〈特集〉直4エンジン最前線2020

名車カワサキZ2/Z1復刻!#2/3【最新技術で蘇るシリンダーヘッドの最強仕様とは】

稀代の名車として絶版車界で50年近くも不動の人気を誇るカワサキZ2/Z1。そのエンジンの核心部・最重要部品であるシリンダーヘッドをメーカー自身が復刻させたこのプロジェクト。オリジナルデザインを踏襲し、既存のシリンダーにボルトオンで装着できるのは当然だが、細やかなアップデートにも注目したい。


●文:栗田 晃 ●写真:モトメカニック編集部/川崎重工業 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

丸ヘッド時代の変更点を凝縮した最強仕様

(※前ページより続く)

昔あったものを復刻する際に、現代の開発者や技術者がどこまでアレンジするかは重要な要素となる。およそ半世紀前の工業製品ならば、あれこれ手を加えたくなるだろう。

だが、シリンダーヘッドはエンジンを象徴するパーツである。ユーザーがZ2/Z1を求めるなら、良かれと思って手直しするより、基の図面どおりに忠実に復元する。それを実行したのがこのプロジェクトの素晴らしいポイントだ。

たとえばカムシャフトを保持する4点のベアリングキャップ。現在のカワサキ基準なら6点としたいし、4点ならもう少し強度を高めたいところだが、当時の設計で40年以上使用できたという事実から、継承したそうだ。ここでベアリングキャップを設計変更するならカムシャフトのジャーナルも変更が必要になるし、カムを変えるならカムチェーンもローラータイプより今どきのサイレントタイプの方が良いだろう、…とやり始めればオリジナルのZからどんどん離れてしまう。

そうならないためにも、当時の図面を基に年次変更を洗い出し、熟成が進んだ後期モデルの仕様を反映させることで、信頼性とユーザー満足度の高い製品にまとめていった。

その代表的な部分がエキゾーストスタッドボルトの太さだ。初期モデルはM6サイズが標準だが、再生産ヘッドは’76年後期~’77年型で採用されたM8となっている。これは社外品の集合管を着脱すると折れやすいと言われるM6ボルトの弱点を払拭する改善策で、設計担当者も「M6スタッドは最初から想定外でした」と語っている。

同様に、タコメーターケーブル取り出し部横の雌ネジからのオイル漏れ対策として、ヘッドカバー固定ボルトの雌ネジを貫通穴から袋状に形状変更したのも、ここはユーザーが困ることが多いウィークポイントであり「せっかく新品ヘッドを買ったのにオイルがにじむ」という思いをしてほしくないという開発陣の気持ちの表れだ。

だが、そうした「オリジナルに忠実に」という姿勢を貫くことができたのは、とにもかくにも素材となるオリジナルのZ2/Z1ヘッドに現代でも通用するポテンシャルがあったから、ということを忘れてはならない。

【必要な機能の上に美しさを備えたデザイン】’72年当時、設計図面上は可能でも製造現場では対応できなかった部分まで、現代の技術で復刻。冷却フィンは当時の市販車より薄くてシャープだが、これこそ当時の設計者が思い描いていたものを再現している。

(左)燃焼室上部、プラグ穴周辺にそそり立つフィンが根本から先端に向かってクサビ状に薄くなっているのも、当時物のヘッドより明確に分かる。(右)足に干渉しないよう1、4番のインテークポートが中心に寄せられている。3D解析がなかった当時、この形状を成立させているのは驚異的。

当時の仕様に沿った鋳込みシートを採用

吸排気バルブが閉じた際にヘッド側で受け止めるバルブシート。現在では鋳造後に薄いリング形状の素材を圧入しているが、Z1/Z2は鋳造前につば付きのリングをセットしてアルミ合金を流し込む鋳込み式で製造していた。リバイバルヘッドでは、圧入式よりコストや手間は掛かるが当時の仕様通り鋳込み式を採用。当時の指定素材は入手できないので、現代の高性能材料で代替している。

(左)高温で溶解したアルミ合金を流す前に金型にバルブシートをセットしておくのが鋳込み式の特徴。(右)バルブの当たり面から奥に向かいつばが広がっているのが分かる[矢印]。Z1000J以降は圧入式となる。

このカットモデルはインタビュー取材時(次ページにて掲載)、編集部の要望を聞き入れて作成していただいた。大感謝!

当時物のヘッドとはどこが違うのか?

【EX.スタッドは後期のM8仕様】Z1から’77年のKZ900、日本仕様ではZ2からZ750A4まではエキゾーストスタッドボルトがM6だが、リバイバルヘッドはすべてM8に統一。M6ボルト仕様のオーナーの場合、エキゾーストフランジは要変更。(※写真右はリバイバルと同じM8スタッドの後期ヘッド)。

【ネジ穴を袋状としオイル漏れを抑止】タコメーターケーブル取り出し部右の雌ネジは貫通がオリジナルだが、ここはオイル漏れ多発箇所なのでデザインを袋状に変更。オリジナルの図面を忠実に再現しながら、目立たない細かな改良も行う。

【丸ヘッド後期の肉厚リブも踏襲】’19年の東京モーターショーに並んだ黒と銀ヘッドは試作品で、その後当時物の図面を精査したところ吸気ポートをつなぐリブの厚みが後期モデルでは異なることが判明。量産直前に金型を改修して厚みを修正した(矢印部)。

【”当時のアルミ地色”を求め、銀ヘッドも塗装仕上げに 】’74年以降のZ1は銀エンジン。それらは無塗装のアルミ地肌だったが、リバイバルヘッドに用いられる現代のアルミ合金は、素材のままだと当時よりも色味が暗くなる(写真右)。そのため、程度良好な当時物で調色したシルバーの塗装が施される。

ヘッド修理は大変なので、復刻は大歓迎!

井上ボーリング代表・井上壯太郎氏

井上ボーリング代表・井上壯太郎氏】「プラグ穴やバルブシート周辺のクラックなど、たいていのZのヘッドはトラブルを抱えています」と数多くのZの内燃機加工を手がけてきた井上社長。「新品ヘッドで修理のいたちごっこから解放されれば、蘇るZが増えて良いことだと思いますよ」

ICBM[井上ボーリング]

Z2/Z1純正の鋳鉄スリーブを、軽量で放熱性に優れ、表面硬度が高く摩耗に強いアルミメッキシリンダーに置換するのが井上ボーリングのICBM®。リバイバルヘッドと組み合わせれば最高のエンジンになる。

歴史的名車・Z2/Z1を蘇らせるシリンダーヘッド再生プロジェクト。次ページではこのプロジェクトに携わったカワサキの技術者インタビューをお届けする。

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