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扱いやすくなければ速くなんか走れない!

「ワークスチームのエンジニアでも最初は理解できなかった」1976年にバリー・シーンから教わった“過渡特性”

「ワークスチームのエンジニアでも最初は理解できなかった」1976年にバリー・シーンから教わった“過渡特性”

●記事提供: ライドハイ編集部 ●文:根本健

ピーキーに力強くより、先がイメージできる変化率、欲しいのはアテにできるトラクションの過渡特性!

私、ネモケンが1975~1978年に世界GP転戦したとき、親しかったバリー・シーン(Barry Sheene)から学んだ色々で、一番衝撃的だったのは「transient=過渡特性」へのこだわり。

transientは辞書的に訳すと束の間……だったりを目にするが、技術的な用語では「過渡」を表すときに用いられる。

先ず何を意味するかより、バリーと日本のエンジニアとの通訳を頼まれた経緯の説明から先にはじめよう。

バリーから頼まれたのは、乗っていたスズキRGB500(XR14)のキャブレター・セッティングについて、彼が要求する過渡特性を理解して調整へ反映して欲しい……その説明を日本から来たエンジニアに伝えられないか、というもの。

そんなこと、エンジニアに出来ないはずはない、そう思いがちだが、彼はライダーの感性でココが必要でそれも加速でエンジン回転が上昇するにつれ、力強くなる変化率を一定にしたいと、実際にGPのコースを乗っていないと共有しにくい部分が大きいからだ。

たとえばコーナー立ち上がりで、3速の4,000rpmが速度が上がるにつれ5,000rpmからトルクが一気に強まり……の部分で変化率が変わるのを抑えたいのだ。

エンジニア氏は「ちょっと何で3速なの?2速にしておけば5,000rpm以上で加速が最大になる8,000rpmまで一気にイケる」

そして不満なのが「世界チャンピオンかも知れないけれど、そもそもスロットルの開け方が下手。日本のライダーならもっと綺麗に焼いてくる。バリーは低い回転域を使い過ぎで、キャブレターはロータリーバルブが閉じる境界で多量にGASを吹き返して、カウルの内側がベッタリ濡れてしまう」など理解不能といわんばかり。

しかしライダーからしてみれば、2速の5,000rpm以上だとスロットル全開はリヤタイヤが滑るので開度を控えめにせざるを得ない。

でもそれだと加速率は鋭いかも知れないが、旋回したままコーナリングのグリップを最大にした増速状態には持ち込めない。

だからひとつ、もしくはふたつ高いギヤで、低い回転域からスロットル開度を全開にして、ピークのトルク発生回転域はバンク角が起きてくるコーナー出口付近となる組み立てをするのだ。

さらに2ストロークのロータリーバルブ吸気だと、吹き返しでモーレツに効率悪いように見えても、このパワーバンドを下回る回転域が実にイイ感じで粘り、言葉で表現するとモタモタしているようで回転上昇するとドバッと出てくるトルクの「溜め」を積み重ねている……そんな感覚なのだ。

これはヨーロッパの当時の世界GPが、まだ半分が一般公道を閉鎖していたこともあり、そもそも路面がスリッピーだったというのも関係してくる。

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