
MotoGP日本グランプリの会場に、なぜハーレーが? どうやら、その正体は単なる展示やプロモーションだけではない。ハーレーがMotoGPとともにスタートさせたのが、バガーによる新たな世界選手権だ。約280kgの巨体に200PS超のパワーを与え、最高速は約300km/hにも達する。ツーリングを楽しむための大型バイクが、世界最高峰のロードレースと同じ舞台で激走しているのだ。そして、欧米で全6戦12レースを戦った初年度で、もう終わりではない。ハーレーダビッドソンは早くも2027年のさらなる拡大方針を打ち出した。チームもライダーも、そしてレース数も増やすという。いったいバガーレースは、どこまで大きくなるのか。ハーレーが、早くも次の一手をぶちかましたぞ!!
●文:青木タカオ
ハーレーが仕掛ける異色の世界選手権
MotoGP日本グランプリの会場に出現したハーレーダビッドソンブース
ハーレーダビッドソンは2024年から3年連続で、MotoGP日本グランプリに出展している。世界最高峰のロードレースに、なぜハーレーが? そもそもMotoGPのレースに、ハーレーは1台も出ていない。
それなのに今年もまた、モビリティリゾートもてぎの中央エントランス・グランドスタンドプラザには、一際目立つ大きなブースを構えていた。どうしてなのだろう?
FIM Harley-Davidson Bagger World Cup(FIMハーレーダビッドソン・バガーワールドカップ)
その背景にあるのが、バガーレースだ。ハーレーダビッドソンがMotoGPとともにスタートさせた、新たな世界選手権『FIM Harley-Davidson Bagger World Cup(FIMハーレーダビッドソン・バガーワールドカップ)』である。
ハーレーダビッドソンがMotoGP、IRTA、FIMと連携し、2026年に始めたこのシリーズは、ロードグライドなどのバガーマシンをベースとしたレーシングマシンで争われるチャンピオンシップだ。
初年度はMotoGPと同じ週末に併催され、アメリカとヨーロッパのサーキットを舞台に、全6戦12レースが行われた。
つまり、MotoGPの会場にハーレーがあるのは、単なる展示やプロモーションではない。ハーレーダビッドソンはすでにMotoGPと同じ週末、同じサーキットで、バガーによる世界選手権を戦っているのだ。
■FIM Harley-Davidson Bagger World Cup 2026
第1戦 サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(米国・オースティン)3月27~29日
第2戦 ムジェロ・サーキット(イタリア)5月29~31日
第3戦 TTアッセン(オランダ)6月26~28日
第4戦 シルバーストーン(英国)8月7~9日
第5戦 モーターランド・アラゴン(スペイン)8月28~30日
第6戦 レッドブル・リンク(オーストリア)9月18~20日
全米をわかせた新カテゴリー
ハーレーダビッドソンファクトリーレーシングチームのバガーレーサー
そもそもBAGGER(バガー)とは何なのか。そのルーツは、ツアラーをベースとしたカスタムスタイルにある。大きなフェアリングとサドルバッグを備えたツーリングモデルに、インチアップした大径ホイールを組み合わせ、外装をスムージングするなど、よりゴージャスに、より華やかに仕立てあげる。
長距離を快適に走るためのツーリングマシンを、見た目にも圧倒的な存在感を放つフルドレッサーへと変えていく。それがバガーというカスタムスタイルであった。
ところが、単にドレスアップするだけではなく、走りの性能を追求する動きも生まれた。Vツインエンジンをチューニングし、サスペンションやブレーキを強化。大柄な車体でハイウェイをもっと速く、コーナーをよりアグレッシブに駆け抜けられるようにしていった。
本来は旅を楽しむためのツアラーを、思い切りスポーティに走らせる。そんなハイパフォーマンスバガーの文化が、アメリカのカスタムシーンで存在感を増していったのだ。
MOTO AMERICA MISSION FOODS KING OF THE BAGGERS
そして、これを一気にレースの世界へ押し上げたのが「KING OF THE BAGGERS(キング・オブ・ザ・バガーズ)」だった。
「こんなバイクでサーキットを走るのか!?」というギャップがたまらない。キング・オブ・ザ・バガーズは2020年10月、米国カリフォルニア州のウェザーテック・レースウェイ・ラグナセカで初開催された。
ツーリングモデルをベースにしたバガーレーサーたちが、ついにサーキットへ。大きなフェアリングとサドルバッグを残したままコーナーへ深く飛び込んでいく姿は、当時としてはまさに異色の光景だった。
全米を沸かせる人気シリーズへと発展したバガーレース
このレースが大きな反響を呼ぶ。翌’21年にはMotoAmericaによる年間チャンピオンシップへと発展。ハーレーダビッドソンとインディアンモーターサイクルというアメリカンブランド同士の対決も、ファンを大いに熱くさせた。
もちろん、見た目が派手なだけではない。レース車両はサスペンションやエンジン、車体各部に大幅な変更が施され、これまで誰も見たことのないロードレーサーへと姿を変えていった。
大きく、重く、長距離を走るために開発されたバイクだからこそ、それをサーキットで限界まで攻めるという、その意外性こそがバガーレースの大きな魅力となっていく。
アメリカの異色レースが世界選手権へ
ついに2026年よりMotoGPと併催される世界選手権「ハーレーダビッドソン・バガーワールドカップ」へと進化した。
そして、その熱はアメリカだけにとどまらなかった。ハーレーダビッドソンはMotoGP、IRTA、FIMと連携し、2026年に新たなグローバルシリーズ『FIM Harley-Davidson Bagger World Cup(FIMハーレーダビッドソン・バガーワールドカップ)』をスタートさせる。
初年度の開催地は、アメリカのサーキット・オブ・ジ・アメリカズを皮切りに、イタリア・ムジェロ、オランダ・アッセン、イギリス・シルバーストーン、スペイン・アラゴン、そしてオーストリアのレッドブルリンク。MotoGPと同じ週末に全6戦12レースを行う、本格的な世界選手権となった。
ファーストイヤーから熾烈なバトルが繰り広げられた
しかも、これは単なるエキシビションレースではない。レース専用のロードグライドは、スクリーミンイーグル131Rエンジンを搭載。排気量は131キュービックインチ、約2147ccにも達し、最高出力は200PS以上、最高速は約300km/hに及ぶ。
巨大なフェアリングとサドルバッグを備えたハーレーは、車重約280kg。300km/h級のスピードでサーキットを駆け抜けるのだから、見るものが興奮しないわけがない。
しかも、その舞台はMotoGPの世界選手権である。従来のハーレーからは想像しにくい光景だが、初年度から激戦が繰り広げられた。
激しいバトルが繰り広げられた
Joe Rascal Racing(ジョー・ラスカル・レーシング)のアーチー・マクドナルドが初代チャンピオンに輝いた。
初代チャンピオンに輝いたのは、オーストラリア出身のアーチー・マクドナルド。Joe Rascal Racing(ジョー・ラスカル・レーシング)から参戦し、12レースを終えて202ポイントを獲得した。
2位はオスカル・グティエレスの193ポイント、3位はエリック・グラナドの192ポイント。わずかな差でタイトルが決着する接戦だった。5人の異なるウイナーが誕生し、タイトル争いも最終戦までもつれ込んでいる。新設されたカテゴリーとしては、十分すぎるほどの盛り上がりを見せたといえるだろう。
初年度から激戦。タイトル争いは最終戦までもつれた
■BAGGER WORLD CUP 2026 CHAMPIONSHIP STANDINGS
1.Archie McDonald (AUS) – 202 points
2.Oscar Gutiérrez (SPA) – 193 points
3.Eric Granado (BRA) – 192 points
4.Andrea Iannone (ITA) – 157 points
5.Jake Lewis (USA) – 117 points
6.Filippo Rovelli (ITA) – 99 points
7.Travis Wyman (USA) – 83 points
8.Jordi Torres (SPA) – 77 points
9.Maxwell Toth (USA) – 62 points
10.Dimas Ekky Pratama (INA) – 60 points
11.Cory West (USA) – 56 points
12.Bradley Smith (GBR) – 36 points
13.Kyle Wyman (USA) – 29 points
14.James Rispoli (USA) – 29 points
15.Cody Wyman (USA) – 26 points
16.Max Flinders (USA) – 14 points
来季の拡大の方針!
初年度を振り返り、ハーレーダビッドソン自身も「期待以上だった」と手応えを示している
そしてハーレーダビッドソン自身も、この初年度を「期待を上回った」と評価している。ここからが、今回もっとも注目したいところだ。
ハーレーダビッドソンは2026年10月1日、2027年シーズンに向けて、レーシングプログラムを刷新すると発表した。
そのなかで、FIMハーレーダビッドソン・バガーワールドカップを同社の「Premier Racing」つまり最上位のレーシングプラットフォームと位置づけ、シリーズそのものをさらに成長させていく方針を明らかにしたのである。
ハーレーダビッドソンは早くも、参戦チーム、ライダー、レース数を増やし、シリーズをさらに拡大していく方針を打ち出した
具体的には、2027年から参戦チームとライダー、そしてレース数を増やす。初年度の2026年が全6戦12レースだったことを考えれば、翌シーズンから早くも規模を拡大するというのは、かなり力の入った取り組みだ。
グローバル・レーシング・プログラム・ディレクターのジェフリー・シュースラー氏は、初年度について「期待を上回った」と振り返り、5人の異なる勝者、すべてのチームの表彰台獲得、最終戦まで続いたタイトル争いを高く評価している。
そして、こう語っている。「This is only the starting line.」
これはまだスタートラインに立ったばかりだ。ハーレーダビッドソンにとって、バガーワールドカップは、まだ始まったばかりにすぎない。
KOTBから撤退! その意味は?
King of the Baggersからは、2026年シーズンを最後にファクトリーレーシングとしての参戦を終了する
ここでもうひとつ、見逃せない発表がある。ハーレーダビッドソンは今回のレーシング戦略刷新に伴い、2026年シーズンを最後に、MotoAmerica「King of the Baggers」へのファクトリーレーシングとしての参戦と、公式チームサポートを終了すると、衝撃的な方針を明らかにした。
しかしこれは、ハーレーがバガーレースから手を引くという意味ではない。むしろ、その逆だ。
2021年にシリーズ戦が始まったキング・オブ・ザ・バガーズは、ハーレーダビッドソンとインディアンによる激しい戦いを通じて、バガーレースというカテゴリーそのものを大きく成長させた。ハーレーダビッドソンのファクトリーレーシングチームも、その舞台で大きな成果を残している。
これまでのレース活動で培った技術やノウハウは、今後さらにFIMハーレーダビッドソン・バガーワールドカップへと投入される
これまでファクトリーレーシングチームが培ってきた技術やエンジニアリングの知見、サーキットで得たパフォーマンスデータは、今後さらにFIMバガーワールドカップへと投入される。
さらに市販車の開発や、レースで得られた技術をフィードバックしたスクリーミンイーグルのパフォーマンスパーツ開発にも活用していく方針だ。
つまり、ハーレーダビッドソンにとってバガーレースは、単なる話題づくりではない。レースで鍛え、そこで得た技術を市販車やパーツへ還元し、さらにその性能をレースで証明していく。そんなサイクルを、これから本格的に構築しようとしているのである。
レースが増える! ならば日本上陸か!?
MotoGP日本グランプリが行われるモビリティリゾートもてぎに、2024年から3年連続で大きなブースを構えるハーレーダビッドソン
そして、改めて気になってくるのが日本グランプリだ。2026年のバガーワールドカップはアメリカとヨーロッパで開催され、モビリティリゾートもてぎはその開催地には含まれていなかった。
しかし冒頭で述べた通り、ハーレーダビッドソンは2024年から3年連続でMotoGP日本グランプリに出展している。
2026年もまた、中央エントランス・グランドスタンドプラザに大きなブースを展開。車両やグッズを展示しただけではなかった。
バガーワールドカップのロゴマークがいたるところに掲げられ、さらにはバガーレースのレーシングマシンを使ったシミュレーターまでもを用意。多くのMotoGPファンがこれを体験し、順番を待つ列ができるほどの人気を集めた。
3年連続でMotoGP日本GPに出展し、今年は欧米でスタートしたバガーワールドカップの世界観を体験できる仕掛けまでを用意した。
「なぜ、MotoGPにハーレーが?」
そう感じていた人も、ここまで知れば、その理由が少し見えてくるのではないだろうか。
果たして、2027年の開催地に日本の名は加わるのか。巨大なバガーレーサーが、もてぎのサーキットを駆け抜ける日はやって来るのか。来シーズンのバガーワールドカップの開催スケジュール発表から、今からもう目が離せない!!
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