
●文:伊藤康司 ●写真:スタジオコバ(藤川翔平) ヤマハ YM Archives
時代に合わせて生き続けた、愛すべきヤマハの象徴
スポーツバイクにおいて、スペックが重要な指標のひとつなのは間違いない。しかし1000ccで200psオーバーが当たり前の近代において、最高出力が25psにも満たないながら、確固たる存在感を示し続けた空冷単気筒バイクがあった。それが、ヤマハSR400だ。
振り返れば1978年に、ヤマハ初の4ストローク・ビッグシングルのXT500をベースに、当時としてもトラッドなスタイルのロードスポーツとして登場したのが、「SR400/500」だった。メジャーな多気筒よりマニアックなシングル好きや、手を入れる愉しみを求めるカスタム派に支えられ、長く愛された。
とはいえSRにとって、43年という長い道程は決して平坦ではなかった。流行に乗ったキャストホイール化では人気を得られず、先祖返りとも取れるドラムブレーキ化を経たりもしながら、熟成と進化を重ねてきた。またロングセラーゆえにエンジンの金型が劣化し、1995年には異例とも言えるコストのかかる金型を新造したこともトピックだった。
そして、厳しさを増す騒音規制や排出ガス規制によって、継続販売といいつつ実質的なカタログ落ちを喫したことも1度ならずあった。しかし、そのたびにSRは復活し、その歴史を刻んできた。”バイクらしい”という表現は、極めて曖昧だ。
それでも、深いフィンの刻まれたエンジンの造形や奏でるサウンド、上質なペイントの丸い燃料タンクや金属のフェンダーに”らしさ”を求めるライダーにとって、SRはかけがえのない相棒だ。いつか復活するそのときを信じて。
1978 初代SRインプレ:辛口インプレは期待感の大きさの表れ
『ヤングマシン』1978年1月号:ニューモデル最新情報
ヤングマシンでは1978年1月号で、ニューモデル最新情報としてカラー掲載。文頭の「マニアの間では、かねがね出現が期待されていた4ストローク・ビッグシングルのロードスポーツが誕生した」というくだりは、1977年4月1日に発売されたバイク雑誌の”エイプリルフール企画”に登場した「XT500の単気筒エンジンを搭載するロードスポーツ車」に起因。そして「オールドライダーは『ビッグはロングストロークでなきゃあ』等とのたまうかもしれないが、なんのなんのショートでもビッグはビッグの味がある…ようだ」と微妙な言い回しだった。
『ヤングマシン』1978年4月号:最新インプレッション
発売時の1978年4月号の試乗記では、「エンジンのデザインが迫力不足」「ケッチン防止の安全システムは付いているがキックが重い」「排気音が物足りない」と、なかなかに厳しい記述。走り出してもエンジンのパンチなどには厳しい評価が続き、500よりも400の回転とハンドリングのマッチングを評価し、最後は「人車一体のコーナリングのすばらしさと安定したフィーリングがある」と締めている。
1970年代後半は、まさにバイクブームが開幕したスポーツバイクの黎明期。いわゆる“レプリカ”の登場には若干の間があるが、2気筒や4気筒エンジンも発売され、すでにスペック競争は始まっていた。その中であえての、最高出力や高回転に不利な4ストローク・ビッグシングル。興味を持つのは、かつてのマン島TTなどで活躍した英国製シングルのファンや、メジャー化しつつある多気筒になびきたくない層だろう。そんなマニアックなライダーにとって、当時の最新空冷ビッグシングルのロードスポーツであるSRには、大きなともすれば過剰な期待感があったに違いない。この手の厳しいインプレも、その表れといえそうだ。
しかし、登場から半年ほど経った1978年11月号の1000kmテストでは評価が一変。スリムな車体やコンパクトなポジションに始まり、安全なキックスタートや「…27psのパワーも扱いやすく、どこのギヤに入っていても2000rpm以上ならばレスポンスも十分」と高評価。
峠でのハンドリングの良さや、サスペンションの作動性やブレーキ性能にも満足し、自然の中で走る愉しみを「現代版4ストロークシングルでもそれはできるのだ」と締めている。この評価の変化は、多様化するバイクの中でSRの“立ち位置”が明確になった証だと言えそうだ。
【1976 YAMAHA XT500 [1E6]】このマシンがなければ、SRは生まれなかったかもしれないという一台。2ストロークが主軸だったヤマハが、初めて手がけた4ストローク大排気量単気筒の本格オフローダーだ。オフやダートが盛んなアメリカからの要望で、当時の2ストロークモトクロッサーをベースに開発し、軽さとパワーをとことん追求した。海外で1975年以先行発売され、国内は1976年登場(当時価格は37万円で、後のSR500より高額)。エンジンやシャシーの基本レイアウトはSR400/500のベースとなったが、マグネシウム製のエンジンカバーやパイプの径や肉厚が異なるフレーム&スイングアームなど、SRとの差異も多い。
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