やっとモーターのコイルが暖まってきたところダゼ?!

自動走行バイク・HYハイテク戦争2017東モまとめ

“倒れない”自立&自走するバイクとして、アメリカの家電ショーで3つの賞を獲得した「ライディングアシスト」が日本に凱旋。この分野は、ホンダの独壇場と思われたが……何とヤマハも水面下で研究中だった「モトロイド」で対抗してきた。’15年に展示された「モトボット」のその後も含めて、「ハイテクHY戦争」の内容を紹介!

HONDA

アシモをバイクにインストール!?

’17年1月に行われた米国CES(家電ショー)で見せた驚異のバランス技術が、ついに国内でも目撃できた。傾きの検知や操作の判断に、ホンダ自慢の2足歩行ロボット=アシモのバランス制御技術を活用。さらに、ハンドルを切ると逆方向に車体が傾く特性を活かし、自動制御によるステアバイワイヤとフォーク角度の変更で自立を実現した。

CESでは、市販車のNC700Sにシステムを搭載したが、今回は電動のコンセプトモデルとして登場。可変キャスターなどのシステムはEVに合わせて若干チューニングしたが、基本的に前回と共通。NC系のフレームにバッテリーとモーターを搭載したクリーンな乗り物としている。

キャスター角を可変させ、トレール長を増大。さらにモーターでステアリングを切ることで、車体が起きる挙動を利用してバランスを保つ。3〜4km/h以下のみ介入し、それ以上では普通のバイクと同じ操作が可能だ。日本国内でのデモ走行は今回が初。会場では1日3〜4回実演予定なのでぜひ!
ヤングマシン2017年3月号のRiding Assistの解説記事より。

低重心のEVはバランス制御に有利

バランスの制御機構は、高重心のバイクでも問題ないが、やはり低重心の方がバランスを取りやすい。重量物であるバッテリーを下部に搭載したEVは、システムと前作以上にマッチしていると言える。実用化のメドは立っていないが、開発者は「コンセプトで終わりたくない。ぜひ市販化できれば」と意欲を見せる。大がかりなジャイロを使わず、システムがステアリング周辺だけで済むため、様々なモデルにも対応が可能。実用化すれば、立ちゴケや握りゴケを防ぎ、渋滞路の走行がラクになるなど、バイクがより身近になるはずだ。

相棒やペットのように動くことから、デザインは「犬」をイメージ。顔の上部に横一線で並ぶのはLEDライトだ。エンジン部分にはバッテリーを搭載し、その上の丸い部分がモーター。シート下にはモーターを冷却するラジエターを備える。従来は、両持ちスイングアーム+チェーンドライブだったが、片持ちのプロアーム+シャフトドライブに変更。左側面にはフタ付きの充電口もある。

■全長2080 全幅77m 全高1210(各mm)

YAMAHA

ホンダが前ならヤマハは後ろ

ヤマハの柳社長が声をかけると、自動でスタンドを払い、動き出すモトロイド。横から強く押しても下部のバッテリーを大きく左右に動かし、転倒を防ぐ。——特徴的なのは、その動きだ。動画を見てもらえば一目瞭然だが、ステアリングヘッドを支点に筒状の胴体&後輪が左右に回転。最大の重量物である下部のバッテリーを振り子のように揺らしてバランスを取る。ホンダのライディングアシストeがトレールを変化させつつ主に前輪を操作させて倒れないのに対し、ヤマハは後輪を左右にロールさせてバランスさせるのが最大の違いだ。2メーカーの思想が現れているようで興味深い。

モトロイドの開発コンセプトは、「UNLEASHED PROTOTYPE(常識からの解放)」。知能化技術を用いて、人とマシンが共響するパーソナルモビリティを目指す。顔にある2つのカメラで10m程度までの距離を認識。AIを搭載し、メモリーさせた人の顔とジェスチャーに応じて行動する。飼い主のアクションによってペットのようにカウルやシートカウルも稼働する。人が乗車する際はシートカウルが動いてライダーを包むようにフィットする。
通常のエンジンの部分にある銀色のボトルがリチウムイオンバッテリー。筒状の胴体部にひねりを加えるアクチュエーター、AI、IMU(慣性センサー)などを搭載。後輪のハブインモーターで前後に駆動する。

 基礎技術は10年前からあった

モトロイドの自律バランス制御機能は「AMCES」(アムセス)と呼ばれる技術。10年ほど前から基礎技術自体はあったが、実際の開発期間は約2年。AIはオープンイノベーションによるヤマハと他社の共同研究だ。障害物を避ける機能などは搭載せず、今後の課題となる。ただし自律するのは、あくまで停止〜低速状態のみ。それ以外では、普通に電動モーターサイクルとしてライディングできる。自動運転機能もなく、操る喜びは健在。新しい「人機官能」のカタチだ。

車名は、MOTO(バイク)とROID(〜のような)の言葉を組み合わせた。「03」は3号機の意味で、実際に1/5スケールの試作0号機から実験を重ねてきた。ダメージ加工の演出かと思われた車体のキズや擦れも実際に実験でついたもの。「開発中」という臨場感を出すために敢えて残している。ハンドルのトリガーは右がアクセル、左がブレーキ。スノーモービルと同様の操作方法だ。

新型モトボット、ロッシとの勝負の行方は?

ヒト型ライディングロボットのMOTOBOT Ver.2、モトGP界の生きる伝説、バレンティーノ・ロッシ。2人のサーキット対決の動画が会場で初公開された。来場者が固唾を飲んで見盛る中、勝負は約32秒差でロッシの勝利に終わった。——モトボットは、ノーマルのYZF-R1を人型ロボットが走行させるという自動運転の逆アプローチ。車両情報を元にハンドル、アクセル、クラッチ、ブレーキを自律操作するものだ。’15年当時は100km/hの直進走行、スラローム、旋回などを達成。’17年のバージョン2における目標は、200km/h超のサーキット走行、ロッシとのサーキット勝負だった。ロッシには敗北したものの、200km/h超を見事実現している。

ボディはフルカーボン製に変更し、50→45kgにダイエット。従来はアルミの骨格を樹脂で覆っていたため「たわみ」が生じたが、カーボンを外骨格とすることで軽量化と高剛性を両立した。各種操作を行うアクチュエーターは、よりダイレクトな操作を行うため、肘→手首に設置位置を変更。カメラは搭載せず、事前にインプットしたコースレイアウトと理想的な走行ラインを元に、シミュレーションを重ねていった。

ロボットの強みを活かして進化

当初、バージョン2では加重移動を検討していたが、研究を進めるうちに公道用タイヤを使った200km/h以下の領域ではカウンターステアのみで曲がっても大差がないことが判明。これは従来のライテクを覆す発見かも知れない(?)。また、ロッシのデータも参考にしたが、人間とロボの動きが違いすぎるため、ほぼ採用していないと言う。逆に、「壁際でも恐怖心がない」「一定旋回が得意」といったロボットの強みを活かす方針としている。また簡単なAIは搭載しているが、カメラは非装備。AIの高度化や視覚情報の獲得で、より臨機応変な動作が可能になるだろう。

今後も開発は継続、リベンジの可能性も

これで目標だった3年の研究期間は終了。研究成果をベースに、より速さを求めるのか、実用的な方向に向かうのか方針を検討し、研究を継続していく。人が行けない災害および危険地帯などへの自動走行も考えられるが、開発者は「ロッシに負けてくやしい!」とリベンジにも情熱を見せている。


今回、ヤマハは東京モーターショーで2つのロボを展示したが、低速域はモトロイド、高速域はモトボットという棲み分けが見て取れる。開発チームは別だが、積極的に情報交換しているというから、開発は一段と加速するだろう。2つのロボの動向が今後も楽しみだ。

総括

ホンダ、ヤマハとも2輪メーカーらしく、クルマのような「自動運転」とは違うカタチで、バイクの自立&自走、運転支援の未来を見せてくれた。ここでポイントなのは、「バイクの本質=人間が操る楽しさ」を犠牲にしていない点だ。サスガというか、ライダーとしては安心したところでもある。「市販化」という観点からすると、コンパクトで汎用性が高いホンダのライディングアシストが最も現実的とは言えそう。とはいえ、複数のメーカーから自立バイクが公開されたこと自体にワクワクする。ホンダの担当者が、ヤマハの展示について「素直にうれしい。多くのメーカーが参入することで、自立バイクが実現する流れができる」とコメントしていたのが印象的だった。
——4輪の自動運転が加速する中、2輪にどんな支援システムが盛り込まれるのか、あるいは今のアナログを突き進むのか……注目せずにはいられない。

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