手足を離しても倒れない! ホンダが低速の不安を消し去る「自立バイク」を研究中

ホンダ ライディングアシスト2.0

バイクで転びやすいのは、停止中や極低速時。そんな状況で補助してくれるバイクをホンダが研究している。二足歩行ロボット・アシモで培った技術を活かし、前後輪でバランスを取り続けることで直立をキープ。実現すれば、バイクへのハードルを下げ、事故が減る革新技術だ。


●文:ヤングマシン編集部(沼尾宏明)

自然な乗り味を重視。操る楽しみは奪わない

空車状態のバイクがスタンドなしで直立している。ライダーが乗り込むと、2km/hの極低速でも倒れることなく旋回していく…。栃木県のテストコースでホンダが報道陣に公開した自立バイク「ライディングアシスト2.0」は驚きの技術だった。

これは’17年のCESや東京モーターショーで公開されたライディングアシストの進化版。従来は、前輪のみ左右に動かしたりキャスター角を変動させることでアシストしたが、2.0はキャスター可変機構を廃しつつ、前輪に加え後輪にもバランス機構を追加した。

ホンダ ライディングアシスト2.0

【アシモの魂をインストール】アシモなど2足歩行ロボットに携わってきた本田技術研究所の秋元一志氏が開発を担当。ロボットの姿勢制御技術を応用しており、「バランスを取る物理の原則はロボもバイクもほぼ同じ」という。

【ライディングアシスト1.0】ホンダは’17年に2輪姿勢制御技術を公開。前輪を前後左右に動かすことで自立可能だった。大きな制御が入ったが、これを2.0で解消したのだ。なお当時話題になった自律運転機構は2.0では非装備。

従来型はステアリングに強い制御が入るため、曲がりたい時に介入がなされ、ライダーには違和感があった。一方の新型は、車体後部にサーボモーターを使い、リヤタイヤと車体を左右にスイングさせる揺動機構を採用。前輪のステアリング制御と合わせて車体のバランスを保つ。人間も倒れそうになるときは反対側に重心を移動してバランスを取るが、理屈としては同様だ。

この機構によって、ステアリングに影響を与えにくく自由に車体がロール可能に。しかも20km/h以上では制御をカット。より自然でライダーの動きをジャマしない乗り味になったのだ。

自動運転のように介入の度合いが大きければ、バイクの醍醐味である操る楽しみが失われてしまう。だが、そこはホンダ。きっちり対応してきた。

「実用化はまだまだ先」とのことだが、この機構があれば立ちゴケやUターンなど極低速の旋回といった転びやすい状況も安心。ホンダは’50年までに事故死者ゼロを目指すと宣言したが、2輪で核となる安全技術であり、万人にバイクが身近となる。ぜひ実現してほしい!

【フロントはシンプル】アクチュエーターとリンク機構でステアリングを左右に切ってバランスを制御。リヤに比べてシンプルで、補助的な機構となる。

【メーターでモニタリング】メーターパネル上で重心移動を細かくモニタリング。ちなみに大きな力やイレギュラーな状況では転倒する。こうした研究はこれからだ。

【リヤにシステムが集中】スイングアーム以後を丸ごと交換。バイクの傾きと同方向に動かし、復元力を発生させる。後輪左側にモーターを装着して電動化したが、エンジンでも同様に自立可能という。

【人車の傾きを一体的に検知】ライダーの重心ズレと、IMU(姿勢センサー)による車体の一体センシングによって、車体&後輪スイングを制御。さらに自動でステアリングを切るが、後輪より介入の比率は少ない。システムの重さは40kg程度という。

1.0は前輪のみのアシストで大きくステアリングを切る必要があったが、前後アシストの2.0では前輪への制御が減り、動きが自然だ。

【激しくお尻を振って車体をキープ】常に少し揺れながら自立を保ち、バランスが崩れると大きくテールを振って倒れない。「乗っていて安心感が強い」とテストライダー。リヤの動きはほぼ違和感がなく、フロントは移動量が少ないものの、動きは感じるという。実験車両はNM4がベース。ホイールベースが長く、安定感が高いことが選定理由だ。

ホンダが宣言! 2輪&4輪が関与する交通事故の死者ゼロを’50年までに

ホンダは’21年11月25日の記者会見で「2輪&4輪が関与する交通事故死者を2050年までにゼロとする」という目標を掲げた。様々な安全技術が公開され、2輪自立機構もその一環だ。4輪では、運転中の脳の状態を把握することで事故を未然に防ぐ技術のほか、人工知能やネットワークによるアシストを公開。安全教育にも力を入れ、まずは’30年までに死者半減を目指す。

“自立するバイク”の動画はこちら↓


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