオリーブオイルの香りなのです。どんどん出てくる、出てくる。あたり一面イタリア~ンなムードに。
・・・あ、そっか。原因は股の下です。このエンジンです。エンジンの中に入れたオリーブオイルが、熱でサラサラになり、燃焼室側へ入り込み、燃えている。つまり、オリーブオイルがエンジン内部で高温調理されている状態です。
・・・いや、笑いごとではないのですが、香りだけは本当に良い。お腹が空くレベルです。てか、生パスタ食べたくなってきた。
オリーブオイルはエンジンオイルに非ず
冷静に考えれば、原因は最初からわかりきっていました。
オリーブオイルは食用油です。エンジンオイルではありません。エンジンオイルに求められるのは、ただ「油っぽい」ことではありません。重要なのは、温度が変化しても適切な粘度を保つこと。エンジン内部の高温・高回転・高負荷の環境で、金属同士の摩耗を防ぎ、油膜を維持することです。
一方、オリーブオイルは寒い場所では白っぽく固まりますが、温めたフライパンの上ではサラサラになります。料理ならそれでいい。むしろ、それが使いやすい。でも、エンジンの中では話が別です。
高温になって粘度が下がりすぎれば、油膜を保ちにくくなる。さらにピストンリングまわりから燃焼室へ入り込めば、そのまま燃えてしまう。今回、周囲に立ち込めたオリーブオイルの香りは、まさにその証拠だったのだと考えます。
まとめと感想と空腹と
さっきから、生パスタを食べたくて仕様がない・・・いや、その前に今回の実験結果をまとめると、こうなります。
オリーブオイルでもエンジンは始動する。しかも最初はかなり滑らかに回る。実際に走ることもできる。ただし、長時間は無理。温度が上がるにつれてオリーブオイルの粘度が下がり、エンジンオイルとしての役割を維持できなくなる。
その結果、燃焼室に入り込んで燃えてしまった可能性が高い。つまり、オリーブオイルでバイクは走るのか?という問いへの答えは「走る。けれど、走り続けるためのものではない」ということになります。
やってみて感じたことといえば、「やっぱりエンジンオイルってスゴイ」、この一言ですね。低温から高温まで安定した油膜を保持すること。それができる、この差こそが、食用油とエンジンオイルの違いなのでしょう。
興味本位で始めた実験のはずが、かなり勉強になりました。「オリーブオイルでエンジンは動くのか?」ただそれを試してみたかっただけです。ところが実際にやってみると、エンジンオイルに必要な粘度、温度特性、マルチグレードの意味が、理屈ではなく体感としてよくわかりました。
いや、最初からわかってたことなのですが、やっぱり体感してみると理解度が違います。あんな絶好調だったのが、いきなり危機的状況になっちゃいましたからね! あれは危なかった・・・。
あくまで実験としての一例ですが、同じギモンを持つ方への何かの参考になれば幸いです。最初は調子良くても、そのあとエンジンを壊す危険性がとても高いので、良い子はマネしないでくださいね!
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました~!
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