
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第168回は小椋藍の好走と激化するポイント争いに注目。勝敗を分ける「0点回避」の重要性や、スタート直後のリスク管理、独走走行の難しさについて紐解きます。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
ウサギとカメの王座争い。0点を抑えてポイントを稼ぐマルティンの強さ
第13戦アラゴンGPと第14戦サンマリノGPを欠場した小椋藍選手(SuperFile Trackhouse MotoGP Team)。ポイント争いを考えるとちょっと痛いところですが、復帰戦の第15戦オーストリアGPではすぐに上位を走り、決勝は4位。モチベーションはまったく下がっていないようです。
こうなると、第16戦日本GPにも期待がかかります。今年の日本GPはチケットの販売も好調で、駐車場もすでにいっぱいだとか。小椋選手効果は凄まじいですね。僕も現地に行く予定ですが、今から楽しみです。
今季、まだ1勝しかしていないマルティン選手は、コツコツとポイントを集めてランキングトップ。ウサギとカメの童話じゃないですが、改めてレースとは、着実に、地道にポイントを貯めるゲームなのだと思わされます。
今のMotoGPはレース数が多いので、多少の取りこぼしならリカバリーできるチャンスがあります。ですが、やはり0点は大きく影響する。マルティン選手も第6戦カタルニアGPでスプリントレース、決勝レースとも0点に終わりましたが、「このレースは厳しいぞ」という中でも、無理しすぎることなく最大のポイントを稼いでいますよね。これが効いています。
もともと好不調の波が大きかった選手ですが、やはり1回チャンピオンを獲ったことで、シーズン通してポイントを考えるだけの落ち着きを身に付けたのでしょう。マルク・マルケス選手(Ducati Lenovo Team)の追い上げをかわせる可能性は高そうですが……、いやしかしマルケス選手の勢いもすごい。現在、わずか12点差。本当に目が離せない展開です。
第15戦終了時点でランキングトップに立つホルヘ・マルティン選手。表彰台で見せる笑顔には、勝利数はマルケスに劣るものの、0点を回避しコツコツとポイントを積み重ねてきた確かな自信と落ち着きが感じられる。
1回勝てば勝ち方が分かる。アコスタ初優勝に見る今後の可能性
一方、シーズン序盤にはかなり目立っていたマルコ・ベゼッキ選手(Aprilia Racing)は、ここへきて失速しています。勝手にドタバタしている印象が否めず、チャンピオンシップ争いの難しさを痛感していることでしょう。
気付けばランキングトップのマルティン選手と42点差がついており、こうなると焦りを呼んで、ますますドタバタしやすくなります。ベゼッキ選手はマルケス選手に次ぐ4勝を挙げているのに、決して有利とは言えません。各レースの勝者は派手で目立ちますし、そういう意味では今年のマルティン選手はあまり目に付きませんが、やはりコツコツが1番です(笑)。
第15戦オーストリアGPでは、ついにペドロ・アコスタ選手(Red Bull KTM Factory Racing)が決勝レース優勝を果たしましたね。間違いなく次世代を引っ張る実力の持ち主ですが、MotoGP3シーズン目でのようやくの優勝。意外と時間がかかったな、という印象です。それだけ今のMotoGPで勝つのは難しいんです。
しかし、1回勝てば「勝ち方が分かる」のも確か。落ち着きを身に付ければこれからさらに活躍するでしょうし、来年以降、ドゥカティのファクトリーチーム入りをしたら、まさにチャンピオン候補のひとりになるでしょう。
第15戦オーストリアGPでついに決勝レース初優勝を果たし、表彰台で歓喜の雄叫びを上げるペドロ・アコスタ選手。意外と時間がかかった印象だが、1回勝てば「勝ち方が分かる」のも確か。この勝利で落ち着きを身に付ければ、来年ファクトリー入りを果たす彼は、間違いなく王座候補の一人になるはず。
さて、ランキング2位のマルケス選手は肩の調子が非常に悪く、ほとんど片手でライディングしているような感じだそう。見た目にもえぐれているような状態で、「重くて速いMotoGPマシンを、よく走らせているな……」と思います。
それでもしっかり結果を残して、第13戦アラゴンGPと第14戦サンマリノGPで優勝。第15戦終了時点でポイントランキングはホルヘ・マルティン選手(Aprilia Racing)に次ぐ2位ですが、勝利数は最多の5勝ですからね。パフォーマンスの高さはやはり随一です。
彼は、オープニングラップの1コーナーの突っ込みが素晴らしい。スタートでとにかく前に出ないと、なかなか抜きづらいことを熟知しています。ちなみに僕は現役時代、スタート直後の1コーナーで前に出るのが苦手でした。リスクを負いたくなかったからです。
レースがスタートしたばかりの1周目は、タイヤが十分に温まっていません。そんな状態で攻めるのは、正直、怖かった。僕だって序盤からグイグイ前に出たかったけれど、できなかったんです。以前にもこのコラムで書きましたが、これはライダーの性格によるところが大きい。リスクを取ってでも序盤からガンガン行けるタイプと、僕のように序盤は慎重なタイプがいるわけです。
マルク・マルケス選手は、第15戦オーストリアGPでは厳しいコンディションの中で5位を獲得。15戦終了時点で最多の5勝を挙げ、満身創痍になりながらも圧倒的な勝負強さでポイントを重ね、首位までわずか12点差と王座を射程圏に捉えている。
序盤からガンガンは長くてツラい? バトルの瞬間が楽しかった
そして今のMotoGPは、序盤からガンガン行ってそのまま逃げ切る、という先行逃げ切り型のレースが増えましたよね。レベルがめちゃくちゃ高いからこそ、最初から最後まで全力で走り切るのが勝つためのセオリーになりつつあります。
ただ、ちょっとレースは単調ですよね(笑)。レース終盤の見どころが減ってしまった感じはします。そんな中で、終盤追い上げタイプの小椋選手が際立ち、注目を集めるのも分かります。
そういえば、バレンティーノ・ロッシは先行逃げ切りと終盤追い上げの両方ができる数少ないライダーでした。イタリアのメディアは「先行逃げ切りのレースをするとあまりテレビに映らないから、わざとペースを落としてるんだ」なんて言ってましたが、全盛期のバレンティーノなら本当にそんな離れ業ができたのかもしれません(笑)。
ちなみに、単調に見える先行逃げ切りですが、やっている側は意外と大変なんですよ。僕もそういうレースをしたことがありますが、単独でトップを走り続けるって、ものすごくレースが長く感じるんです。やっぱりバトルをしていた方が楽しいし、時間もあっという間に経ちます。
もしかすると、僕が「バトル好き」と言うと、意外ですか? では次回は、僕が大好きなバトルについてもう少し掘り下げてみますね。
単調に見える先行逃げ切りのレース。やっているライダーにとって、単独でトップを走り続けるのはレースがものすごく長く感じる。バトルをしている方が楽しいが、勝つためにはこの辛い時間も必要不可欠。
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