いまや市販バイクもレーサーも、ブレーキのディスクローターはMotoGPマシンのカーボンディスクを除けば、ほとんどがステンレス製。しかしレーシングパーツやカスタムシーンにおいて「鋳鉄製ディスク」がもてはやされた時代があった……。
国産バイクのほとんどがステンレス製ディスクを採用
現代のバイクのブレーキは油圧ディスクが一般的。そしてディスクローターの材質は、MotoGPマシンを除けばすべてが「ステンレス」といって過言ではない。じつは市販量産車で初めて油圧ディスクを採用したホンダのCB750FOURもステンレス製ディスクを装備しており、現在に至るまで国産バイクのほとんどがステンレスだ。
ところが四輪車のディスクブレーキはほとんどが鋳鉄製。プレミアムなスポーツカーではカーボンディスクも存在するが、軽自動車からスポーツタイプまで基本的には鋳鉄だ。理由は単純で、ディスクブレーキの材質としては、性能やコストにおいても鋳鉄が適しているからだ。
それならなぜ、バイクはおしなべてステンレスを採用しているのか? その理由は意外にも「ルックスを優先」しているから。材質的には鋳鉄の方が向いているが、鉄だけにサビやすい。そしてバイクのディスクローターは剥き出しなので、サビるとカッコ悪い(四輪車はホイールで隠れるのでサビが目立たない)。だからサビにくいステンレスを採用しているのだ。
外国車は鋳鉄製ディスクも多かったが……
ステンレスはサビなくて見栄えが良いとはいえ、鋳鉄の方が制動力やフィーリングに優る。そのため、鋳鉄はよく「真綿で締める」ような効き味と形容された。
この表現は慣用句の「真綿で首を絞める(意味:遠回しにじわじわと責めたり傷めつけたりすることの例え)」からきており、微妙にコントロールが出来て強く効かせられる、というイメージは伝わってくる。
そんな理由からか、ドゥカティやモト・グッツィといったイタリア車や、英国のトライアンフなども、油圧式ディスクの装備が始まった当初から1980年代の中頃までは鋳鉄製ディスクを採用していた。これには性能だけでなく、材料費や製造コストの影響もあったと思われる。
国産バイクで唯一の鋳鉄ディスク
過去から現在まで、国産バイクはほとんどがステンレス製のディスクだが、じつは鋳鉄製ディスクも存在した。
いま絶版旧車で大人気のホンダCBX400Fだ。ブレーキの効き味を追求して特殊鋳鉄を採用し、サビが目立たないようにカバーで覆ったのだ。またベンチレーテッドディスク(重ねた2枚のディスクプレートの間に空気が通り抜けるフィンを設けた構造)により放熱性を高めた凝った構造になっている。
その後もVT250F(リヤはドラムブレーキ)やVF400Fに採用し、CBX550Fインテグラではフロントにダブルディスクのインボード・ベンチレーテッドディスクを装備した(他モデルはシングル)。
レーシングマシンのディスクは?
やはりコントロール性の高さから、かつては鋳鉄製ディスクを装備するレーシングマシンが多かった。またレース用のブレーキで有名なブレンボも鋳鉄製ディスクローターをリリースしていた。
しかし、ロードレースの頂点といえるWGP500では、1990年代初頭にはカーボン製のディスクが登場。当初のカーボンは雨天時や冷間時は性能を発揮できなかったため、レースによって鋳鉄ディスクと使い分けしていた(ダブルディスクの一方をカーボン、もう一方に鋳鉄をセットした例もある)。しかしカーボンディスクの性能が向上し、冷間や雨天でも使えるようになったため鋳鉄は使われなくなった。
また市販車がベースのスーパーバイクも初期は鋳鉄ディスクだったが、現在はステンレス製ディスクになっている。ステンレスでもフィーリングや制動力で鋳鉄に遜色ない、もしくは上回るレベルに進化したためだろう。
現在もアフターパーツで入手可能だが、中古品は要注意!
前述したように近年のステンレス製ディスクは素材の内容物や製法によって、効き味や制動力で鋳鉄に遜色ないレベルに性能が向上している(ブレーキパッドの進化による部分も大きい)。こうなるとサビやすくて摩耗しやすい鋳鉄ディスクを採用する理由が無く、市販バイクは海外のスポーツモデルも含め現在はステンレス一択になった。
とはいえ鋳鉄ならではのフィーリングを好むライダーは少ないながらも存在するので、現在もアフターパーツとして鋳鉄ディスクは販売されている。
また鋳鉄ディスクは中古パーツとしても数多く流通しているが、こちらは注意が必要だ。かなり摩耗していたり熱で歪んでいる場合も多く、これらは当然ながらフィーリングも制動力も期待できない。劣化が進んでいてクラックが入ったり、最悪の場合は割れる可能性もあるので、こうなると性能以前の問題だ(走行中にディスクが割れたら命に係わる)。なので中古パーツの場合は、必ず信用・信頼が置けるところから入手するようにしよう。
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