日本勢は欧州勢を打破できるのか?

レース形態が変わっていくMotoGP【ヤマハもシートカウルに羽を……ドゥカティはアプリリアタイプのカウルをテスト】

2023年のMotoGPを楽しむために、2022年最終戦後のバレンシアテストを振り返りながら今後の展望を見ていきたいと思う。ゼロから1を作り出せる欧州メーカーと、1を10にするのが得意な日本メーカー。近年のMotoGPはそんな開発状況が続いている。


●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:ミシュラン

MotoGPのカテゴリー、マシンが変わっていく

2022年、空力デバイスはフロントカウルのみならず、リヤのシートカウルにも発展。ドゥカティは恐竜の背中のようなシートカウルをサマーブレイク明けのMotoGP第12戦イギリスGPで登場させた。目に見えて新しかったシートカウルの空力デバイスは、ホンダとスズキもすぐに追従し、ヤマハも最終戦後のバレンシアテストで登場させた。

こうした新しいパーツをドゥカティはシーズン中にインディペンデントチームでテスト。その後ファクトリーの2台に投入する流れで、台数があってこその開発のスピード感だった。きっと表層的には見えない様々なパーツもこのように開発しているのだろう。

2022年、8台を走らせたドゥカティは組織力としては最大勢力。特に後半戦は全車がまとまってきた雰囲気があり、様々なライダーが上位に進出。そんな中、前半戦は転倒も多くリズムに乗り切れなかったドゥカティファクトリーのフランチェスコ・バニャイヤが、最大91ポイント差を覆してタイトルを獲得した。

空力デバイスや車高をコントロールするデバイスに関しては、国産メーカーはドゥカティとアプリリアを追従するばかりで、なかなかオリジナリティを出せていない。マシン開発においては欧州メーカーが何歩か先を行っているような状態が続いている。

最終戦後のバレンシアテスト。ホンダは新しい形状のカウルをテスト。「タイトル争いをするにはまだまだ。ただホンダを信頼しているよ」とマルケス。F1化が進むMotoGPだが、ホンダは2023年どんなアイデアで勝負してくるのだろう。

この件について2022年末にマルク・マルケスに話を聞いた

「怪我から戻ってきたらMotoGPというレースが大きく変わっていたんだ。カテゴリーそのものが変わってしまったような気がしたよ。ヨーロッパメーカーは空力デバイスとライドハイトデバイスやホールショットデバイスに素早く対応したけど、ホンダは遅れてしまった」とマルケス。

マルケスは変わっていくMotoGPカテゴリーを冷静に分析。怪我から復帰した第15戦のアラゴンGPの決勝は序盤で転倒するが、第16戦の日本GPではこれまでと異なるマシンをホンダのライダーの中で誰よりも乗りこなしていた。その才能はやはり特別。そう考えるとマルケスの戦線離脱もホンダのマシン開発を遅れさせる要因のひとつだったはず。マルケスの意見を反映させたマシンを用意するのがホンダの急務である。

また、ヤマハのファビオ・クアルタラロは、バレンシアテスト後にエンジンのパフォーマンスに納得していないコメントを出している。ヤマハはこれまでコーナリングマシンとして多くのライダーが素早く順応できることで定評だったが、2022年に乗りこなせたのはクアルタラロのみ。

2019年はクアルタラロが、2020年はフランコ・モルビデリがインディペンデントの中でタイトルを取っている馴染みやすいマシンだったはずなのに、バイクのつくり方が大きく変わってきている。2022年シーズンは4台体制だったが2023年は2台体制となり、開発をどのように進めていくかも課題だろう。

欧州メーカーに関しては、2023年も奇想天外なアイデアをどんどん導入してくるはずだ。四輪のF1が市販車からかけ離れていくのと同じように、MotoGPマシンも同様の進化をしていくのだろう。カーボンニュートラル化とのせめぎ合いを見ながら今後もその進化を楽しみにしたいと思う。

0から何かを生み出すことが得意な欧州メーカーと、1を10にするのが得意な日本メーカーの戦いがどのように繰り広げられていくのだろう。

ゼッケン36のジョアン・ミル(右)とゼッケン42のアレックス・リンス(左)がスズキからホンダに移籍。ライダーに主導権のあるスズキのGSX-RRとは対照的な印象のホンダのRC213VS。エンジンも並列4気筒からV型4気筒に変更。2人がこれまでとはまるで異なるRC213Vをどう乗りこなして仕上げていくかが楽しみ。新しい方向に開発が進むことを願いたい。

MotoGP2023年シーズンは欧州メーカーのシェアが拡大!

2023年、ホンダは2022年と変わらない4台体制となるが、スズキは撤退、さらにヤマハは4台から2台体制となる。欧州メーカーはドゥカティが2022年と変わらない8台体制で挑み、アプリリアは2台から4台に、KTMは4台から2台体制となるが、同仕様のマシンであるガスガスを2台走らせる。日本勢は6台、欧州勢は16台となる。

また、2022年にアンドレア・ドヴィツィオーゾが引退したことで、GP250の2ストロークを知るライダーはアレイシ・エスパルガロのみとなり、時代の流れを感じさせる。

そして、2023年MotoGPは大きな転換期を迎える。

2023年は全21戦が行われるのだが、すべてのレースで土曜日にスプリントレースが追加されるのだ。これはメインレースの半分の距離で行われるレースで、FP4がスケジュールからなくなるとはいえ、ライダーのフィジカルは相当キツイはず。2023年、ライダーは42回決勝レースを走らなければならないのである。

6回のMotoGPチャンピオンを獲得しているマルク・マルケスも2023年は30歳を迎えベテランの域へ。キャリアとテクニックで体力が溢れる若手ライダーにどのように対抗していくかも見ものである。

バレンシアテストではついにヤマハのシートカウルにも羽が生えた。フロントカウルやサイドカウルにも新しい空力デバイスを装着してテストしていた。ただし、クアルタラロはそのパフォーマンスに満足した様子ではなかった。

ドゥカティはアプリリアタイプのアンダーカウルをテスト。フルバンクした際に路面とマシンのクリアランスを最小限にするための形状で、旋回速度や旋回中のグリップ感や安定感が変化すると思われる。

こちらがアプリリアのアンダーカウル。幅を持たせた独特の形状を採用する。

KTMの左ハンドル。様々なボタンやレバーがあり、レース中はこれらを駆使。出力や制御の変更はもちろん、コーナーによっては車高も変えなければならず、その操作はかなり特殊。昔のGPマシンは一般のバイクとそれほど大きく操作が変わらなかったが、今は発進するのさえ困難なのだと思う。


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