
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は「ヤマハFZ750」をあらためて紹介する。まずはこの名車の特徴と歴史について振り返ろう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:クロスロード
- 1 ヤマハ FZ750:ジェネシス思想に基づいて理想のバランスを構築
- 2 ヤマハFZ750 現在の中古車事情
- 3 日本市場とは異なり、欧米では堅実なセールスを記録
- 4 中古相場は50~80万円:ライバル勢と比べれば、入手は容易
- 5 [連載] プロに学ぶ’80s国産名車メンテナンスに関連する記事
- 6 ‘70s国産名車 ホンダ CB750フォア 完調メンテナンス【古さの割に決して扱いは難しくない】
- 7 ‘70s国産名車 ホンダ CB750フォア 完調メンテナンス【補修部品に関する心配はほとんど不要】
- 8 ‘70s国産名車 ホンダ CB750フォア 再見【世界を席巻した量産初の並列4気筒車】
- 9 ‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 完調メンテナンス【識者インタビュー:お客さんの夢を実現したい】
- 10 ‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】
- 11 ‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 再見【驚異の動力性能と流麗なスタイルで世界を席巻】
- 12 ‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【識者インタビュー:好調を維持するのは決して難しくない】
- 13 ‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】
- 14 人気記事ランキング(全体)
- 15 最新の記事
ヤマハ FZ750:ジェネシス思想に基づいて理想のバランスを構築
’80年代前半のヤマハを振り返ると、創業当初から主軸に据えて来た2ストロークでは市場をリードしていたものの、’70年型XS-1に端を発する4ストロークに関しては、ライバル勢に今一歩及ばない感があった。そんな同社が、4ストロークの世界で躍進するきっかけになったモデルが、’85年に登場したFZ750だ。誤解を恐れずに言うなら、近年のレースにおけるYZR-M1やYZF-R1の活躍は、FZ750を抜きにして語れないのである。
【YAMAHA FZ750】■全長2255 全幅755 全高1165 軸距1485 シート高780mm 乾燥重量209kg キャスター/トレール25度30分/94mm ■水冷並列4気筒DOHC5バルブ 749cc 内径×行程68×51.6mm 圧縮比11.2:1 最高出力77ps/9500rpm 最大トルク7.0kg-m/6500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量21L ■タイヤF=120/80R16 R=130/80R18 ●発売当時価格79万8000円 ※’85年型国内仕様
そしてFZ750と言えば、DOHC5バルブヘッド/45度前傾シリンダー/ダウンドラフト吸気など、革新的な機構を随所に採用した並列4気筒エンジンに注目が集まりがちだが、それ以上に重要な要素は、ジェネシス思想に基づいて、車両全体のバランスを徹底的に追求したことだろう。パワーユニット担当とシャシー担当を筆頭とするすべてのスタッフが、設計段階から緻密な協議を行って生まれたこのモデルは、既存のXJ650/750やFJ1100とは次元が異なる、抜群の運動性と快適性を獲得していたのだ。
【燃焼効率に加えて小型軽量化を徹底追求】並列4気筒エンジンは、TT-F1レースでの使用を念頭に置いて開発。左右幅は既存のXJ400以下の415mmで、単体重量はXJ750より約10kg軽い69kg。以後のFZR750/1000やYZF750/1000Rも基本設計を踏襲。
【シリーズ唯一となる燃料残量計を装備】当時の流行に従い、タコメーターは中央に配置。左は速度計で、右は水温/燃料計だ。φ39mmフォークはエア加圧式で、日本仕様はアンチダイブ機構を装備。クラッチは’80年代から普及が始まった油圧式。
ヤマハFZ750 現在の中古車事情
もっとも、日本市場におけるFZ750のセールスは、いまひとつ奮わなかった。250/400ccクラスを起点とするレーサーレプリカ需要が急速に高まる中、当時の大型車市場を制したのはスズキGSX-R750で、スポーツツアラー然としたルックスのFZ750に注目するライダーは、あまり多くなかったのである。とはいえ、海外では新時代のオールラウンドスポーツとして好評価を獲得し、北米は’91年、欧州は’94年まで販売が続いた。
なお現在の中古車市場において、FZ750の位置づけはなかなか微妙である。まず昨今の旧車ブームの影響は少なく、人気と価格は高騰していないものの、そういった需要が少ない車両だからか、補修部品やアフターマーケットパーツは潤沢とは言い難い。そしてタマ数については、同時代のホンダVFR750FやカワサキGPX750Rよりは多いのだが、豊富と言うレベルではない。言ってみれば、門外漢は手を出しづらい車両なのだが…。
今回の取材に協力してくれたクロスロードで車両を購入する、あるいは、メンテナンスでお世話になるなら、維持に関する心配は不要だろう。何と言っても、国内唯一のFZ750専門店となるクロスロードは、大量の補修部品をストックしているし、同店の代表を務める山田將人さんは、この機種の美点と欠点を熟知しているのだから。
日本市場とは異なり、欧米では堅実なセールスを記録
わずか1年で生産が終了した日本仕様とは異なり、海外でのFZ750の販売期間は長期に及んだ。日本仕様と海外仕様の主な相違点は、吸排気系、カムシャフト、2次減速比、タイヤ(日本はラジアルで、海外はバイアス)、フロントフォークのアンチダイブ機構の有無などで、日本ではオプション扱いのシングルシートカバーは、海外では標準装備の地域が多かったようだ。なお’86年になると、北米仕様はアンダーカウル、欧州仕様はそれに加えてグラブバーを導入。
そして’87年以降はフルカウルやスリット入りサイドカバー、ロングスクリーン、4-2-1式マフラーなどが採用され、’89年型では足まわりの大幅刷新を実施。日本での販売台数は3000台に満たなかったFZ750だが、国内外のトータルでは約3万9000台に到達した。
なお’86年にデビューしたFZX750は、FZ750のネイキッド仕様だが、位置づけはV-MAXの弟分。FZ750とは異なり、このモデルは日本でも’00年まで販売が続くロングセラーとなった。
【’85 FZ750(北米仕様)】
【’86 FZ750(欧州仕様)】
【’90 FZ750(欧州仕様)】
【’86 FZX750】
中古相場は50~80万円:ライバル勢と比べれば、入手は容易
近年の中古車市場では、’80年代以前に生産された旧車の相場が全体的に上昇している。人気車の場合は一昔前の+50~100万円が珍しくないけれど、FZ750の価格はそこまでの上昇はしていない。とはいえ、足まわりの全面刷新やエンジン換装などを行ったカスタム車が、100万円以上で売買されるケースはあるようだ。
【取材協力:クロスロード】’85年に創業したクロスロードは、もともとは2輪用品店だったものの、今から15年ほど前にFZ750専門店にスイッチ。代表の山田將人さんが自分自身のために補修用パーツを集めていたら、いつの間にか膨大な数になり、さらには数多くの車両が持ち込まれるようになったため、専門店としての活動を決意したと言う。 ■兵庫県三木市細川町西字東山650-8 ●TEL:0794-86-2635
[連載] プロに学ぶ’80s国産名車メンテナンスに関連する記事
※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
人気記事ランキング(全体)
夏場は100℃超えも珍しくないけれど… いまやバイクのエンジンは“水冷”が主流。安定した冷却性能によってエンジンパワーを確実に引き出すだけでなく、排出ガス/燃費/静粛性の面でも水冷の方が空冷より有利な[…]
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう ──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか? 「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、[…]
RH1250S スポーツスターS:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 121HPを発揮するレボリューションマックス1250Tエンジンをオールブラックにし、精悍さを強調するデザインとなった202[…]
シグナスシリーズ、20年の歴史を背負うニューフェイス 以前は空冷エンジン搭載のコンパクトな原付二種スポーツスクーターとして人気を博した「シグナスX」だが、水冷の新世代「シグナス グリファス」に交代した[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
最新の記事
- 【Ninjaの原点】なぜGPz900Rは愛され続けるのか? 歴代モデル&”名機”となったカワサキ水冷直4の進化をたどる
- EICMAで話題の本格派原付二種ネイキッド! ファンティック「ステルス125」日本上陸
- 高音質×メッシュ通信が“半額”の衝撃! コスパ最高な次世代機「ASMAX F1 Pro」がインカム戦国時代に殴り込みだ
- 2025年のヤマハ「R15 V4」にマジョーラカラー! ブルー変更、ブラック追加も【海外】
- ホンダにも縦置きV型2気筒があった! 1977年からの「GL400・GL500」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.22】
- 1
- 2