ブレーキは制動力だけでなくリリース感にもこだわろう!

ブレーキ操作は「かける」ことより「離す」ことが大事?【ブレーキの仕組みから知るリリース感の大切さ】

油圧式のディスクブレーキ。詳しい仕組みは知らなくても、なんとなく「油圧」でギュ~ッとブレーキが効いているイメージはある。それなら、なんでレバーやペダルを離すとブレーキが緩むのだろう? 某公共放送の5歳児キャラではないけれど……「なんで?」


●文:伊藤康司 ●写真:富樫秀明、カワサキ

ブレーキレバーを離せば緩むのは当然に感じるけど……

油圧式のディスクブレーキは、文字通り「油の圧力」を使ってブレーキが効く(厳密には油:オイルではなく、ポリエチレングリコールモノエーテルをベースとしたフルード)。ブレーキレバーを握る、またはブレーキペダルを踏むと、マスターシリンダーで発生した圧力がブレーキホースを伝わり、ブレーキキャリパーのピストンを動かし、ブレーキパッドをディスクローターに押し付け、その摩擦力でブレーキが効くわけだ。

詳しい構造はともかく、ここまでは「まぁ、そうだろうな」となんとなく理解している方が多いだろう。それではブレーキレバーを離すと、なぜブレーキは緩むのだろう? ……いや、離すから効かなくなるのは当たり前! と言われそうだが、ここからは少々突っ込んだメカニズムの話をしよう。

ブレーキキャリパーの概念図。実際はオイルシールの外側(図では左側)にホコリなどの侵入を防ぐダストシールを装備するのが一般的(レース用のキャリパーは非装備の場合も)。また、ディスクローターの反対側(図では左側)にもディスクパッドがあり、左右から挟み込んでいる。

繰り返しになるが、ブレーキレバーを握ると油圧でピストンが押し出され、ブレーキパッドをディスクローターに押し付ける。そしてレバーを握るのを止めれば油圧が無くなる、すなわちブレーキパッドを押し付ける力も無くなる。だから当然ブレーキも緩むのだが……。

じつはブレーキレバーを離しても、マスターシリンダーが発生する油圧が無くなるだけで、フルードを吸い戻しているワケではない。注射器に例えると、ピストンを押すのは止めたけれど、ピストンを引っ張り戻しているのではない状態だ。

となると、ブレーキレバーを離せば油圧が無くなってブレーキは効かなくなるけれど、ブレーキパッドはディスクブレーキと接触したままなので、ブレーキが「引きずりっぱなし」の状態になる。これではブレーキパッドが無用にすり減るだろうし、ずっと擦っていれば発熱してディスクローターなどにも悪影響がある。厳密に言えばパワーもロスして燃費も悪化してしまう。

元に戻ろうとするオイルシールが隙間を作る

前置きが長くなったが、ブレーキレバーを離したときに、どうやってブレーキパッドをディスクローターから離しているのか、というのが今回の本題。

答えは「歪んだオイルシールが元に戻る力で、ピストンやブレーキパッド、ディスクローターに隙間を作っている」から。

オイルシール付近を拡大して見ると……

こちらはブレーキをかけていない状態。シールはピストンに対して水平に保たれている。

ブレーキをかけてピストンが油圧で押し出されると、ピストンに密着したオイルシールが引っ張られて歪む。そしてブレーキを離すと、オイルシールの歪みが戻る力でピストンを引き戻し、ピストンとブレーキパッドの背板の間にわずかな隙間ができる。そのためブレーキパッドとディスクローターの接触もほとんど無くなる。

消しゴムが歪むイメージ

紙に書いた文字を消す時、強く押し付けて擦ると消しゴムが歪む。そして押し付ける力を緩めると歪んだ形が元に戻る。ダストシールも同様で、歪みが戻る際に密着したピストンが一緒に動く(戻る)のだ。

ピストンを引き戻す仕組みが理解できたと思うが、とはいえオイルシールの断面は一辺数ミリしかないので、ホンのわずかに歪むだけ。だからピストンが戻った際にブレーキパッドにできる隙間も、やはりホンのわずか。しかし、そのわずかな隙間のおかげでブレーキの引きずりが起こらないのだ。

ピストンの戻りが良くないと、リリース感が悪くなる!

もちろん制動力も大事だが、コーナリングで向き変えする際にはブレーキリリースのフィーリングが極めて重要。それにはブレーキパッドがディスクローターから思い通りの感覚で離れることが必須だ。ブレーキパッドの種類などによってもリリース感は変わってくるので、その辺りをこだわってバイクを仕上げていくのも面白い。

非常に細かい話ばかりだったが、「ブレーキを離す=ピストンが戻る」ことは、バイクやライディングにどんな影響を及ぼすのか?

いちばんは「ブレーキリリースのフィーリング」だ。

ブレーキをかけて減速しながらコーナーに進入し、ここで曲がるというポイントでブレーキを離すわけだが、そのときリリースのフィーリングが悪かったらどうだろう。

コーナーの曲率や乗り方によって、「スッ」と離したり、「スゥー」っと残し気味にしたりと様々なテクニックがあるが、いずれにしても思い通りの感覚でリリースできなければ気持ちよく走れない。サーキット走行やレースならタイムも出ないしコーナーで勝負もできないだろう。

ブレーキ性能というと、効力の立ち上がり方や、静動力の強さに注目しがちだが、実は思い通りに走るには「リリース感」がとても大切なのだ。

そして「ピストンの戻り」の良し悪しは、メンテナンスで大きく変わる。ブレーキキャリパー内側のピストン周辺は、雨天走行時などに巻き上げた泥や砂の汚れはもちろん、ブレーキパッドやディスクローターの摩耗で発生した微細なパッド粉や鉄粉がけっこう付着する。そしてこの汚れを放置すれば、ピストンの戻りは当然悪くなる。

そこで日頃からきちんと清掃するのがオススメ。ブレーキキャリパーをフロントフォークから外し、ブレーキパッドも外してピストン周りをしっかり清掃するのが理想的だが、現実的にはかなり大変(ブレーキは重要保安部品なので要注意!)。しかしフロントフォークに装着した通常の状態でも、洗剤(中性洗剤や洗車用のシャンプー)を使った水洗いを相応の頻度で行えば、間違いなく効果はある。

ちなみにパーツクリーナーをジャンジャン吹きかけると簡単に汚れが落ちるが、オイルシールやダストシールのゴム類を傷めるし、ブレーキパッドに吸い込むのもよくないので、やらない方が良い。高圧洗浄機もシール類を傷めたり内部のフルードに水が混入する危険があるので、やはり使用しない方が無難だ。


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