
2025年7月号より、ヤングマシンは紙の雑誌から電子書籍オンリーの形態で発刊されることになった。紙の雑誌を作り続けてきた編集者であるNomさんより、電子化に感じた必然と期待する新メディアのかたち、そして53年にわたる歴史の重みが語られる。
●文: Nom(埜邑博道)
ヤングマシンの電子化について考えてみました
ボクがヤングマシン編集部に配属されたのは、1983年の7月。バイクへの興味も知識もなく、二輪免許も持っていませんでした。なので、内外出版社に入社する際に、面接担当の役員に「バイク雑誌がありますが、そこに配属されることもあるのでしょうか?」と質問したら「そんなのナイ、ナイ」と明確に否定されたことを覚えています。
しかし、入社してわずか半年。当時、低迷していたヤングマシンを立て直すために、新編集長の下、若いスタッフを集めて誌面を刷新するということになり、そんなバイクド素人のボクに、ただ若いというだけで白羽の矢が立ってしまったのでした。
いま思い返すと、もしあのときヤングマシンに配属されず、内外出版社の自動車雑誌でキャリアを重ねていれば、いまごろ自動車評論家の国沢光宏さんのようにTVのコメンテーターになれたのかも……なんて思ってしまったり(笑)。まあ、バイク雑誌のおかげで、いろいろな経験ができ、さまざまな縁が生まれたので、とても感謝はしていますが。
当時はバイクブームで、HY戦争が終結した直後。バイク業界はとても元気でした。バイク雑誌も「オートバイ」、「モーターサイクリスト」、「モトライダー(現在は休刊)」があり、その後「The Bike(こちらも休刊)」などの新興バイク誌が創刊されるなど、活況を呈していました。
ヤングマシン創刊号(1972年12月号)
そんな中にあって、老舗(創刊は1972年)のヤングマシンは苦戦していて、スタッフ総入れ替えの荒療治をせざるを得ない苦戦を強いられていたのです。
業界に元気があったことも奏功して、新体制でリスタートしたヤングマシンは徐々に部数を伸ばし、先行のバイク誌を急追する存在になっていきました。そんなイケイケだったこともあって、ボクはある日、「大人向けのバイク誌を作れ」との命を受け、「BiG MACHINE(現在休刊)」を創刊するに至りました。
それから幾霜月……。
ビッグマシン創刊号(1994年秋号)
紙の本、とくに雑誌はまさに冬の時代に
情報の取得手段が紙(雑誌など)からインターネットになり、それがコロナ禍で激しく加速して、紙(とくに雑誌です)はとても厳しい時代を迎えました。
ボクが現役の雑誌編集者/編集責任者だった10年くらい前から、そんな状況は如実に顕れ始め、雑誌がこのまま衰退し続けたらどんなビジネスパッケージで存続させたらいいかということばかり考え、収支を試算し、日々その結果に頭を悩ませていたものです。
ただ、そんなインターネットに紙が飲み込まれるような中にあっても雑誌の価値や意義はまったく変わらなくて、形がどうあれ人のすぐそばにあって、読みたい記事、手元に置いておきたい記事が瞬時に(WiFiがなくても)読めるという利便性は紙ならではの美点です。
そう書いているボクも、いまは紙の雑誌はほとんど見ませんし、唯一、毎月購読している「文藝春秋」も「kindle」で読んでいます。ただ、読み方は変わってきていて、横目でざっと見て、内容の良し悪しでその記事を読むか読まないかを決めている感じ。
多分、昔はそんな忖度はしていなくて、紙に情報や知識が書いてあればそれをむさぼるように読んでいた気がします。
でも、いまは何か知りたいことがあればスマホでGoogleに尋ねれば瞬時に答えが得られる時代です。その答えが正しいか、間違っているかは別として……。
そんな時代に、ヤングマシンが紙からデジタル版になりました。
50年以上続いた紙の雑誌が書店から姿を消し、手に触れることができないデジタル情報になる。かつて10年近く編集部に在籍した自分にとって、とても残念で、寂しい気持ちになりました。
ただ、冷静に、情を含めずに考えるとこれは当然の帰結のような気がします。
ヤングマシン 紙の定期刊行物として最後の号(2025年6月号)
雑誌編集者として約1000冊を制作してきましたが……
紙のバイク雑誌を40年以上作り続けてきたボクですが、どうしてあんな辛い・きつい・汚い(仕事で徹夜が続き、何日も風呂に入れない日もあったのです)の3K仕事に耐えてこられたかというと、読者に伝えたいこと、知ってもらいことがあったから、その手段として雑誌を作り、手元に届けたいと強く思っていたから。そのためには、紙が唯一の手段だったのです。紙こそ情報伝達の唯一で至高のものと思っていたのですが、それは幻想だったんだといまは思っています。
月刊誌の場合、だいたい発行の1か月くらい前に企画が決まって、取材・撮影をして、発行の1週間くらい前に記事が完成。そのあと、印刷・製本・(書店への)配本があって読者の手元に届くのですが、ネットの場合、これこれの記事を書いてと編集者から依頼があれば、すぐに記事を書き始めて、早ければ数時間以内には記事としてウェブサイトなどに掲載されます。
このスピード感の違いは如何ともしがたい、致命的な雑誌の欠陥です。
ウェブマガジンだって、ひと月に1回の発行だと紙の雑誌と同じスピード感じゃないかと思われる向きもあるでしょうが、ウェブマガジンは紙と違って一度制作したらずっとそのままということにはなりません。もし、記事に電話番号などの誤りがあると分かったらすぐに修正ができ、「お詫びと訂正」記事をネットや次号に掲載する必要もありません。
電子版のヤングマシンがするかどうかは分かりませんが、新たな情報が判明したなどの理由でいったん掲載した記事を丸ごと差し替えるなんていうことも可能です。
月刊誌の場合、掲載された情報は1か月の命(その間は価値があった)でしたが、いまやあらゆる情報が1日もつかもたないか。瞬時に拡散され、更新されていきます。
ようするに、人の想像を超える速さで情報の伝達スピードが上がってしまったのです。
ボクのように紙しかない時代に生まれ育った世代はそのスピード感のなさも仕方ないことと思ってしまいますが、生まれた時からスマホが身近にあるデジタルネイティブの方々は紙の遅さには耐えられないでしょうね。当然だと思います。
デジタル版ならいくらでも保存・保管が可能です
思い返すと、ボクは40数年間の編集者生活で1000冊近い紙の本を作ってきました。ある時期までは、作った本を自宅に持ち帰って保管していたのですが、保管のためのスペース・重量があるときオーバーフローして、それからほとんど自宅に自分の作った本を持ち帰ることはしなくなりました。
たまに、あの本に載っていた記事はどんなだったっけと、読み返したい思いに駆られることがあります。でもそれは今となっては不可能なことです。
でも、記事がデジタルデータで残っていたら、いつでも読み返すことが可能です。ボクにしか価値がないかもしれない記事を、家族に嫌な顔をされながらかさばる紙で保存しておくよりもとても効率的で、理想的ですらあります。
先日、知人からドゥカティの超レアなレーシングマシンを入手したと連絡をもらい、どんなマシンだったっけとネットで調べてみましたが、ボクが知りたいと思ったことがごく断片的にしか載っていませんでした。そのとき、編集長をしていた「DUCATI Magazine」での紹介記事が読みたいと思いました。きっと、ボクが知りたいことが余すことなく載っているはずだろうなと。
そういえば、担当していた「RIDERS CLUB」が創刊500号を迎えたとき、発行したすべての号をデジタルデータとして残すことを思い立ち、紙の雑誌をすべてスキャンして、電子版としてウェブで閲覧可能にしたことがありました。
とくに、趣味の雑誌は新しい情報だけではなく、知識として記憶しておきたい情報も多々掲載されていて、それらは必要なときに引き出せることこそ重要です。さらに、その引き出した記事には、専門家としての編集者・ライターの知見がたっぷり盛り込まれていて、多くの人にとって有用なものなのです。
ウェブ化は時代の流れ、必然のように思います
話があっちこっちに飛んでしまいましたが、話はヤングマシンDと名付けられたデジタル版(電子版)についてです。
ヤングマシン電子版 2025年7月号(リンクは以下↓)
ヤングマシン電子版2025年7月号 [特集] バイク界の近未来を斬る! The Times They Are A-Changin'時代を変えるべく、さまざまなテクノロジーや新モデルが発表されています。[…]
賛否は当然あるでしょうが、ボクはこれも時代の流れで、ある意味、必然なのかもと思っています。
書店の数がどんどん減っていて、雑誌の主戦場だったコンビニもいまはほとんど雑誌を置いていません。
雑誌売り場があるスーパーもありますが、棚に刺さっている本を手に取って見ているのはほとんどがボクよりも年上の世代の方だけです。
そんな時代だからこそ、紙からウェブには当たり前の流れでしょう。動画やリンク先も貼り付けることができるし、なによりずっと保存していてもかさばることもありませんし、いつでも必要な記事・情報を引き出せます。
そしてもっとも大切なのは、前述のように電子版であろうとそこに掲載されているのは専門家としての編集者・ライターの知見がたっぷりと盛り込まれた記事です。取材もしないで、もちろんウラ取りもしないで即席で出来上がっている、ネットの「コタツ記事」とは天と地ほどの内容の濃さ・クオリティに差があるのです。
紙にできて電子版にできないことはなく、逆に紙だとできないことが電子版だといとも簡単にできてしまいます。
さて、2025年5月24日にスタートした電子版の評判ですが、編集部によると完全無料化によるアクセスのしやすさ、豪華な付録やプレゼント、デジタルならではの新機能(ポップアップ動画、動くリンク、拡大縮小)が大きな魅力だと感じた方が多かったそうです。
一方で、読み手のPCやスマホのパフォーマンスによっては、ビューワーがスムーズに動いてくれないなどのコンプレインもあったとも言います。
ヤングマシンD(電子版)はまだ始まったばかりで、これからどんな進化をして行くかは分かりませんが、電子版の制作を重ねていくうちに「あ、こんなこともできるんだ!」という新たな発見があって、この先どんどん進化していくような気がします。そして、それを強く期待します。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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