
今も絶大な人気を誇る’70年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はカワサキの「500SS マッハIII」について、このマシンに詳しいバイクショップ・トリプルフィールドの稲村隆寛氏に話を伺った。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:トリプルフィールド
カワサキ 500SS マッハIII:「世間のマッハへの誤解を解きたい」
マッハシリーズに対して、スプリンターというイメージを持つ人は少なくないだろう。とはいえトリプルフィールドの稲村さんは、若い頃からこのシリーズを駆って、全国各地に出かけてツーリングを楽しんでいると言う。
「意外に思われそうですが、調子のいいマッハシリーズはオールラウンダーとして使えますからね。ただしウチに初来店したお客さんの車両を点検すると、この状況ではロングランは無理で、スプリンターにならざるを得ない…と感じることが少なくありません」
具体的に、同店に新規で入庫してくるマッハシリーズは、どんなところにトラブルを抱えているのだろうか。
「それはもう千差万別で、シリンダーとピストンが焼き付いている車両があれば、エンジンが暖まっても白煙が止まらない車両もありますし、ハンドリングが不自然な車両もあります。調子のいいノーマルを知らないと、好調不調の判断は難しいですが、普通に乗っていて不具合を感じるなら、好調ではないと判断していいと思いますよ」
同店で本来の調子を取り戻したマッハオーナーに対して、稲村さんが注意点として挙げているのは以下の5点。
「2ストの経験が少ないライダーには、2ストオイルの点検と補充、ナラシが終わっても高回転域で走り続けないことをお願いします。もちろん、瞬間的に高回転域を使うのは全然OKですが(逆に低中回転域ばかりを使っていると、燃焼室にカーボンが堆積しやすくなる)、今どきの4ストのように、ノーマルセッティングのままで、レッドゾーンのギリギリを使って走り続けるのはNGです。
それに加えて異常燃焼時にエンジンから聞こえる音、チリチリチリ…というノッキングに敏感になること、その音が聞こえたら絶対に無理はしないこと、安易にキャブレターのセッティングを変更しないことが、私が納車時に挙げている注意点です」
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カワサキ 500SS マッハIII:乗り続けるのは難しくない!
注意するべき要素はそれなりに豊富なマッハシリーズだが、好調の維持に関しては、あまり難しくないようだ。
「いったん本来の調子を取り戻せば、以後のマッハシリーズは現行車と大差ない感覚で付き合えますからね。ただし季節の変わり目になる春と秋には、キャブレターのエアスクリューを調整して、スロー系の吸入空気量の適正化を図ったほうがいいでしょう」
当記事ではほとんど触れていないけれど、マッハシリーズオーナーの中には、カスタム指向のライダーが数多く存在する。稲村さんはカスタムに関して、どう考えているのだろうか。
「アリだと思いますよ。ウチのお客さんでも、チャンバーや足まわりなどをいじっている人はいますから。ただし、僕自身はノーマルのバランスに好感を抱いているので、こちらから積極的にオススメすることはないですね」
当記事を読んで500SSを購入しようと言う人がいたら、稲村さんはどんなアドバイスをするのだろうか。
「世間の一部で言われているほど、乗りづらくはないし、トラブルも起こりません、でしょうか(笑)。そう言いたくなるほど、マッハシリーズは多くの人に誤解されているので、私としては日々の仕事を通して、その誤解を解いていきたいと思っているんです」
カワサキ 500SS マッハIII:H1B以降なら、旧車初心者でも気軽に乗れるはず
今回は500SSを取り上げたものの、昔ながらの“大きいことはいいことだ”的な考え方をする人が大勢いるのだろうか、近年のマッハシリーズの一番人気は750SSである。
「やっぱり750SSの速さ、74psのパワーは魅力的ですからね。ただし私個人としては、日本の道路事情に一番合っているマッハは500SSだと思います。逆に言うなら750SSは速すぎて、法定速度を守っていると、エンジンのオイシイ部分がなかなか使えないんですよ。
なお500SSに関しては、昔から前期型の人気が高いですが、扱いやすさを考えると後期型も大いにアリでしょう。前期型を乗るうえでは、旧車としてのアジャストが多少は必要になりますが、後期型は現行車に近い感覚で気軽に乗れますから」
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