愛車を安全・快適に乗るには、日々のメンテナンスが大切。とくにブレーキが効かなかったら一大事なので、マスターシリンダーのタンクの液量もチェック! ……しているんだけど、いつ見ても変わらないような……。ブレーキフルードって、減るんですか?
●文:伊藤康司 ●写真:柴田直行
ブレーキは乗る前に毎回チェック!……だが
ブレーキは重要保安部品なだけに、「ブタと燃料(ブレーキ、タイヤ、燃料)」というくらい、日常的なチェックも推奨されている。そこでマスターシリンダーのリザーバータンク(フルードカップやオイルタンクとも呼ばれる)の液量レベルをチェックするのだが、いつ見てもあまり変化がない気がする。実際のところ、ブレーキフルード(ブレーキ液)は減るのか、減らないのか、どちらなんだろう?
ブレーキフルードは減らない。減ったら重大な故障だ!
油圧式ディスクブレーキのフルードは、図で示すように密閉された中にある。高い圧力を用いてブレーキを効かせるので、当然といえば当然。しかもブレーキフルードは高温でも沸騰しにくく、蒸発することもない。だからブレーキフルードが減ることはないのだ。
反対にブレーキフルードが減っていたら、ブレーキキャリパーのオイルシールが傷んで漏れていたり(マスターシリンダーから漏れる可能性もある)、ブレーキホースやホースをつなぐバンジョーボルトから漏れている重大なトラブルなので、直ちにバイクショップに連絡して取りに来てもらうしかない。
リザーバータンクをチェックして、もし前回乗った時より目に見えてフルードが減っているようなら、絶対に乗ったらダメな超危険な状態だと認識しよう。
とはいえブレーキフルードのレベルは「見た目」では減る
それなら、ブレーキシステムのどこにもトラブルがなければ、リザーバータンクのフルードの量は変わらないハズ……というワケではない。「ブレーキフルードは減らない」と言いながら矛盾しているようだが、少しずつ確実にマスターリンダー内のレベルは下がっていくのだ。
理由は「ブレーキパッドが減る」から。ブレーキパッドが減って摩擦材の厚みが薄くなる分だけキャリパーのピストンが押し出される(その仕組みはこちら→ブレーキ操作は「かける」ことより「離す」ことが大事?【ブレーキの仕組みから知るリリース感の大切さ】)ので、ブレーキキャリパー内のフルードが増え、その分マスターシリンダー側=リザーバータンクのフルードが減るのだ。
ようするにブレーキフルードの総量は変わらないが、キャリパー側に「移動」した分だけ、リザーバータンク側は見た目で「減る」のだ。
それではどれくらい減る(移動する)のかというと、けっこう微妙。ブレーキパッドの摩擦材の厚さは新品で5mm前後なので、パッド交換を推奨する残量2mmまで使うと、ブレーキのピストンは3mmほど押し出される。するとキャリパー側へブレーキフルードが移動する量は、大型スポーツバイクに多い対向4POTダブルディスクだと20~25ccくらいで、小中型車の片押し2POTシングルディスクだと5ccほど。だからブレーキパッドが新品の時と交換時期とで比べれば、ブレーキフルードが減ったのを確認できるだろう。
とはいえいまどきのブレーキパッドは耐摩耗性に優れライフが長いので、1000kmを超えるようなロングツーリングに行っても1mmも減らないハズ。だから日々リザーブタンクのレベルチェックをしても、ほとんど違いが判らないのだ。
ブレーキフルードは基本的に注ぎ足さない
ブレーキパッドが減るとリザーバータンクのブレーキフルードが(見た目上)減る。そこで「減った分、フルードを注ぎ足す」のは止めた方が良い。
まず、レベルチェックの「MIN」のラインを下回ってなければ問題ないので足す必要が無い(当然だが、たくさん入っているほどブレーキが良く効くわけではない)。
そしてブレーキシステムがノーマルなら、ブレーキパッドが新品の時にフルードをMAXまで入れておけば、ブレーキパッドが交換時期まで摩耗しても、MINを下回ることはまずない。
それにブレーキフルードは劣化(水分を吸い込んで沸点が下がる)するため、国産バイクメーカーは2年に一度、ブレーキで有名なブレンボは1年毎の交換を推奨している。
なのでブレーキパッドの摩耗やブレーキフルード交換サイクルから考えても、基本的にフルードを注ぎ足す必要は無い……というより、フルードを注ぎ足すと危険な場合もある。
たとえばブレーキパッドが減ってリザーブタンクのレべルが下がったときにフルードをMAXまで注ぎ足したとする。その後にブレーキパッドを新品に交換すると、ブレーキピストンが押し戻された分だけキャリパー側のフルードがリザーバータンク側に移動するため、リザーバータンクのフルードがパンパンにいっぱいになる(MAXを超える)。するとブレーキをかけていない(レバーやペダルの操作をしていない)のに、ブレーキが少し効いた「引きずっている」状態になることがあり、そのまま走るとブレーキが異常に過熱してディスクローターが熱歪みを起こしたり、最悪の場合は走行中にブレーキがロックする危険もある。
もちろんブレーキパッドを新品に交換した時点でブレーキフルードの量の確認は必須で、もしMAXより多かったら抜けば問題ない。ところがフルードがMAXを越えていても判りにくい場合もある。とくにマスターシリンダーと一体型のアルミ製のリザーバータンクでチェック窓のタイプだと判りにくいので要注意だ。
また前述した通り、短期間で目に見えてフルードが減っている場合は、どこかからブレーキフルードが漏れている可能性が大きいので、フルードを注ぎ足して乗るのは絶対にNGだ。
ちなみにブレーキフルードは塗装面に装着したりすると、塗装面を傷めることもあるので扱いには注意が必要。整備はプロに任せよう。
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