稀代の名車として絶版車界で50年近くも不動の人気を誇るカワサキZ2/Z1。そのエンジンの核心部・最重要部品であるシリンダーヘッドをメーカー自身が復刻させたこのプロジェクト。オリジナルデザインを踏襲し、既存のシリンダーにボルトオンで装着できるのは当然だが、細やかなアップデートにも注目したい。
●文:栗田 晃 ●写真:モトメカニック編集部/川崎重工業 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
丸ヘッド時代の変更点を凝縮した最強仕様
(※前ページより続く)
昔あったものを復刻する際に、現代の開発者や技術者がどこまでアレンジするかは重要な要素となる。およそ半世紀前の工業製品ならば、あれこれ手を加えたくなるだろう。
だが、シリンダーヘッドはエンジンを象徴するパーツである。ユーザーがZ2/Z1を求めるなら、良かれと思って手直しするより、基の図面どおりに忠実に復元する。それを実行したのがこのプロジェクトの素晴らしいポイントだ。
たとえばカムシャフトを保持する4点のベアリングキャップ。現在のカワサキ基準なら6点としたいし、4点ならもう少し強度を高めたいところだが、当時の設計で40年以上使用できたという事実から、継承したそうだ。ここでベアリングキャップを設計変更するならカムシャフトのジャーナルも変更が必要になるし、カムを変えるならカムチェーンもローラータイプより今どきのサイレントタイプの方が良いだろう、…とやり始めればオリジナルのZからどんどん離れてしまう。
そうならないためにも、当時の図面を基に年次変更を洗い出し、熟成が進んだ後期モデルの仕様を反映させることで、信頼性とユーザー満足度の高い製品にまとめていった。
その代表的な部分がエキゾーストスタッドボルトの太さだ。初期モデルはM6サイズが標準だが、再生産ヘッドは’76年後期~’77年型で採用されたM8となっている。これは社外品の集合管を着脱すると折れやすいと言われるM6ボルトの弱点を払拭する改善策で、設計担当者も「M6スタッドは最初から想定外でした」と語っている。
同様に、タコメーターケーブル取り出し部横の雌ネジからのオイル漏れ対策として、ヘッドカバー固定ボルトの雌ネジを貫通穴から袋状に形状変更したのも、ここはユーザーが困ることが多いウィークポイントであり「せっかく新品ヘッドを買ったのにオイルがにじむ」という思いをしてほしくないという開発陣の気持ちの表れだ。
だが、そうした「オリジナルに忠実に」という姿勢を貫くことができたのは、とにもかくにも素材となるオリジナルのZ2/Z1ヘッドに現代でも通用するポテンシャルがあったから、ということを忘れてはならない。
当時の仕様に沿った鋳込みシートを採用
吸排気バルブが閉じた際にヘッド側で受け止めるバルブシート。現在では鋳造後に薄いリング形状の素材を圧入しているが、Z1/Z2は鋳造前につば付きのリングをセットしてアルミ合金を流し込む鋳込み式で製造していた。リバイバルヘッドでは、圧入式よりコストや手間は掛かるが当時の仕様通り鋳込み式を採用。当時の指定素材は入手できないので、現代の高性能材料で代替している。
当時物のヘッドとはどこが違うのか?
ヘッド修理は大変なので、復刻は大歓迎!
【井上ボーリング代表・井上壯太郎氏】「プラグ穴やバルブシート周辺のクラックなど、たいていのZのヘッドはトラブルを抱えています」と数多くのZの内燃機加工を手がけてきた井上社長。「新品ヘッドで修理のいたちごっこから解放されれば、蘇るZが増えて良いことだと思いますよ」
歴史的名車・Z2/Z1を蘇らせるシリンダーヘッド再生プロジェクト。次ページではこのプロジェクトに携わったカワサキの技術者インタビューをお届けする。
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