
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は言わずとしれた名車、カワサキのZ1について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:GPクラフト
カワサキ 900スーパー4 Z1:クランクやフレームにもダメージが発生している
GPクラフトではメンテナンスとカスタムだけではなく、車両販売も行っている。そして’90年代の同店がアメリカから輸入した空冷Zシリーズが、一般的な中古車整備に加えて、エンジン腰上やキャブレター、ブレーキのOHなどで、本来の調子を取り戻せることが多かったのに対して、近年の同店に持ち込まれるZ1は、それだけでは済まないことがほとんどのようだ。
「まずエンジンに関しては、クランクシャフトに位相ズレやベアリングの摩耗といった症状が出ている個体が増えていますし、フレームはバックボーンパイプの曲がりやダウンチューブの腐食など、単体にしての修復が必要な個体が珍しくなくなりました。もちろん、足まわりや電装系がそのままでOKというケースもめったにないですから、整備履歴が不明の空冷Zシリーズを入手して、まったく手を入れずに本来の資質が味わえる可能性は、ほとんどゼロと考えたほうがいいでしょう」
この言葉には敷居の高さを感じる人がいそうだが、好調の回復にかなりの手間がかかる主な原因は、経年劣化や転倒などで、空冷Zシリーズに致命的な弱点は存在しないと田畑さんは言う。
「あえて言うなら、カムチェーン関連部品の耐久性は万全ではなかったですが、現代の対策品を使えば寿命は大幅に延ばせますからね。いずれにしても、全面的なレストアで本来の調子を取り戻した空冷Zシリーズなら、以後の維持に関しては、現行車と大差ない感覚で付き合えると思いますよ」
カワサキ 900スーパー4 Z1 パーツ供給
純正部品の供給状況は決して悪くないし、補修用として使えるアフターマーケットパーツは超が付くほど潤沢。生産終了から40年以上が経過したにも関わらず、空冷Zシリーズの前期型は、部品に関する心配がほとんど不要なのだ。
「部品の豊富さに加えて、クランクやカムチェーンアイドラー、クラッチハブといった部品の修理技術が確立されていることも、空冷Zシリーズの魅力です。だから作業者としては、同時代の他車より気持ちは楽ですね」(田畑さん)
カワサキ 900スーパー4 Z1:メンテナンスポイント
シリンダーヘッド:修復が難しい場合は新品も視野に入れたい
シリンダーヘッドでよくあるトラブルは、カムホルダーの雌ネジ破損/プラグホール周辺のクラック/過剰な面研など。なおカワサキが’20年に発売した復刻品はすでに完売したが、同社は今後も定期的に再生産を行うようだ。 [写真タップで拡大]
シリンダースリーブ:現代の技術を投入したアルミメッキスリーブ
内壁が摩耗限界に達していなくても、シリンダーとスリーブのクリアランスは過大になっていることが多い。そういう場合は純正と同じ鋳鉄製スリーブの新品に交換するのが定番だが、最近の同店では抜群の耐久性と放熱性を誇る井上ボーリングのアルミメッキスリーブ、ICBMの採用が増えている。 [写真タップで拡大]
クランクシャフト:完全分解して行う消耗品の交換と芯出し
かつては修復が難しいと言われていたけれど、近年では数多くの内燃機加工店やショップが組み立て式クランクのOHを受け付けており、補修用部品の単品販売も行われている。コンロッド小端に丸棒を通している下段の写真は、位相のズレを確認する簡易的な手法で、この作業は車載状態でも可能。 [写真タップで拡大]
クランクケース:歪みやクラックなどさまざまな問題が発生
キャブレター:予算に応じて複数の選択肢を準備
クラッチ:純正をリビルドするか、J系に換装するか
クラッチハブ内に備わる6個のダンパースプリングは、長年の使用でヘタリが生じる。この問題を解決する手法は、カシメを外して行うリビルド(同店では作業をアニーズに依頼)、新品が存在するZ1000J系にコンバートの二択。 [写真タップで拡大]
オイルポンプ:ブルドック製の導入で安定した潤滑を実現
カムチェーン&アイドラー:現代の対策品を用いて問題点をきっちり解消
ドライブチェーン&スプロケット:サイズダウンしてもマイナス要素はなし
フロントブレーキ:ブレンボキャリパーで制動力を大幅に強化
Z1の純正フロントブレーキはシングルディスク。昔から純正オプションでダブル化を図る人は多かったものの、近年の同店ではスピードショップイトウのキットを用いるブレンボ2ピストンが人気。ディスクはサンスターが定番。 [写真タップで拡大]
リヤブレーキドラム:内面研磨によって本来の資質を回復
Z1のリヤブレーキはドラム式で、内壁のスチール製ベースがサビサビになっていることが珍しくない。もちろんその状態では本来の制動力が発揮できないので、GPクラフトでは内壁研磨を推奨。作業は井上ボーリングに依頼。 [写真タップで拡大]
リヤショック:純正風から最新型まで選択肢はかなり豊富
フレーム:ほとんどの個体に曲がりや腐食が発生している
レギュレーター/レクチファイア:ICタイプの採用で安定した充電を実現
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