“アルプスローダー”として名を馳せた往年の名機トランザルプがついに復活! 270度クランクの新ツインでV2時代の鼓動感はそのまま残しつつ、回りの良さと車重の軽さでアドベンチャー界に新たな風を巻き起こしそうだ。その乗り心地やいかに!?
●文:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ホンダ
【テスター:丸山浩】自身の主導団体”ウィズミー”会長/YouTubeチャンネル”MOTORSTATION TV”の司会/ヤングマシンのメインテスターを務めつつ、オンオフ2輪4輪問わずレースに参加するモータージャーナリスト。ツーリングはタンデムが大好き。
アフリカツインより20~30kgも軽い!
ついに復活したトランザルプ。フロント21インチのワイヤースポークホイール、そしてブロックパターンタイヤとなかなか本格的なアドベンチャースタイルで、アフリカツインに憧れていたけど車重や大きさに二の足を踏んでいたような人は、きっと気になっていたことだろう。開発コンセプトは「日常から世界一周まで」。なかなか欲張りに聞こえる。
実車を前にすると、兄貴分たるアフリカツインに負けないそれなりの存在感を発しているが、跨ってみるとタンクの圧迫感などがなく、コクピットまわりはスッキリとコンパクト。それに車重が圧倒的に軽い。アフリカツインと比べて約20kg、DCT仕様となら約30kgも違う。
おかげで整地されたアスファルト上ならUターンなどもずいぶん軽く回ることができる。ノーマル状態でのシート高は850mmで、身長168cmの私だと両つま先が地面に届くといった感じ。ちょっとこのあたりは人によってハードルの高さを感じる部分となるが、ちゃんと対応策(後述)があるのでご安心を。
新設計の754ccパラツインは排気量が少ない分、アフリカツインよりも“優しい”感じだ。デカすぎずイキすぎず気軽に走れるところがいい。だが、ちゃんと270度クランクらしいドカドカ感はあるし、林道や街乗りは2000rpm以下で走ってもドロドロと楽しく、3000rpmも回せば加速感も十分だ。
クルーズしていると、シートの高さがもたらしてくれる高い目線から、南アルプスを眺めつつ走らせるのが実に気持ちいい(今回の試乗会場は山梨県の小淵沢町)。バイクがあまり視界に入りすぎないのも、まわりの景色を堪能するのにちょうどいい。高速道路も得意で、比較的立ち気味な角度のスクリーンが予想以上に風を防いでくれる。私の体格だと120km/h区間でもヘルメットのシールドを開けて走ることができたのには驚いた。
長距離山脈を駆け抜ける、まさしくアルプスローダー
のんびりクルージングで流すのも快適なのだが、そこから乗り込んでいくと、このマシン本来の楽しみ方に気付いた。トランザルプの2気筒は、ストリートファイターのCB750ホーネット(日本未発売)と共通の、いわば元気なスポーツエンジン。排気量が少ない分、アフリカツインよりも“回して乗る”ところにトランザルプならではの強みがあったのだ。それをもっとも感じさせたのがワインディングだ。
ストリートファイターと共用するエンジンは4000rpmくらいから元気よく、そして7000rpm以上は強烈にドーンと回っていくので、高回転を多用して走らせるのが面白い。それにハンドリングがユッサユッサせずとにかく軽い。高回転の歯切れもいいからスロットルのレスポンスでキビキビと向きを切り替えられる。アスファルトのワインディング区間をビュンビュン飛ばすには、アフリカツインよりいいペースで走れちゃうのだ。
その一方で、オフロード性能はライディングモードの「グラベル」ではパワーを抑えトラクションコントロールも強めにして、突然のダートでも安心して通過できる設定にしているように、見た目ほどガシガシに攻める本格キャラではない。行程のうち8割はアスファルト上を俊足で駆け抜け、残り2割のダートを安全にクリアできるようにしたキャラクターと考えた方がいい。4輪で言うとガチまでいかないSUVに近い感じだ。
と、ここで思い出したのが、初代トランザルプが提唱していた“アルプスローダー”という言葉。広いヨーロッパのアルプスでは、のんびり楽しみすぎると陽が落ちるまでに峠を越えられない。所々にダートや石畳もあるアルプスを一気に超えるのにCRF250Lではパワー不足だし、豪華なアフリカツインでは時間にも縛られずもっと優雅でゆっくりした旅を楽しみたくなる。まさにアルプスローダーたるコンセプトを新トランザルプも引き継いでいたのだ。
日本でも街中/高速/峠を俊足で駆け抜け、キャンプ場近くのダートをアフリカツインほど怖がらずにクリアできるというのは、旅のツールとして大きな可能性があるはず。2人乗りが得意なところもイイネ!
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