
1980年代、バイク乗りたちのロマンをかき立てた「最速」の2文字。未知の速度域を手中に収めるため、新たな技術が次々に開発された時代だ。ここではGPz900Rの後継として登場したハイパフォーマンスモデル、GPZ1000RXを取り上げる。※本記事はヤングマシン特別号 青春単車大図鑑からの転載です。
●文:ヤングマシン編集部
GPz900Rを受け継ぐ実用系最速マシン【カワサキGPZ1000RX】
1983年にTT-F1の排気量上限が750ccに引き下げられた結果、リッターバイクはレースの呪縛を解かれて独自に発展し始める。
そのとき、今なお語り継がれる画期的なマシンが生まれた──カワサキ初の水冷4バルブ、直4初のサイドカムチェーン、空気を切り裂くエアロボディ。そう、GPz900Rだ。
115psのエンジンが228kgの車体を軽々と250km/hオーバーまで引っ張り、瞬く間に最速の座を手中に収めた。世界中から称賛の声と、数多くのオーダーが寄せられたことは言うまでもないだろう。
そのわずか2年後、「さらに速く」をコンセプトに投入されたのがGPZ1000RXだった。
【1986 KAWASAKI GPZ1000RX】■水冷4スト並列4気筒 DOHC4バルブ 997cc 125ps/9500rpm 10.1kg-m/8500rpm ■238kg(乾) ■タイヤF=120/80V16 R=150/80V16 ※輸出モデル
カワサキらしい”実用最速マシンの歴史”はここから始まった
排気量を997ccに拡大、吸気ポートをハンドポリッシュ仕上げにするなどして、10psアップの125psを実現。ペリメターフレームなどにより、車体側も大幅に強化されていた。
その結果、最高速度260km/h、ゼロヨン10.6秒とライバル勢を圧倒。導く空気の流れを感じさせつつ、威厳に満ち、オーナーを誇らしい気分にさせてくれるスタイリングも我々の心を鷲づかみにした。
タンクバッグを置きやすい燃料タンク形状や握りやすいグラブバー、収納式荷掛けフック、優れたウィンドプロテクションといった「親切設計」も、このRXからの伝統だ。
ZX-10、ZZ-R1100と10年以上にわたって連綿と続くカワサキらしい実用最速マシンの歴史は、RXから始まっているのである。
空気抵抗の少なさとツーリング時の快適性、リッターマシンらしい誇らしさが融合した独自のスタイリングを採用。現代まで連綿と続くカワサキ流最速エアロボディのルーツがここにある。
【カンファタブルvsストイック】軽量/スリム/ハイパワーを重視したGPz900R(右)に対し、GPZ1000RX(左)は所有する喜び/ツーリングする楽しみを優先。実用的な最速マシンであることが見て取れる。
280km/hスケールの速度計が「最速マシン」であることを主張する。レッドゾーンは10500rpmから。ツーリング時の実用性にこだわるカワサキらしく、燃料計を装備している。
カワサキGPZ1000RX 派生モデル
1989 カワサキZX-10:正常進化で最高速にプラス10km/h
ZX-7のノウハウを投入して125→137psに増強した出力を、e-BOXと呼ばれるアルミフレームとワイド&偏平ラジアルタイヤで受け止めながら、車重を16kgも軽量化。
RX比で最高速度を10km/h高めて、最速の座を万全にした。
【1989 KAWASAKI ZX-10】主要諸元■水冷4スト並列4気筒 997cc 137ps/10000rpm 10.5kg-m/9000rpm 120/70R17 160/60R18 ■車重222kg(乾)
速度計に初めて「300」の数字が登場。レッドゾーンは500rpmアップの11000rpmに。
1990 カワサキZZ-R1100:ついにメーターが320km/hスケール
2mmボアアップで147psを獲得。徹底したエアロフォルムとラムエア過給の採用で最速の座を守り抜いた。
1993年型Dタイプで格段に完成度を高めてからは、長らく王者の位置に君臨。そのDNAはZZR1400に受け継がれた。
【1990 KAWASAKI ZZ-R1100】主要諸元■水冷4スト並列4気筒 1052cc 147ps/10500rpm 11.2kg-m/8500rpm 120/70R17 170/60R17 ■車重228kg(乾)
速度計がいよいよフルスケール「320」に。レッドゾーンはさらに上昇して11500rpmとなった。
カワサキGPZ1000RX ライバル機
1987 ホンダCBR1000F:あくまで優しさを追求
RC30と同じ年にデビューしたホンダ初の水冷直4リッターマシン。
当時は最速を誇ったが、真の狙いは扱いやすさと快適性に重きを置いたハイスピードクルージングバイクだった。このコンセプトはCBR1100XXに結実していく。
【1987 HONDA CBR1000F】主要諸元■水冷4スト並列4気筒 998cc 135ps/9500rpm 10.6kg-m/8000rpm 110/80V17 140/80V17 ■車重224kg(乾)
1987 ヤマハFZR1000:やっぱりハンドリング命
FZ750ベースの5バルブエンジンをアルミフレームに搭載。
特に1989年以降はマスの集中化&低重心化を狙ったジェネシス思想に基づく「自在なハンドリング」を堪能できる。
レプリカ系最速マシンの存在価値をいっそう深めた立役者。
【1987 YAMAHA FZR1000】主要諸元■水冷4スト並列4気筒 989cc 135ps/10000rpm 10.4kg-m/9500rpm 120/70-17 160/60-18 ■車重204kg(乾)
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([連載]青春名車オールスターズ)
公道モデルにも持ち込まれた「ホンダとヤマハの争い」 1980年代中頃、ホンダNS250Rはヒットしたが、ヤマハTZRの人気は爆発的で、SPレースがTZRのワンメイク状態になるほどだった。 しかしホンダ[…]
2ストエンジンの新時代を切り開いた名車 1980年代中頃、スズキのガンマ、ホンダのNSと、高性能レプリカが矢継ぎ早に出揃い、大ヒットを記録していた。 この潮流をみたヤマハはRZ250Rにカウルを装着し[…]
「その時、スペンサーになれた気がした」 MVX250Fの上位モデルとして400版の発売が検討されていたが、250の販売不振を受け計画はストップ。この心臓部を受け継ぎ、NS250Rの技術を融合したモデル[…]
“2スト最強”と呼ばれた栄光のレプリカ ヤマハのRZV500Rと並び立つ不世出の500レプリカが、このRG500ガンマである。 1976〜1982年までスズキはWGP500でメーカータイトルを7年連続[…]
ケニー・ロバーツが駆るYZR500のフルレプリカ 400レプリカが隆盛を極める1984年、ヤマハから究極のレーサーレプリカが送り込まれた。当時最高峰のWGP500王者に輝いたYZR500のフルレプリカ[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
公道モデルにも持ち込まれた「ホンダとヤマハの争い」 1980年代中頃、ホンダNS250Rはヒットしたが、ヤマハTZRの人気は爆発的で、SPレースがTZRのワンメイク状態になるほどだった。 しかしホンダ[…]
※この記事は別冊モーターサイクリスト2010年11月号の特集「YAMAHA RZ250伝説」の一部を再構成したものです。 ヤマハ RZ250のエンジン「2ストロークスポーツの純粋なピーキー特性」 ヤマ[…]
アルミだらけで個性が薄くなったスーパースポーツに、スチールパイプの逞しい懐かしさを耐久レーサーに重ねる…… ン? GSX-Rに1200? それにSSって?……濃いスズキファンなら知っているGS1200[…]
実は大型二輪の408cc! 初代はコンチハンのみで37馬力 ご存じ初代モデルは全車408ccのために発売翌年に導入された中型免許では乗車不可。そのため’90年代前半頃まで中古市場で398cc版の方が人[…]
キーロック付きタンクキャップ:スズキGT380(1972) バイクの燃料キャップは、そもそもは転倒時の漏れ防止の安全対策からキーロック式が採用されるようになったが、その最初は1972年のスズキGT38[…]
人気記事ランキング(全体)
トレッドのグルーブ(溝)は、ウエットでタイヤと接地面の間の水幕を防ぐだけでなく、ドライでも路面追従性で柔軟性を高める大きな役割が! タイヤのトレッドにあるグルーブと呼ばれる溝は、雨が降ったウエット路面[…]
新型スーパースポーツ「YZF-R9」の国内導入を2025年春以降に発表 欧州および北米ではすでに正式発表されている新型スーパースポーツモデル「YZF-R9」。日本国内にも2025年春以降に導入されると[…]
実は大型二輪の408cc! 初代はコンチハンのみで37馬力 ご存じ初代モデルは全車408ccのために発売翌年に導入された中型免許では乗車不可。そのため’90年代前半頃まで中古市場で398cc版の方が人[…]
北米にもあるイエローグラフィック! スズキ イエローマジックといえば、モトクロスやスーパークロスで長年にわたって活躍してきた競技用マシン「RMシリーズ」を思い浮かべる方も少なくないだろう。少なくとも一[…]
アルミだらけで個性が薄くなったスーパースポーツに、スチールパイプの逞しい懐かしさを耐久レーサーに重ねる…… ン? GSX-Rに1200? それにSSって?……濃いスズキファンなら知っているGS1200[…]
最新の投稿記事(全体)
公道モデルにも持ち込まれた「ホンダとヤマハの争い」 1980年代中頃、ホンダNS250Rはヒットしたが、ヤマハTZRの人気は爆発的で、SPレースがTZRのワンメイク状態になるほどだった。 しかしホンダ[…]
全日本、そしてMotoGPライダーとの違いとは 前回は鈴鹿8耐のお話をしましたが、先日、鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿サンデーロードレース第1戦に顔を出してきました。このレースは、鈴鹿8耐の参戦権を懸け[…]
シュアラスターの「バイク洗車図鑑」 バイクが違えば洗い方も変わる! 車種別の洗車情報をお届けするシュアラスターの「バイク洗車図鑑」、今回は大ヒット街道まっしぐら、女性人気も高いホンダ「レブル250(S[…]
どの製品を選択するべきかで大いに悩む 少し前に当サイトでお伝えした通り、最近の僕はツーリングで重宝する積載系アイテムとして、タナックスがMOTOFIZZブランドとして販売する、ミニフィールドシートバッ[…]
長島哲太×ダンロップ×CBR1000RR-R、2年目の戦いへ 2025年の全日本ロードレースの第1戦が4月20日にモビリティリゾートもてぎで幕を開けた。 ダンロップタイヤを3年計画でチャンピオンの座に[…]
- 1
- 2