
スーパーカーブームの頃は、アメリカ製V8エンジンというだけで隅に追いやられていた感のあるデ・トマソ・パンテーラ。ですが、今思えばイタリアン・カロッツェリア製のボディに、5リッターV8をミッドシップ、しかもホーリーの凶暴なキャブレターなどなどクルマ好きなら一度はアクセル全開にしてみたい傑作マシン。数あるバリエーションの中でも、一二を争う人気の「GTS」を振り返ってみましょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
戦国武将なみの知略でフォードV8をゲット
パンテーラが発売された1971年、実はフォードがデ・トマソの株式を84%も買い取っていました。これは敵対的買収とはいささか違い、創業者のアレハンドロ・デ・トマソはパンテーラ、そして将来的な発展を見据え資本を強固なものする狙いがあったためと言われています。よく知られたエピソードですが、アレハンドロはフォードからのエンジン、ひいては投資を呼び込むためにフォード一族から嫁をもらうという戦国武将なみの努力までしています。
デビューイヤーの1971年、アメリカ本土に72台が輸入されたパンテーラは、フォードによってリンカーン・ディーラーの店頭で売られました。が、このクオリティがひどかった。ボディはそこかしこに塗装ムラ、ヘコミ、パテ修正跡が残り、内装の仕上げは目も当てられないほど雑だったとか。セールス部門のトップがアレハンドロを詰めると「だったら、もっといいエンジンよこせ」と言ってのけたとか。
その甲斐あってか、1972年モデルからは5.8リッターのクリーブランドV8(当時のトップエンド)が搭載されたほか、北米向けラグジュアリー仕様「L」が追加されるなど、商品性は確実に向上。これに気をよくしたフォードは、アレハンドロにパンテーラでのレース活動にゴーサインを出しました。もともと、エンツォ・フェラーリと同じく「レースのために市販車作ってる」アレハンドロでしたから、してやったりと口角を上げたこと間違いありません。
1972年モデルのヨーロッパ仕様GTSをベースに、グループ4風に仕上げた逸品。クラシック・ル・マンなどに参戦した本格派。
グループ4をオマージュしたGTS
とはいえ、パンテーラのレース仕様は市販車の完成と同時に開発が始まっていたとされています。それが証拠に、デビュー翌年の72年にはル・マン24時間耐久にグループ4マシンが2台エントリー。残念ながら結果はDNF(9時間と10時間でエンジントラブル)とさえないものでしたが、パンテーラのパフォーマンスはライバルたちに脅威を与えましたが、とりわけポルシェは気に入らなかったようで、FIAに対して執拗なほどレギュレーション違反がないかの確認を申し入れたそうです。実際、どういうわけかグループ4(および3)でパンテーラはレース用ブレーキの仕様が禁じられ、市販仕様のまま参戦していました。これじゃリタイアも仕方ないかもしれません。
さて、GTSはまぎれもなく上述のグループ4マシンをイメージして作られたバリエーション。ル・マンと同じカラーリング、すなわちフロント&リヤフード、そしてチンスポイラーからサイドガーニッシュまでをマットブラックに、残りはクラシカルなレッドという2トーンの塗分け。スーパーカーブームの際は、このカラーかブラック&イエローが多く出回っていたかと。また、極太タイヤを収める大仰なオーバーフェンダーもノーマルボディとは比べ物にならない存在感をアピール。アンダーボディがカットされたリヤエンドから覗くマフラーやデフのカッコよさといったら比べるものさえ見当たりません。
タイヤ&ホイールがグループ4マシンはストックより1サイズ以上太いはず。車高の微妙な高さがパンテーラらしい佇まいを作っています。
レッド&ブラックはル・マン24時間のカラーリング
アメリカ仕様はいわゆるコスメティックチューンとなり、エンジンやミッションはノーマルでしたが、ヨーロッパ仕様では圧縮比、マフラー、タイヤサイズなどが変更され、よりレーシングカーが意識されていました。今回、フランスのコレクターが放出したGTSは、まさにル・マンのマシンをオマージュしたかのようで、大型ラジエータ、4in1マニホールド、そしてロールケージをはじめとしたインテリアのレーシングトリムが見事な仕上がり。なお、この個体でも装着されていますが、キャブはシリーズを一貫してホーリー4バレルを採用。ウェーバーはレーシングモデルのみの使用とされています。
なんちゃってGTS仕様にはご注意!
ちなみに、GTSは後にグループ5をオマージュしたGT5へと進化していくのですが、この頃にはフォード資本がごっそりと抜けていて、アレハンドロが自力でカロッツェリアやファクトリーに組み立てを依頼しています。リヤのデルタウィングやフェンダーがサイドステップと一体化したデザインもまた洗練され、魅力的ではあるものの、個人的には初期のスタイルに野蛮きわまりない追加パーツで装ったGTSが最もパンテーラらしい気がします。
こちらの個体はオークションに出品されたものの、最低落札価格の18万ユーロ(約3200万円)に届かなかったとのことで、取引不成立。このほか、GT5や北米仕様のGTSなども中古市場に流通しており、最近では2000~2800万円ほどがボリュームゾーン。国内外ともに後から改造された売り物も少なくないので、GTSにしろGT5にしろ出荷時のナンバーチェックはくれぐれもお忘れなく。
1972年のル・マン仕様車をイメージしたレプリカ(?)追加ランプやサイドミラーが耐久レーサーらしい装い。リヤクオーターの吸入口にもご注目。
パンテーラGTSのヨーロッパ仕様車。オーバーフェンダーはあるものの、チンスポイラーやリヤウィングはオプションとしても存在していませんでした。
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