新車価格2.7億円が走行距離871kmで半額に?!

1世代だけ存在したアイルトン・セナ仕様──限定75台だったマクラーレン・セナGTR

1世代だけ存在したアイルトン・セナ仕様──限定75台だったマクラーレン・セナGTR

アイルトン・セナの名を冠したバイクはいくつもあれど、意外なことにクルマとなると2017年にマクラーレンがリリースした「マクラーレン・セナ」だけ。あまりに偉大な名前だけに、あれほど親密な関係を築いたホンダでさえ(NSXという絶好のモデルがあるにも関わらず)使っていません。無論、マクラーレンもホンダと同じくらい密接な間柄だったとはいえ、よほど自信がなければセナの名は決して使わなかったはずです。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s

アルティメットシリーズ第2弾として登場

マクラーレンは一般的なカタログモデルですら、超絶素晴らしいスポーツカーにほかなりません。が、さらに磨きをかけたスペシャルモデルとして、アルティメットシリーズを設定しています。初代は2012年に登場したP1で、3.8リッターV8ツインターボにモーターを追加することで916ps(エンジン737+モーター179ps)を発揮する超ド級スポーツカー。車名のPはポジションの頭文字で、1は言うまでもなくトップの位置を示すというマクラーレンの矜持や覚悟がひしひしと伝わってくるモデルでした。

次いで、2017年にアルティメットシリーズ第2弾として登場したのがセナ。このビッグネームが付いたことで、世界中のクルマ好きは「ついに来たか!」と反応したことでしょう。たしかに、1988/1990/1991年にセナはマクラーレンのF1マシンでチャンピオンを獲得し、同チームの黄金期を築いた立役者に違いありません。また、セナの死後もマクラーレンはことあるごとにセナ財団への寄付を施しており、想像をはるかに越える結びつきがあるのでしょう。

2017年に登場したアルティメットシリーズ第2弾のマクラーレン・セナ。GTRは75台限定でサーキット専用に仕立てられました。

ボディならびにエアロパーツはカーボンなのはもちろん、グラム単位での軽量化を徹底。半面、ダウンフォースは大幅に向上。

収益の一部がセナ財団へ寄付される仕組み

実際、マクラーレン・セナの収益についても一部がセナ財団への寄付金となることも発表されており、莫大であろうネーミングライツ(命名権)と合わせて、相当な額がブラジルの恵まれない子供たちのために役立てられるはず。新車価格が1億2000万円(日本国内)とはいえ、それを考えたらオーナーは「いいことした気分」が味わえるのではないでしょうか。

もちろん、マクラーレン・セナはいいことした気分だけでなく、0-100km/h:2.8

秒、0-200km/h:6.8秒という怒涛の加速力や、最高速340km/hで胸のすくようなドライブも体験可能。それもそのはずで、カーボン製モノケージⅢと呼ばれるバスタブシャシー、フロントからリヤエンドまで続くエアロデバイスもことさら軽量にこだわった結果、乾燥重量は1198kgと驚きの数値なのです。

FIA GTなど競技ルールに縛られることなく、マクラーレンが自由にサーキット最速マシンを目指した結果がセナGTR。

コース専用ということで触媒はオミット。また、ディフューザーの形状もノーマルと似ているようで、実は専用パーツに変更されています。

セナGTRはもちろん、セナの名を冠したモデルの売り上げの一部がセナ財団に寄付されます。マクラーレンとセナの密接な関係の証しです。

セナは500台、セナGTRは75台の限定モデル

マクラーレン・セナは世界限定500台がリリースされていますが、このほかにスペシャルエディションがいくつか存在します。GTRやCanAm、あるいはワンオフだったセナ・センプレなど、いずれもアイルトン・セナの偉業やDNAを受け継ぐようなモデルばかり。とりわけ、今回ご紹介のGTRはレーシングトリムが施され、限定75台というさらにレアなもの。

セナGTRは一般公道向けの法規はもちろん、FIA GTレギュレーションすらも度外視したといわれ、まさにマクラーレンが目指す究極(アルティメット)のモデル。搭載されるエンジンは、排気量を変えず、ドライサンプ、コネクティングロッドとピストンの軽量素材への変更、超低慣性ツインスクロールターボチャージャーはより精査がなされたとのこと。また、一般道を走らない想定なので、インコネルとチタンを使った排気システムから触媒も省かれています。

その結果、無印セナの800ps/7250 rpmから825~830ps/7500rpmへとパワーアップ。加えて、電子制御ウェイストゲートのリファインによってスロットルレスポンスがカミソリのような鋭さになったとか。おかげで、0-100km/h、および0-200km/h加速のいずれも0.1秒短縮というパフォーマンスをゲットしています。なお、マクラーレンによると最高速はエアロデバイスの設定などで345、ないし355km/hと予想されています。

フロントの大きく開いたインテーク内に見えるグリーンのパーツは可変空力パーツで、スピードに応じてダウンフォース、インテークを制御。

レース参戦は視野にないとのことながら、ラジオやローンチコントロールは標準装備され、ステアリングでコントロールしています。

カーボン製バケットシートもアルティメットシリーズではお馴染みの装備。セナのロゴが刺繍されているところもご注目。

軽量化のためにサイドウィンドウはプレクシグラスのスライド式に変更。ガソリンキャップにはGTRのロゴが刻まれています。

マクラーレンのプレートには75台中73台目の刻印が確認できます。それにしても、織り目の美しいカーボン地はさすがマクラーレン!

1億5000万円の落札価格は新車価格のほぼ半値

実際、コースで走行するとなれば最高速はもとより、ダウンフォースも重要で、GTRのエアロデバイスは無印よりも低い速度で15%増しという数値を得ています。つまり、空力性能に頼ったドライビングに優れているということ。さすが、マクラーレンは抜け目がないといったところでしょう。もっとも、このセナのヘルメットにインスパイアされたボディカラーのサンプルは走行距離871キロと、さほど走り込んではいない様子。

それでも、オークションでは97万3000ドル(約1億5000万円)と、新車価格178万ドル(約2億7000万円)を大きく下回りました。おそらく、アルティメットシリーズはコレクターズアイテムとしての需要が高く、少しでも走行距離が少ない、あるいはまったくの新車でないとプレミアが付きづらいのかと。また、同シリーズがスピードテールやエルヴァなどバリエーションが増えてきたことも無茶な高騰をしない一因かもしれません。

McLaren Senna GTR

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